明王の掌中。

竹尾 錬二

第1話

 生き残った者が勝者などという戯言、最初に口にしたのは、一体誰だ。

 家宝の廣光が自慢の切っ先を骨で毀しながら奴の左の顔面を撫で、肩口の骨を断ち割って、心の臓に欠けた帽子を埋めたのを掌の裡で感じた。

 奴は、嗤っていた。必至を賭けて正中を狙った太刀先を退屈げに左に逸らし、譲ってやるかとばかりに脱力した体に鋼を蔵したのだ。

 逝ってくれるな。こんな形でお前との決着を終えたくはない。そう手を伸ばすより、奴の血飛沫が吹き上がる方が早かった。

 滴り落ちた血潮が、刀身に掘り込まれた大俱利伽羅を赤く染めた。世の人々は見事仇敵を討ち果たしたと讃えるだろう。

 だが、神仏に真の決着は偽れぬ。赤い俱利伽羅がじっと俺を見つめている。

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明王の掌中。 竹尾 錬二 @orange-kinoko

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