討伐の日、町に残る者たちは


 微妙に鼻が詰まり声が出ないコト以外はだいたい復活٩( 'ω' )وお待たせしました!


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 シダキ・マーク・ドルトンドはその光景を見て、すでに決まっていた覚悟と決意が、完全に決まった気がした。

 この期に及んでまだ自分の中に僅かながら残っていながらも、家と国の為に押し殺していた迷いも、完全に消えたことだろう。


 同時に――絶対に息子が町に何か仕込んでいるだろうと考えて、討伐隊を追いかけなくて良かったとも思った。

 ここを納めてから追いかけても、恐らく問題はないだろう。


 ともあれ、シダキは静止した女性に意識を向ける。


 その女性は、恐らくバカ息子の持つ魔剣の影響を受けているのだろう。

 友をその手に掛けようとしてた彼女からナイフを奪い取り、足を払う。


 意志と行動が一致していないせいで動きが悪いが、転ばした女性の身体捌きは酒盗機関の護身術を思わせる。


(こんな人がいた記憶がないのだが……)


 あるいは、酒盗機関の人間が彼女に護身術として教えただけの可能性もあるが。


(いや、そんなコトより今は……)


 転ばせた女性の安否を確かめつつ――人々の視線に映らぬよう楔剥がしを取り出す。

 そして口の中で小さく「光よ」と唱え、縫い針ほどの刀身を作り出すと彼女に突き刺した。

 すぐに「闇よ」と唱えて刃を消すと、柄をしまって立ち上がる。


 そして、振り返りながら告げた。


「ヤレイヤ・ラック・モブーノ。

 君は、討伐隊員ではなかったのかね?」

「誰だ……お前ッ!?」

「お忍び姿で申し訳ない。そして名乗る気もない。

 だが、私は王家からの勅命を受けて、この町にいるというコトだけは告げておこう」


 威圧的に告げるヤレイヤだが、シダキは気にした様子もなく、もう一度口にする。


「さて、改めて問うが、君は討伐隊ではないのかね?

 その制服を着ている者は全員、討伐に出かけたのだと思っていたが」


 逆にシダキが威圧を放ち返しながら問えば、ヤレイヤは姿勢を正して答えた。


「じ、自分はその……万が一の為の補欠でして……」

「ふむ。私の手元にある資料にはそのようなコトは書かれていなかったが?」

「え、あ……」

「そもそも、討伐隊の第一隊にも第二隊にも君の名前を見た記憶がない」


 漠然と状況がわかってきたルナサは、傍観しながらも周囲の警戒をしていた。

 ストロパリカと同じように、誰かがここへ襲いかかってくる可能性があるのだ。


 それに――


「おじさん。そいつの追求はほどほどでお願いできます?

 むしろ、ストロパリカさんを操ったっぽいその指輪。まずは回収して欲しいんですけど」

「なるほど、一理ある」


 思ったよりも自分は冷静ではないのかもしれない。

 そんなことを思いながら、シダキはルナサにうなずく。


 ルナサの懸念は正しく、テテナがダガーを抜いて、こちらへと躍り掛かってくる。


 シダキは即座に反応するが、事前に構えていたルナサの方が僅かに動き出しが早い。


 それを見、シダキは彼女に任せることにした。

 まだ若いが動きに迷いがない。まだ拙いながらもどこか酒飲み仲間を思い出す動きに、シダキは胸中で僅かに微笑む。


「守護する亀の鋼鉄甲羅こうてつこうらッ!」


 ルナサが掲げた手の前に亀の甲羅を思わせる盾が発生し、テテナの攻撃を受け止める。


 そして視界の端に、友人が手を振っている姿を見たルナサは盾を解除すると同時に、テテナへと蹴りを放った。


「あ……!?」

「言っておいたからね。目が曇ったままなら、貴女を撃つって」


 蹴られた腹部に手を置きながら膝をつくテテナ。彼女は続くルナサの言葉に、うめきながらも顔を上げた。

 ルナサの右手は、テテナへ向かって真っ直ぐに掲げられている。

 ためらいなく自分に狙いを付けて魔力帯を展開している友人の姿に――テテナは漠然と自分に足りないものを理解できた気がした。


「風呼ぶフクロウの大合唱ッ!」


 直後、猛烈な風が解き放たれてテテナは宙を舞う。

 テテナはそのまま地面に叩きつけられ転がり、俯せに倒れた。


 倒れたテテナの頭の上から、ルナサではない少女の声が降ってくる。


「くやしいとか悲しいと思うなら、しばらくそうしていてください」


 聞き覚えはあるが、頭が働いていないのからか――それが誰の声か分からない。だが、ルナサに迷惑を掛けたくないと思ったテテナは、その言葉に素直にうなずいた。




 ルナサは、テテナが吹き飛んだ先でミーティが声を掛けているのを見、即座に背を向けた。

 今日ミーティとは会っていなかったが、ここから見る限りは例の違和感を一切感じない。


 だから、友人を信じてルナサはするべきことをする為に、顔を上げる。

 見据えるべきは、ヤレイヤと呼ばれた貴族だ。


「わたしは、例え自分が不敬で処刑されようと、貴方を殺す覚悟は出来てるから」


 シダキに威圧され縮みあがりだしているヤレイヤへ、ルナサが告げる。


「全く……君のようなお嬢さんにそこまで覚悟をキメさせてしまうなんて、おじさんもまだまだだな」


 瞬間、どこかのんびりとした雰囲気だったおじさんの姿が掻き消えた。気が付けば、ヤレイヤの背後に回りその指輪を付けた手首を掴んでいる。


「ぎゃあああああ!?」


 そして、どうせ暴れて抵抗されるなら――と乱暴に指輪を引き抜く。

 明らかに指が不自然な方に曲がっているが気にしてなさそうだ。


 それから周囲を見回して、シダキはミーティを見つけると声を掛ける。


「そちらの暴れた女性を介抱しているお嬢さん。

 先日、工房でお会いしたね? 君も魔導技師かな?」

「見習いですけどね」

「十分だよ。あそこの出入りを許可されているというだけでね」


 ミーティとおじさんのやりとりを横で聞いていたルナサは、この男性もバッカスの知人なのだろうと理解した。


てもらえるかい?」

「本職に比べるとイマイチですよ?」


 投げられた指輪を受け取りながらミーティがそう口にすると、シダキは笑う。


「能力よりも、信用や信頼の話だよ。

 あの工房に出入りを許可されている者以外に、視てもらいたくなくてね」


 そういうことなら――と、ミーティが受け取った指輪を調べる。

 そして、即座に眉をひそめた。


「これ、魔剣だと思います……ただ」

「ただ?」

「何て言えばいんだろう……魔剣の子供? みたいな感じです。

 たぶんですけど、人を操る為の呪いは親魔剣しか使えないんですが、すでに親魔剣の影響を受けている人なら、この子魔剣で操れる感じ……かな、と」

「なるほどな……」


 ミーティの説明を横で聞きながら、今度はルナサが眉を顰めた。


「ねぇミーティ……それって、ゾンビ化の魔剣と同じってコト?」

「あ! 言われてみれば! うん。たぶん近いと思う!

 増殖した方の剣を子魔剣と呼べるなら、そうかも!」


 自分の思いつきをミーティに肯定され、ルナサは口元に手を当てて黙り込む。


「根っこは同じ……と考えているかい?」

「はい」


 おじさんの問いかけに、ルナサは素直にうなずいた。


「迷惑を掛けるだけ掛けて、責任を取る気のない感じとか、同じ人の作品かなって」

「確かに似た空気はあるね。君、鋭いじゃないか」


 好々爺こうこうやの顔でそう口にしながら、シダキは胸中で誰とも知れぬ制作者を睨みつける。


「面白い話をしてるじゃない」

「あ。ムーリーさん」

「その指輪、アタシが見ても?」


 そこへ新たに現れた男に、シダキは少し目を眇めた。


「失礼ですが、貴方は?」


 警戒しているシダキに、ミーティは慌てて紹介する。


「この人はムーリー・クーさん。バッカスさんも認める魔剣技師さんです」

「ほう! あの気難しい男が認めているのか! 是非とも見て貰いたい」

「ふふ。では、失礼して」


 バッカスの名前を聞くなり信用してくれた男性に、ムーリーは美しく微笑みながら、ミーティから指輪を受け取った。


 そして、次の瞬間――美しい笑みを浮かべていた顔は、嫌悪に満ちた表情に歪む。


「なるほどねぇ……ルナサちゃんの推測は大当たり。

 作者が同じよ。この魔剣とゾンビの魔剣。術式のクセというか、魔力の流し方というか、そういうのがソックリ」

「この淀んでるような魔力って、子魔剣特有のモノなんですかね?」


 ミーティの問いに、ムーリーはうなずく。


「そうだと思うわ。どういう原理かは分からないけど、親魔剣から能力の一部を複製し切り離す。そうやって子魔剣を精製するんでしょうね。その過程で、子魔剣が内包する魔力が歪むんじゃないかしら」


 技術としては素晴らしいのだが、その用途が最低すぎる。


「それにしても、討伐隊の悪い子ちゃんってどうやってこの剣を手に入れたのかしら? その効果はともかく、技術的には結構なシロモノよ。簡単に手に入るモンじゃないと思うけど」


 ムーリーが首を傾げた時――


「ぎゃああああ!!」


 ヤライヤの悲鳴が響きわたる。


 何事かとムーリーたちがそちらを見れば、人の良さそうなおじさんが、ヤライヤの両膝を砕いていた。


「ええっと、おじさま。何をなさっているのかしら?」

「逃げだそうとしてたので。拘束具がなかったので応急処置です」

「応急処置って言葉の使い方、大丈夫? これって合ってる?」


 思わず疑問が口に出るムーリーに、シダキは気にした様子もなく告げる。


「ムーリー殿でしたね。申し訳ないのだが、指輪とこの男を領主様の元へと届けて頂けないかな?

 お嬢さん方も、此度の騒動の説明役として、彼についていって頂きたい。私は私の仕事が別にあるものでして」

「アタシは構わないけど、お嬢ちゃんたちはどう?」

「わたしも構いません」


 シダキの言葉にムーリーとルナサはうなずき、ミーティは首を横に振った。


「ごめん。ムーリーさんと一緒に行くのはルナサだけにしてもらえないかな?」

「どうして?」

「ストロパリカさんとテテナさんを工房に連れて行こうかなって。手当が必要だけど、ただの手当だとダメだから」

「アイツ、留守でしょ?」

「こういう時の為の合い鍵は借りてるんです」


 ルナサは目を眇めるが、ムーリーとシダキはどこか理解したような顔を浮かべている。

 それを確認したからこそ、ルナサは素直にうなずいた。


「了解。そういうコトならそれでいいわ」


 話が纏まったところで、シダキはルナサ、ミーティ、ムーリーに一礼する。


「ではすみませんが私はコレで」


 そうして去っていく彼を見送ってから、ルナサたちや野次馬たちは、それぞれに動き始めるのだった。


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 明日以降に更新が無かったらぶり返したんだと察してください…

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