第二騎士隊と、燃えやすい芋の話 6


 口の中がパチパチする――と騒ぐ騎士たちの様子が気になったムーリーが、爆竹飴を口に運ぶ。


「これって……!」

「面白いだろ? 口の中で弾ける飴だ。パチパチするだけで毒とかじゃないから安心してくれ」

「新感覚がすぎるわ……でも、子供は好きそうね」


 驚いているムーリーとは真逆に、クリスはそれを楽しむかのようにバッカスの元にやってきて、告げる。


「(ぱちぱちぱち)バッカス(ぱちぱちぱち)おかわり(ぱちぱちぱち)あるかしら(ぱちぱちぱち)?」

「口の中の飴が全部消えてからな」


 口から飴の弾ける音を大量に垂れ流しながら器を差し出してくるクリス。

 それを受け取りながら、バッカスはとりあえずクリスの口の中から聞こえてくる爆竹飴の合唱が鳴り止むまで、待つのだった。




 そうして和やかな空気になった中、バッカスは申し訳なさそうに騎士たちへと向き直る。


 芋を処理したかったのは事実だが、同時に第二隊に情報を流しておきたかったのだ。むしろ、この会はこちらが本命ともいえる。


「楽しく盛り上がってきたところで悪いが……ここに集まった騎士たちと、剣付きゾンビバッツ・デッドロウズに関して共有しておきたいコトがある」


 次の瞬間、第二隊の騎士たちも、領衛騎士たちも顔つきが代わりバッカスを見た。


 クリスも口からパチパチと音をさせながら、シリアスな顔をしてこちらに視線を向ける。


 騎士たちが自分に注目しているのを確認してから、バッカスは領主コーカスへと視線をむけた。

 領主にはすでに報告済みの内容だが、どこまで共有して良いのか分からない。


 そんなバッカスの意図を理解して、コーカスも口からパチパチと音をたたせながらうなずいた。

 バッカスが明かせる範囲で明かしたい内容を明かせば良いという顔だ。口を開かないのは、爆竹飴が口の中に残っているからだろう。


 いっぺんに大量に食うなと警告したのに、それなりの量を口に含んだ可能性がある。


 ともあれ、許可が貰えたのだ。

 バッカスはこの場で、剣付きゾンビバッツ・デッドロウズの特性と、大本であろう混縫合ルオハグ・屍剣獣ネシエルプスの存在を語る。


 また楔剥がしエグベウ・ラボメルは、剣付きゾンビバッツ・デッドロウズの剣にも有効だったので、領衛騎士に二本、第二隊に三本手渡した。


 さらに、剣付きゾンビバッツ・デッドロウズに刺さった剣を探す、探知の魔導具も三つほど持ってきていたので、第二隊へと渡す。


 その上で、バッカスは告げる。


「第一隊には悪いが、俺は連中に微塵の期待もしていない。

 俺はあいつらに魔導具を貸し出すつもりもない。それらを使用するところを、不必要に第一隊に見られないように気をつけてくれ」


 ざわつく第二隊。

 納得顔をする者もいれば、複雑そうな顔をしているものもいる。


 だからだろう。

 口の中の爆竹飴を完食した領主コーカスが口を開く。


「第一隊の隊長であるシムワーン殿は、騎士団上層部からその資質を疑われている。

 今回の派遣は、彼の資質の最後の見極めの場でもあるのだ。

 そして騎士団長の顔見知りであり、彼からの信頼の篤く、何でも屋ショルディナーとして今回の討伐作戦に参加してくれるバッカスが、見極め役として選ばれている」


 表面だけとはいえ、裏事情を語り出すコーカスに、バッカスは非難めいた視線を向ける。だが、彼は任せておけとばかりに笑って返してみせた。


「初日からすでにバッカスにそっぽを向かれているコトから、その見極めがどうなっているのかは、予想できるのではないかね?」


 ざわめきが大きくなる。だが、大半は納得の様子が見て取れることから、第一隊に集まった者たちがどう思われていたのかよく分かる。


「納得いきませんッ!」


 そんな中、一人の女性騎士が前に出てきてバッカスとコーカスの元へとやってくる。


「どうしてそこまで第一隊を悪く言うのですかッ!?」


 その女騎士を見ながらバッカスはクリスの名前を呼んだ。


「クリス」

「光よ!」


 クリスは心得た――とばかりに自分の楔剥がしを起動して女性騎士を切りつける。


「え?」


 突然の出来事に目を見開く女性に、バッカスは訊ねる。


「ところで、連中を悪く言っちゃならん理由はなんだ?」

「え? 何でって……あれ? 何ででしょう? 自分もあまり彼らのコトは好きではないのに……。何だか悪く言われるのが非常に腹立たしくて……シムワーン隊長にこの集会の話をしないとって……する必要ないですよね」


 自分の行動が理解できず不思議そうにしている女性騎士を示しながら、バッカスは告げる。


「俺が連中を信じられない理由はこれだ。

 あいつらは、女の精神に作用する呪いを用いる。そしてその呪いは見ての通り、楔剥がしを使えば解呪できるから、ゾンビ戦以外でも役立ててくれ」

「え? では自分は……」

「第一隊と第二隊は仲良くできないのは目に見えてたからな。

 第二隊に都合良く女がいたから、呪いをかけて内通者にしたかったんだろうよ。なんなら夜に呼び出して夢を重ねる相手にでもしたかもな」

「…………」


 スコンと女性騎士の表情が抜け落ちた。

 だが、身体は小刻みにふるえていることから、恐怖ないし怒りが彼女の感情を支配しているのだろう。


「すでに町の中でも何度か使われている形跡があった。信じろという方が無理だ」

「あやつらは、町の女を都合の良い盾として使うかもしれんしな。

 私もバッカスと同意見であり、表向きはともかく、内心としてはやつらを討伐派遣隊として認めていない」


 おいしい料理を提供し、魔導具まで貸し出してくれたバッカス。

 この地の領主であるコーカス。


 二人がここまで口にしている以上、第二隊から言うことはなにもない。


 そして、そこへシュルクが告げる。

 決して大きい声ではないながら、しっかりと通る芯の強い声で。


「お前たち。難しく考える必要はない。

 我ら第二隊は二人から信頼されている。ならばその信頼に応えるまで。

 領主ミガイノーヤ卿はもちろん。

 美味しい食事に、野営に役立つ知識を教えてくれ、さらに魔導具まで提供してくれたバッカス氏からの信頼に応えずして、騎士と言えるか?

 我らは討伐隊として派遣された。ならば与えられたその仕事を正しくこなす。それこそが、受けた恩と信頼を返す唯一の手段だ」


 そこで、シュルクは拳を掲げながら静かに問う。


「違うか?」


 次の瞬間――第二隊だけでなく領衛騎士も、そして先ほどから無表情で固まっていた女性騎士も拳を掲げた。


 そして、女性騎士はバッカスとコーカスに真剣な表情を向ける。


「ミガイノーヤ卿、バッカス殿。

 第一隊に関する評価、しかるべき場所へ正しくのご報告をお願いいたします」


 コーカスは大仰に、バッカスはこめかみの辺りを指でこすりながら軽い調子で、双方に了解の意を示す。


 それに安堵したような顔をする女性騎士は、きびすを返すと騎士たちの輪の中へと戻っていくのだった。


(さて、明日からはコトが終わるまで、のんびりと……とはいきそうにねぇな。

 あー……やだやだ。昼行灯で飲み食いしながらモノ造ってるのが気楽でいいんだがなぁ……)


 だが、明日からの日々はそんな昼行灯な日常を取り戻す為のものだ。


(前に造って放置してたアレ、意外と役に立つかもな)


 そして気に入っている町を守る為でもある。


「バッカス」

「ん? どうしたコーカスのおっさん?」

「面倒をかけるが、頼む」

「まぁいつものように、ほどほどにがんばるさ」


 シュルクの言葉に一時は沸いたものの、それが長らく持続することはなく。


 みながそれぞれに、残った芋料理を食べながら雑談に興じ出す。


 こうして、爆弾芋を食べる会は、皆が雑談に興じる中で、ゆっくりと幕を下ろしていくのだった。


「バッカス(ぱちぱちぱち)、おかわりは(ぱちぱちぱち)まだある?」

「……もうねぇよ」


 生のジャガ芋は多少腕輪に残っているが、クリスが食べれる料理が全てなくなってしまったのは事実である。



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魔剣技師バッカスをいつもお読み頂きありがとうございます。

ほぼ毎日更新をしてきた本作ですが、年内の更新は本日でラストとなります。

年始は1/5頃から連載再開の予定です。来年もよろしくお願いします。


次の更新までお暇でしたら、おいらの書く他の作品なども読んで頂けたら幸いです。


では、皆様良いお年を!٩( 'ω' )و

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