厄介ごとの、ミルフィーユ 1
モキューロの森。入り口。
「悪いな、ロックたち。朝っぱらから付き合って貰っちまって」
「いいさ。こちらも気にはなっていたからな」
中肉中背で甘いマスクをした剣士、ロック・ワーリズミが答える。
前世のバッカスが十代くらいの頃であれば、ゲームの主人公を張れただろう見た目をしている男だ。
そして、彼が率いているパーティメンバーが、さらにその背後にいる。
小柄な筋肉だるまにして、大盾と小盾の二刀流(?)スタイルのおっさんサンタス・イスタ。
安定感のあるタンク役。寡黙ないぶし銀だ。
軟派で二枚目なメガネ男子の弓使いイスキィ・ウィーク
ナルシスト気味なのが鬱陶しい時はあるが、腕は確かだ。
常にやる気がなさそうで、気怠げな顔をしているダウナー系斥候アイク・シングギス。
何かに付けて面倒くさがるが、いざ仕事となれば面倒くささを隠すことなく完璧な仕事をしてのける。
斥候としての腕前なら、ケミノーサを拠点としている何でも屋の中でも最上位に近いと言って過言ではないだろう。
バッカスは彼らに、モキューロの森いに付き合ってもらっていた。
「それでバッカスさん。僕の美的感覚と絶望的に一致しないゾンビが溢れるこの森に、何の用かな?」
「確かにな。単に森を調べるだけならお前だけで十分だ。わざわざこんな面倒なコトに頼むワケがない」
イスキィとアイクの疑問はもっともだ――と、バッカスはうなずく。
「こいつの試運転がしたくてな」
そう言ってバッカスが取り出したのは、懐中時計のようなモノ。
それを、ロックたち全員に手渡す。
「これは?」
みんなを代表するように訊ねてくるロックに、バッカスは自分の分を取り出しながら説明する。
「あの折れた刃を探知する魔導具だ」
「ゾンビを探す道具というコトか?」
サンタスの言葉に、バッカスは少し違う――と首を横に振った。
「あの刃の持つ独特魔力反応を探すモノだ。
基本的にはゾンビばかりが引っかかるワケだが……」
「そうか、大本を探ろうというワケだな」
いち早く理解したアイクの言葉に、バッカスはうなずく。
「今日、午後になれば騎士が町に着く。
問題を起こしそうな騎士も混じっているという情報もあるから、
バッカスの言い回しに、何か感じ取るモノがあったのか、イスキィが訊ねてくる。
「ずいぶんと警戒してるじゃないか、バッカスさん。
その好き勝手やりそうな騎士というのはよっぽどなのかな?」
「女の精神に干渉する魔剣を持っている。ヘタすると町中の女が、問題児に惚れちまうかもな」
「それは聞き捨てならない話だね。そのような方法でハーレムを作ったところで面白くないだろうに。やはり女性には自らの意志で惚れて貰わないとね」
「別にハーレムを作る気なさそうだけどな」
イスキィの言葉の後半を無視する形でバッカスは告げた。
「そんな剣を持っていてハーレムを作る気がない?」
不思議そうな顔をするイスキィにバッカスはうなずいた。
「気の強い女、プライドの高い女……まぁそういう類の強い女を、その魔剣のチカラで自分に惚れさせ、自分に依存するまで精神をグズグズに溶かしてから捨てるのが趣味なんだよ」
さすがのイスキィもへらへらした表情が消える。
気怠げな顔が常のアイクすら、真顔になって顔をしかめた。
ロックやサンタスも同様だ。
険しい顔を浮かべている。
「クリスちゃんたちのコトが心配か?」
「まぁな。それもある。顔見知りの女どもときたら、問題児が好みそうな連中ばっかりだからな」
ロックの問いに、バッカスは素直に首肯した。
「そんなワケでちゃちゃっと試運転したいんだ。
問題児のいる部隊とは別にマシな奴が隊長をしている部隊も来るみたいだからな。そっちには、この魔導具を貸し出す予定でね」
「時間がカツカツすぎやしないか?」
呆れたようなサンタスに、バッカスは小さく苦笑する。
「先週からストレイの義手を作りつつ、問題児が発覚した時点で対策の魔導具を作りつつ、これに着手しててな……そろそろ労働手当がほしいところだ」
「よくそんな面倒な生活ができる」
「やろうと思えば出来ちまうから、やっちまうのさ」
アイクもまた呆れた顔を向けてくるが、バッカスは肩を竦めるだけだ。
「さて、使い方を説明する……と言っても、
ロックとアイクが説明の通りに、魔導具を起動させる。
二人の脇からそれぞれイスキィとサンタスがのぞき込む。
「一見すると方位磁針だな」
「この光っている点が、ゾンビ――というより刃か」
「そうだ。
そして、基本的に中央の針は常に北を向く。
ただ、横にあるボタンを押すコトで、自分が向いている方向を常に指し示すように切り替えられる」
「あとはこの反応のある場所にいき、ゾンビを倒すか大本の何かを回収ないし破壊するか……だな」
「そういうコトだ。
それと……これには、ゾンビ――というか
心得ている――とうなずくロックたち四人に心強さを感じる。
「手分けしすぎない程度に、バラけよう。
なにが起きるか分からないから、お互いすばやくフォローし合える距離を保つぞ」
ロックの言葉に、バッカスはうなずく。
こうして、五人はモキューロの森の中へと入っていくのだった。
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