男はみんな、立派な魔剣を持っている 10


 本作の書籍化&コミカライズが決まりました٩( 'ω' )و

 応援して下さった皆様、ありがとうございます!

 これからも、よろしくお願いします!!


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「バッカス、来たぞ」

「待ってたぜ、ストレイ」


 ランチが終わったあと、ストロパリカはクリスを半ば無理矢理連れ立って工房を出て行った。


 ルナサとミーティも報告した時点で用事が終わりなので、食事を終えると帰って行く。バッカスとのやりとりをライルに報告する必要もあるからだろう。


 そうしてバッカスが一人になったわけだが、もともとここはバッカス専用の工房である。


 それに、午後からはストレイが来る予定だったので、人がいないのはちょうど良い。

 ミーティにもう一度暴走されても面倒だ。


「そこの椅子に座っててくれ。ちょっと用意するモンがある」

「わかった」


 中へ招いたストレイにそう告げて、バッカスは工房の奥にある部屋から、義手を二種類持ってくる。


「二つあるのか?」

「まぁな」


 一つはシリコンとプラスチックを組み合わせ、さらにいくつかの素材を合わせて皮膚を再現した見た目は完全に生身である義手。


 もう一つが、いかにも金属で出来てますという見た目の、ガントレットにも見えるような義手。


「まずこっちの本物っぽい奴。日常使い用だ。

 軽量で日常の動作がしやすいように調整してある。

 ただ強度なんかも日常用でな。鍛えてない成人男性の手と変わらん」

「日常動作ってのは何を指す?」

「わかりやすいところで、モノを掴む――とかだな。

 それこそ地面を歩いているアリも潰さず掴めるし、カトラリーなんかも丁寧に扱えるぞ」

「そいつはいい」


 魔導義肢そのものはすでに存在しているが、どうしても精密動作がしにくいモノが多い。

 足であればそれでもまだ問題が生じづらいかもしれないが、手――特に指先の細かい動作やチカラ加減がどうしても難しいモノが多いのだ。


「こっちの金属の方は、戦闘用というか仕事用が近いか。

 見た目は一般的な義肢に近いモノだが、これも日常用と同じ術式を組み込んであるから、精密動作が可能だ。

 少し重いのが欠点だが、強度が高く、拳を握ってモノを殴っても壊れない。義手に仕込まれた術式が、お前の魔術行使を邪魔するコトもない。しかも隠し武器を仕込むコトも可能だし、なんなら切り札も仕込んである」

「仕込まれた切り札は親切心とかじゃなくて趣味だろ」

「そうとも言うな」


 ストレイのツッコミに悪びれもなくうなずくバッカス。

 その様子に呆れながらも、ストレイは真面目な声色で問う。


「何であれ使い分けできるのは願ったり叶ったりだが、価格はいいのか?」

「予算内に納めつつ、色んな試作を詰め込んであるんだ。だから不具合も多少でる恐れがあるのと……あとはまぁこっちからの試運転依頼込みで、最初の価格で構わないぜ」

「助かる」


 深々と頭を下げるストレイに、バッカスは皮肉げないつもの笑みを浮かべた。


「気にすんな。お前さんにリタイアされると、俺の何でも屋業務が増えそうだからな」

「それでも助かるコトには変わりない」

「そうかよ」


 バッカスはぶっきらぼうに返しつつ、銀色のフタのようなものを取り出す。


「つけるぞ」

「頼む」


 そのフタは、この義手用の魔導輪具パレットリングだ。

 魔導輪具であると同時に、義手を繋ぐ為のジョイントでもある。

 これを魔導蓋具パレットカバーという。


「この魔導蓋具を肉体と繋ぐ時に、数秒ほど激痛が走る。

 大の大人でも泣きわめくような痛みだ。布でも口に入れるか?」

「そのままやってくれ」


 ストレイの言葉にバッカスは肩を竦める。

 この魔導蓋具は、魔導義肢を使う人はみな付けているものだ。

 その先人たちの感想を聞いてなお大丈夫だというのであれば、バッカスもそれ以上は何も言わない。


 切断面を包んでいた布を外し、そこに特殊な塗り薬を塗る。

 その上から、魔導蓋具をかぶせると、バッカスは術式の起動準備をした。


「ストレイ、彩技アーツを使う要領で、カバーに魔力を通せるか?」

「……ちょっと待ってろ……うん。出来そうだ」

「合図をしたら、カバーへしっかり魔力を通せ。

 カバーの魔力とお前の魔力が結びついた瞬間、激痛が来るから覚悟しとけよ」

「了解だ」


 そして、バッカスは術式を起動させ魔導蓋具の魔力を操作する。


「いいぞ」

「よし」


 ストレイの魔力が魔導蓋具に流れ込んでくるのを確認。


「繋ぐぞ」


 バッカスは、ストレイの魔力と魔力蓋具の魔力を繋げる為の術式を発動させる。


「ぐぅぅぅぅぅぅ……ッ!?」


 叫ばずに歯を食いしばって耐えたのはストレイのプライドか。

 ともあれ、数秒間うめき続けたストレイは、痛みが落ち着いてくると、ぐったりと肩で息をしている。


 その姿に苦笑しながら、バッカスは魔導蓋具の具合を確かめた。

 どうやら問題なく定着したようだ。


 息が整ってきたストレイに、バッカスは皮肉たっぷりな顔で訊ねる。


「感想は?」

「素直に布を借りておけばよかった」

「だから親切に聞いてやったんじゃねーか」

「ここまでとは思わなかったんだよ」

「ちなみに、このやりとりって良くあるんだよな。どいつもこいつも、俺なら耐えられるとでも思うらしくてな」

「くっそー……その通り過ぎて反論できない」

「ちなみに定期メンテが必要だから、最低でも一年に一回はカバーの付け外しするぞ」

「マジかよ」


 一年に一回はこの痛みを味わうのか――とストレイは顔をひきつらせた。

 気持ちは分かるが、魔導義肢は精密魔導具でもあるのだ。メンテナンスなしで使われ続けるのは、技師としてもやめてもらいたいところである。


「こればかりは仕方ないコトだ。あきらめろ。

 特別価格で、メンテ代は格安にしといてやるからよ」

「うーん、そう言われると文句も言えないよな」

「一年に一回と言わず、気になるコトや違和感を覚えたら必ず相談しろよ? 別に俺じゃなくてもいいんだ。治療院の医術師とかで構わねぇから」

「わかった」


 本当にわかってるのかね――とぼやきながら、バッカスは日常用の義手を手に取る。


「それじゃあ、それぞれを試しつつ、色々説明するぜ」

「頼む」


 ・

 ・

 ・


「――とまぁこんな感じだな。質問は?」

「すごい……としか言いようがない。まるで本物のように感触があるなんて……」


 戦闘用の義手をわきわきと動かしながら、ストレイが興奮している。


「最新型だよ。まぁ試作型とも言うけどな」

「オレも多少は魔導工学をかじっていたつもりだが、仕組みがまったくわからんな」

「そう難しいもんでもないさ。暇なら今度教えてやるよ。

 今のところ欠点といえば、頭に魔導輪具を付けなきゃならんコトかな」

「それは帽子なりバンダナなりで隠せばいいさ。

 それより、頭の魔導輪具が壊れたらどうなる?」

「感触がなくなるだけだ。動かすコトはできる」

「なるほど。さも、義手のコアですって扱いにしておくと、初見の相手を騙せるか」

「絡め手前提で考えてんじゃねーよ」


 バッカスは苦笑するものの、使い方は好きにすれば良いだろう。


「この革袋も付けておくよ。収納術式は使ってないからあしからず」

「それは残念だな」

「これは耐衝撃性が高まる術式を刻印してあるだけだ。義手を持ち運ぶ時はこれに入れておけ」

「つくづくサービスが行き届いてるな」

「顧客を逃がさないコツってな」


 ストレイは革袋を受け取りながら、バッカスの皮肉げな笑顔を見る。

 口ではなんのかんの言いながら面倒見が良く、生真面目な気質だからこそ、顧客が逃げていかないのだろうな――などとストレイは考える。


「しかし、存在しない部位に感触を付与するなんて、よく思いついたな。どういう発想力があれば出てくるんだ?」

「あー……ストレイ。それ聞いちゃう?」

「え? なんだ? 聞いたらマズい奴なのか?」

「うーん、別にマズくはないが、気まずくはなるかもしれない」

「は?」


 首を傾げるストレイ。

 バッカスもどうしたモノか……と考えていると、新たな声が聞こえてきた。


「あたしは聞きたいでーす!」

「ブーディ!?」


 どうやら気配を消して工房に入ってきて、物陰で様子を見ていたようである。


「うちの工房に遊びにくる腕利きの女は気配を消して入って来なきゃいけないってルールでもあんのか?」

「いやなんかさすがに腕を付けるのを邪魔したくなくて」


 だからといって気配を消して工房の中に入ってくるのはどうだろうか。


「今まで黙ってたのは?」

「声を掛ける機会を逸してて」


 テヘペロっと舌を出すブーディに、バッカスとストレイは嘆息する。


「まぁいい。ぶっちゃけて良いなら話すぜ?」

「一応聞いておくか。聞かないとブーディがうるさそうだ」

「そうそう。わかってるじゃないストレイ」


 好奇心は猫を殺す――前世の言葉をなんとなく思い出しながら、バッカスは、遠回しに告げた。


「キッカケは魔剣の依頼だよ。お前の手と同時期に受けた依頼でな」

「魔剣がこれのキッカケ?」


 首を傾げるストレイとブーディに、バッカスは苦笑しながらうなずいた。


「依頼人は女性でな。立派な魔剣が欲しかったんだと」

「んんー? 腕と剣じゃ繋がらなくない?」

「実はそうでもないんだよ」


 ブーディがいる手前、少しばかり言い辛い。だが、そもそも聞きたがってるのはブーディだ。


「彼女が欲しかった魔剣は、男なら誰もが持ってる立派な魔剣さ」

「あー」


 ストレイは気づいたようだが、ブーディはまだ首を傾げている。


「つまりアレか。これはその立派な魔剣があったから作れた義手なのか?」

「おう。むしろ副産物に近い。あっちも存在しない器官をあるかのように使いたいという依頼だしな。そういう意味じゃあ、その手は立派な魔剣とは兄弟だな」

「いやな兄弟だな、おい」


 聞かなきゃよかったと天を仰ぐストレイ。

 まだまだよく分かってない顔をするブーディ。


 ここまでくると、ハッキリ言ってやった方がいいだろう。


「ブーディ」

「なに?」

「男にはな。股の間に立派な魔剣があるんだ」

「…………」


 僅かな間。

 次の瞬間、理解に至ったのかブーディの顔は一瞬で真っ赤になり――


「きゅう」

「え?」

「は?」


 倒れてしまったブーディに、男どもは間抜けな声をあげるのだった。


「おいストレイ! ブーディにしては繊細すぎるリアクションだぞ!」

「落ち着けバッカス! さすがのオレも下ネタ耐性の低さに驚いてるんだからッ!」


 平時はユウのセクハラ発言に対して切り落とすだのなんだの言っているブーディらしくない。


 恐らくは彼女なりの大丈夫か否かの基準があるのだろうが、そんなものバッカスとストレイには分かるはずがなかった。




 なお、この日からしばらくの間、ストレイの義手をみる度に赤面して固まるブーディが見れたとか見れないとか。





「使い物になるのかそのブーディ」

「オレが義手をしなきゃな」

「お前が使い物にならないじゃねーか」


 なお、ブランは頭を抱え、ユウは爆笑したらしい。

 テテナに関しては「だからバッカスさん、岩樹の樹液を持って帰ったんですね!」と納得していたとか。


「テテナの話、ブーディだけが理解できてなかった」

「小娘よりウブかよ」

「そうなんだよ」

「耳年増の逆ってなんて言うんだろうな?」

「言いたいコトは分かるが思いつかんな」

「まぁ無理に理解させる必要はねぇか」

「同感だ」


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 前書きにも書きましたが、本作の書籍化&コミカライズが決定です!

 皆様、本当にありがとうございます٩( 'ω' )و

 今後ともよろしくお願いします!

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