甘味の魔剣は、甘くない 3

 本日更新2話目٩( 'ω' )و


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「俺も実は新作を持ってきてるんだよな」

「あら、そうなのねッ!?」

「バッカスさんの新作ッ!」


 ムーリーが剣を取り出すのに合わせてバッカスが告げれば、二人ともすごい勢いで食いついてくる。


 その勢いに若干気圧されながら、バッカスは腕輪から一振りの剣を取り出した。


鋭き美刃プラフス・エグデ?」

「正解」


 黒塗りのシンプルな鉄鞘に納まったそれは、鋭き美刃プラフス・エグデあるいは肢閃刃しせんじんと称される神皇国アマク・ナヒア伝統の片刃曲剣――いってしまえば日本刀型の剣だ。


鋭き美刃プラフス・エグデ型の魔剣だなんて、また変わりダネを作ったわねぇ」

「別に変わり種とは思ってないんだがなぁ」


 ムーリーに言葉を返しながら、バッカスは頭を掻いた。


 元々バッカスは戦闘においては鋭き美刃プラフス・エグデを好んで使う。

 これは前世が日本人であることも大きいだろう。格好良く居合い抜きとかしてみたい――という発想から、鍛錬し身につけたものだ。


「自分にとって使いやすい剣を土台にした魔剣を考えたら、こうなったってだけでな?」

「そういえば、さっきの大鹿相手の時も鋭き美刃プラフス・エグデを使ってたわね」

「学校でナキシーニュ先生と模擬戦してた時に使ってたのもそれですか?」

「この魔剣は使ってないが、大鹿斬った剣とメシューガとやりあった剣は同じモノだな」


 ちなみに、今から実験するこの剣が使い物になるのであれば、普段使いするのもやぶさかではないと思っている。


「見せてもらってもいいかしら? アタシのも見ていいから」

「いいぜ。魔力は込めるなよ」

「もちろん。アナタもね」


 そう言ってお互いに鞘に入ったままの魔剣を交換する。


「抜いても?」

「ああ。こっちも抜くぞ?」

「どうぞ」


 バッカスはムーリーの許可のもと、その魔剣を鞘から抜いた。


 分類するなら長剣――ロングソード。

 刀身はうっすらと桃色をしており、鍔はハート型でビスケットっぽい。柄はチョコレートのようなこの剣は、見た目の印象は完全にお菓子の剣だ。


 だが――


(見た目の奇抜な要素を排除すると、造りはかなりシンプルな長剣なんだよな。

 刀身に魔力は感じないから、この色の出る特殊な鉱石で打って貰った感じか。

 柄や鍔に何らかの効果を付与しようとするとゴテゴテした見た目になりやすいが、この剣にはそれもない。

 自分好みの見た目から外れないように、魔宝石や術式の組み立て方をかなり工夫してるんだろうな)


 見た目に騙されそうになるが、ムーリーは魔剣技師としてかなりの実力がありそうだ。



 一方で、ムーリーもバッカスの魔剣を抜いていた。


(うっそでしょ……ッ!? この刀身、魔導鍛冶で作られてるじゃない!

 魔剣技師よりもさらに職人が少ないはずなのに、どこの誰に依頼したのかしら……?

 いえ、待って。出発前に自分で刀身も作ったとか言ってわよね。もしかしてこれのコトッ!?

 ここまでやられちゃうと素直に感心しちゃうわ。刀身も自分で作る魔剣技師なんて、初めての遭遇だもの。

 そして当然のように鍔や柄も丁寧ね。術式を組み込んであるんでしょうけど、同じくらい握り心地なんかも考えられてる。

 柄の内側に組み込む魔宝石や機構の配置もかなり気遣ってるわ。これ、使った時の重心に違和を感じないようにしてるんじゃないかしら?

 自分用とはいえ、そこまで調整できるってバケモノね……。

 それにこの鞘――たぶん、鞘も含めての魔剣ね。

 鞘に術式を組み込むなんて発想なかったから新鮮だわ。剣と連動するんでしょうけど、どういう効果があるのかしら?)


 二人がお互いの剣を観察し合っている横で、ミーティもそわそわしている。

 色々と聞きたいことはあるのだが、二人があまりにも真剣すぎて、ちょっと声を掛けづらいのだ。


 何とも言えない静かな時間が流れたあと、急に空気が弛緩する。

 同時に、バッカスが口を開いた。


「ありがとな、ムーリー」

「こちらこそ。バッカス君」


 お互いの武器を交換し直し、それぞれの手元に戻す。


「さて、一振りするか」

「是非とも解説と一緒にお願いしたいわ」

「わたしも解説あるなら聞きたいです!」

「解説ねぇ……」


 目を輝かせる二人に苦笑しながら、バッカスは居合いの構えを取る。


「基本的に剣の持つ効果は、切れ味と刀身の強度を高めるモノだ。

 どんな属性を込めようともすべてがそれに変換される」

「思ってたよりも単純な効果なんですね」


 ミーティは拍子抜けしたような調子だが、ムーリーの双眸には真剣な色が宿った。


「バッカス君の技って瞬抜刃を基礎としているわよね?

 アレは剣を抜くとき、鞘の中で走らせるコトで、抜き放つ時の勢いのまま斬撃を放つ技よ。刀身強化なんてしたら、刃が鞘走るついで鞘を切断しかねないんじゃないかしら?」

「その通りだ。だから刀身に魔力が乗った時、連動して鞘の内側の強度がそれに耐えうる状態になる」

「鞘の効果はそれだけ?」


 ムーリーの問いに、バッカスはニヤリと笑う。


「もう一つある」

「どんな?」

「属性の増幅と付与だ。

 剣に魔力を込めると、どんな属性だろうと無属性に変換して刀身強化に使われる。

 だが、鞘に属性を持つ魔力を込めた状態で剣を納めておくと、刀身にその属性のチカラが一時的に付与されていく――と言えば聞こえはいいが、効果そのものは属性の基本性質の強化が主だよ」

「えーっと、それってどういう意味があるんですか?」


 素直に訊ねてくるミーティに、小さく笑みを返してバッカスは構えていた剣に魔力を込める。


 そして――


蒼空閃ソウクウセン!」


 抜刀と同時に、青の魔力を乗せた斬撃を飛ばした。

 それが剣の間合いの外にあった木の枝を切り裂き、落とす。


「事前に鞘に魔力を込めておけば、こういう属性持ちの彩技アーツを使う時、込める魔力を必要量を抑えられる。加えて、ふつうに繰り出すよりも威力を上げられるんだよ」

「へー」


 理屈は理解しても、それの何がすごいのかがピンと来てない様子のミーティ。


「鞘の魔力を使うかどうかは任意?」

「とどめておけるのは一つの属性だけだけどな」

「なるほど」


 ムーリーはバッカスに訊ねながら、その情報をかみ砕き、ミーティへと向き直る。


「あまり戦わないミーティちゃんにはピンと来ないかしら?

 鞘へ魔力を込めるという余計な行程は増えるけど、同じ魔力量で同じ技を使った時、鞘を経由した方が威力や性能があがるの。単純だけど結構、強力な効果なのよね」

「すみません。あんまりピンと来なくて……」


 それでもミーティにはあまり理解できるものではなかったようだ。


「ちなみに、鞘に属性魔力を込めた状態で、剣を抜かずにいると――そのまま魔力が増幅していく仕組みになってる。

 時間はかかるが、少ない魔力で大量に魔力を使う技を使えたりもできる」

「それはわかります! すごいですね!」

「剣を抜かない間――っていうのは戦闘を思うとだいぶ危険じゃないかしら?」

「そこが課題だな。将来的には剣を納めてなくても、増幅効果を発揮するようにしたい。

 とはいえ、軽く振ってみて実用に耐えると実感したからな。普段使いできそうだ」

「それはなによりね。名前は決まってるの?」

「銘ねぇ……」


 問われて、バッカスは軽く思案する。

 そんな大仰な名前を付ける気はない。


 鞘の中で魔力を噛みしめ強化する。そんなイメージ。


 なので――


魔噛マゴウかな」

「魔噛ちゃん、ね。良い魔剣じゃない。一応、それで完成?」

「そうだな。魔噛としては完成でいいんじゃねぇかな」

「おめでと」

「ありがとな」

「おめでとーございますっ!」

「おう」


 普段魔剣が完成した時にこうやって言ってくれる人がいないバッカスは、どう反応していいか分からず、やや照れくさそうに返事をする。


 そんな彼をクスクスと笑いながら、ムーリーは自分の剣を示した。


「それじゃあ今度はアタシね」

「見せて貰うぜ、ムーリー」

「楽しみです!」

「ふふ、期待に応えてあげられればいいんだけど」


 口ではそう言うものの、自信そのものはちゃんとあるようだ。

 自分が作ったものがバッカスの作ったものに劣るなどとは、微塵も考えてなさそうな雰囲気である。


「銘はティーワス。その正体は甘味の魔剣ッ!」


 甘味の魔剣? とバッカスとミーティが首を傾げながら見守るなか、ムーリーがその剣を振るう。


「いくわよーッ!」


 威勢良く声を上げたムーリーが、袈裟懸けに振り下ろしたその魔剣から――


「「は?」」


 声というより音に近いものが、バッカスとミーティの口から漏れる。

 呆れでも感心でもない。とにかく意味が分からなくて、自然に口からこぼれ落ちてしまった音。


 なぜなら……。


 ――触手魔獣型の腸詰めタコさんウィンナーが飛び出してきたのだ。


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