誤解を招くな、運を招け 2

本日更新3話目٩( 'ω' )و


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「何気なく使ってはいるけれど、考えてみれば魔導具ホイーラファクトについてよく知らないのよね、私」


 昨日の一件でバッカスのところで昼食を取ることに味をしめ、今日もまた遊びに来ているクリスの言葉に、バッカスは「ふむ……」と小さく呟き、やや思案する。


 仕事の邪魔をするようなタイプではないので、とりあえず今後クリスが毎日来ようと気にしない方向で決めたバッカスである。


 そのうち書類仕事とか手伝わせよう――などと、少しだけ考えているのはナイショだ。


魔力カラーを自由に扱う術を持たない人でも、魔導輪パレットリングを身につけておくことで、自由に扱えるようになる便利な道具程度の認識でも問題はないぞ?」

「一般的にはそれでいいかもしれないけれど、教養として知っておきたいのよ」

「教養ねぇ……ま、触りだけだぞ。

 とっかかりにして、あとは自分で調べてくれ」


 そう前置いて、バッカスは魔導具について、軽く説明を始めた。




 二百年ほど前。

 この世界に新たなる技術として、魔導工学というものが提唱された。


 神が生み出せし奇跡の道具――神具アーティファクト

 魔導工学は、それを模した道具を作り出す為に生み出された、神に頼らない人間だけの独自技術である。


 その技術を用いて作られた道具は《魔導具ホイーラファクト》と呼称され、この世界には欠かせない人々の生活を支える技術となっている。


 魔力カラーが結晶化した物質である《魔宝石》を用いて、魔力を操る術を持たない人々にも容易に魔術めいた効果をもたらすというものだ。

 だが、魔導具に頼ることを覚えた人間は、時代を重ねることに魔力を操る術というのは徐々に衰えていく。その為、魔導具すらまともに操れない人が増えてきた。


 それを補助をする役目を持った指輪を主とした魔導具――魔導輪パレットリングが開発されたのが五十年前。実用化され平民にすら普及したのが、二十年前である。


 魔導具を形作るのは、燃料と属性定義を担う魔宝石。


 動作の指定する――バッカス曰くマザーボード的な――主基板エニアムドローブと、それを補佐する副基板ブスドローブ


 それらを内包する、様々な素材を組み合わせて作り出されるガワ――導体メーチ


 これら組み合わせて作り上げるのが、魔導具だ。


 組み合わせると言えば簡単そうにも見えるが、ここに魔宝石や素材の属性や、術式と魔宝石と素材の相性などなどが複雑に絡み合っていくので、言葉ほど簡単に作れるものではない。 


 余談だが、バッカスが主に作っている魔剣ホイーラウェポンとは、魔導技術を用いて作られた武具全般を指す言葉だ。

 なので、剣だけでなく、槍や斧は言うに及ばず、弓矢や盾、鎧に腕輪に靴なども武具として作られた魔導具であるならば魔剣である。


 そして、バッカスが目指している憧れの武器――神剣ディバインウェポンとは、武具として作られた神具のことだ。

 魔剣同様に、神剣と呼ばれてはいるが、別に剣である必要はない。


 さらに付け加えるのであれば、バッカスが目指している頂きとは、幼い時に見た長身の男性よりも刀身の長かった巨大な神剣。あれだ。

 その為、バッカスが作成するのは主に刀剣型の魔剣となっている。


「――とまぁザクっとこんなんでどうだ?」

魔導輪パレットリングって、思ってたよりも最近になって普及したものなのね。当たり前のように身につけてたから気にしてなかったけど」


 自分の左手首に付けている腕輪に目を落としながら口にするクリス。

 それに、実はそうなんだよ――と相づちを打って、バッカスは補足するように説明を口にする。


「普及の背景には、安全装置としての側面もあるんだ。

 改良が重ねられていくうちに、どんどん必要な魔力カラー操作が簡単になっていった。やがて、簡単になりすぎた。

 ある程度、魔力カラーを操れる魔術士なんかは、魔宝石に触れなくても操作が出来るくらいにな」

「なるほど。魔導コンロとかが遠隔操作で火を灯されたりしたら危険よね」

「そういうコトだな。

 そこで、魔導輪パレットリングが脚光を浴びることになったワケだ」


 指輪ないし腕輪の形をした魔導輪は、魔宝石に近づけることで起動。持ち主の魔力制御を補佐し、魔導具を動かしてくれる機能を持ったものだ。


 魔導輪と魔導具のその関係は、鍵と扉のようだと注目された。

 研究と研鑽の結果、それぞれに、ささやかな術式が書き込まれ、今の形の雛形が生まれたのだ。


「そのささやかな術式――同期反応術式っていうんだが――それ同士が反応しあった時だけ、魔導具が起動するってな具合になったのさ。

 だから今現在、一般へ普及してる魔導具は、どれだけ高位の術者であっても遠隔操作なんてのはまず無理だ」

「一般に普及してないものは?」

「その限りじゃないな。うちの改造コンロなんかは、その制御術式はむしろ剥がしてあるし」

「大丈夫なの?」

「問題ないぞ。何せ、ほかの魔導コンロに比べて色々複雑だ。何も知らない奴が遠隔で操作できるような単純なモンじゃなくなってるんだよ」


 基本的にスイッチのオン・オフがメイン操作となっているのが魔導具なのだが、バッカスが自分用にカスタムしているものの多くは、地球基準で、出力調整機能筆頭に様々なオプション機能がついている。


 わかりやすく出力調整のつまみを付けてあるものもあれば、魔力で操作すること前提で調整できるようにしてあるものなどもあるくらいだ。


 ちなみにコンロは前者であり、魔剣などは主に後者。


「もちろん、依頼を受けて制作する場合は同期反応術式は組み込むぞ。組み込まないのは自分で自分用に作る時だけだ」


 告げて、片目を瞑るという似合わない仕草をするバッカスに、クリスが小さく吹き出す。

 そんなタイミングに、工房の入り口のドアが勢いよく開かれた。


「頼もォォォォ――……うッ!!」


 そして開け放たれたドアから、青髪の少女が、鮮やかな翡翠色の双眸を爛々と輝かせながら吊り上げて、飛び込んでくるのだった。


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 ストックが心許なくなってきましたので、

 明日から1話ずつの更新になります٩( 'ω' )و

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