腹が満ちれば、思いも変わる 9

 本日更新4話目٩( 'ω' )و


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 ぼんやりと、意識が浮き上がる。


 そこに抵抗感はなく、気だるさはなく。

 浮き上がること身を任せるような心地でいると、自然と瞼が開いていく。


 窓からは明かりが差し込み、換気の為か僅かに開いた窓から入り込む風で、レースのカーテンがふわりふわりと動いている。


 光に馴れない目を睨むように細めて天井を見上げれば、そこが見知った天井であるのだと気付く。


「叔父様の家……?」


 ここは、叔父から与えられたクリスティアーナの部屋だ。

 ついさっきまで、自分を助けてくれたらしい平民の家で寝ていたような気もするのだが――


 気持ちは妙に凪いでいる。

 夜に降りしきる暗澹とした雨のような気持ちは、いつの間にか晴れたようで、快晴――とまではいかないが、曇天程度までには持ち直している。


 不思議と、頭もすっきりとしている。

 頭の中はいつも霞がかったような重みと僅かな頭痛を訴え、常に頭の芯にやるせなさと苛立ちが渦巻いていたような感覚だったのだが、それも綺麗に消え失せていた。


 身体は気怠く熱っぽさはあるものの、身体を動かすことそのものが億劫に感じるような感覚は薄れている。


 身体を起こし、両手を見下ろす。

 それで何かが分かるわけではないのだが、自分の身体の変化に戸惑っているのは事実だ。


 自分の身に何が起こったのだろうか――そんな気分で首を傾げていると、部屋の扉がノックされ、一人の侍女が入ってくる。


 彼女はこちらを見ると、嬉しそうに顔を綻ばせながら一礼した。


「お目覚めになられたのですね、お嬢様。お加減はいかがですか?」

「随分と良くなったと思うわ。頭も身体も、嘘みたいに軽いの」

「それはようございました。お嬢様を助けられた方は、随分と腕の良い医術師様だったようですね」

「医術師……」


 恐らく彼は医術師ではない。

 医術師であったならば、鉄の子神リ・ゴズカーンド・ラズラードを主神になどしないだろう。


「お話によりますと、食事でお腹を満たすコトで心も満たされ、睡眠で身体を休めるコトで頭と心も休まるのだそうです。

 医術師様のところで、食事をし、睡眠をとったコトでお嬢様の体調は改善されたそうですよ」


 逆に食事や睡眠が疎かになったり、まともに取れないようになると、健康な人であっても、頭痛や倦怠感、思考の鈍化などが起こるそうだ。


 ただでさえ精神的に参っていたところに、参っていたせいとはいえ、食事が疎かになり、睡眠の質も悪くなった状態が続いていたので、ますます精神的な部分が悪化していたそうである。


「ねぇ、私を助けてくれた人のコト分かるかしら?」

「申し訳ございません。私はまったく存じ上げません。

 ですが、旦那様のご友人だそうですので、お伺いになられてみてはいかがでしょう?」

「そうね、そうしてみるわ」


 丁寧に答えてくれる侍女にうなずいて、何とも無しに窓を見る。


 それが知れただけで充分だ。

 気持ちはまだまだ沈み気味だが、それでもどん底のような感覚は薄れている。


 まずは体調を整えて、それが終わったらお礼を言いに行こう。


 あわよくば――


「お嬢様、どうかされました?」

「え?」

「いえ、お顔が随分と楽しげでしたから」

「そう? そうね。案外、そのくらいでいいのかもしれないわね」

「それはどう言う?」

「美味しいモノって大事ね、って話よ」


 そう――あわよくば、また何か彼の手料理をごちそうになれれば……思わずそんな図々しいことを思ってしまった。


 貴族令嬢としても騎士としても失格な、少しばかり卑しい考え方かもしれない。


 ――だけどそれでも……


 オカユを食べて理解してしまったのだ。

 彼はまだまだ未知なる美味しい料理を知っているに違いない、と。


「それでしたら朗報がございますよ」

「朗報?」

「寝ているお嬢様をお迎えに行った旦那様とホルシスさんが、医術師様よりお嬢様が気に入られたというオカユなる料理のレシピを預かってきたそうです。

 お目覚めになられた際にご所望されるのでしたら、早速作らせてみると言っておりました」

「まぁ!」


 侍女の言葉に、彼女は――クリスティアーナは、思わず手を合わせ喜びの声をあげるのだった。


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 明日以降の更新は夜のみとなります٩( 'ω' )وよしなに

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