腹が満ちれば、思いも変わる 7
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どうして――どうして自分はこんな豪華な馬車に、領主様と一緒に乗っているのだろうか。
ミーティ・アーシジーオはひきつりそうになる表情筋を必死に押さえ、穏やかな笑みを崩さぬように努める。
そうだ。お店とかで働く時と同じだ。接客するときのような笑顔だ。
自分に必死に言い聞かせていると、領主様は穏やかな笑みをこちらへと向けてくる。
「ミーティさんだったね。わざわざ使いをしてくれてありがとう」
「きょ、恐縮です。とはいえ自分はバッカスさんに頼まれただけですから……」
もはや自分でも言葉遣いが正しいかどうかの判断ができない。それでも反応しなかったり、あるいは否定的な反応をするのは大変失礼なことであるという理解はあるので、必死に取り繕っているのだが。
「彼が頼む程度には、君は信用があるというコトだ。
あの男は信用なきモノに、手紙の配達など頼まぬよ」
領主様は随分とバッカスを評価しているようだ。
市井の魔導技師と、領主の接点があまり見えてこず、ミーティは胸中で首を傾げる。
「旦那様。お言葉ですが、本当にその人物は信用できるのですか?」
「ん? ああ、ホルシスは会ったコトはなかったか」
「ええ。旦那様からお話を伺う機会は多いのですが」
執事のホルシスの様子を見る限りでは、領主様の個人的な知り合いなのだろうか。
「お互いに王都に住んでた時に知り合ったのだ。
彼は優秀な魔導技師だが、同時に優秀な魔術士でもあってね。王都で仕事が一緒になったコトがあるのだよ」
「そこが分かりませんな。どれほど腕が立とうと、平民の魔術士と旦那様が出会う機会というのは、そうないように思えますが」
「仕事の内容は伏せさせてもらうがね。
奴を連れてきたのは、お忍びでその仕事に首を突っ込んできたメーディス王子だ」
思わずミーティとホルシスは顔を見合わせた。
どうして、そこで王子様が出てくるのだろうか。
疑問に思っていると、領主様はなぜか獰猛な獣のような表情を浮かべてうめく。
「あの悪童ども……当時は王都の事件に色々首を突っ込みすぎだったんだ、まったく」
なにやら苦労された様子が伺えるが、ミーティもホルシスもそこには敢えて触れないことにする。
というか、王子様相手に悪童と毒づくのは、不敬に当たらないのだろうか。
「ここにいるのは我々だけですからね」
「あー……」
こちらの胸の
その意味をやや遅れて理解したミーティは、小さくうなずいた。
「ともあれ、そうして知り合った後での話なのだが――彼とは妙にウマが合う相手だと気付いてね。それ以来、互いに良くし合っているのだよ」
「旦那様も幼少の頃は随分な悪童でございましたしね」
「ホルシス……」
半眼でうめくものの、それ以上のことは口にしないあたり、実際に
「ところで、あのー……」
話が一段落したところで、ミーティはおずおずと手を挙げる。
「ふむ。どうしたかな?」
「わたしはどうして馬車にご一緒させて頂いているのでしょうか?」
それは自分も聞きたかった――とでも言いたげに、ホルシスも領主様へと視線を向けた。
不思議そうな二人に対して、領主様はさして気にした様子もなく答える。
「ん? まぁ私が君を乗せていくコトも、バッカスは折り込み済みだっただろうしな」
「え?」
「バッカスからの
終わったら彼に報告する必要があるわけだ。こちらも目的地はバッカスの工房なのだから、君を乗せて行ってあげた方が、バッカスもまた君を待つ時間を省ける」
「いえ、でも、だからといって……」
そんな理由で平民の自分と馬車を相乗りするものなのだろうか。
「お嬢さん、戸惑いはごもっとも。
正直、貴女の考えの方が正しいとも言えます――ですが、旦那様がこのように言い始めると、聞き分けがなくなりますからな」
諦めたようなホルシスの言葉に、ミーティは「ああ、そういうものなんだ」と、似たような眼差しを湛えてうなずくのだった。
領主様も若いときは悪童だった。
ミーティはなんとなく、その言葉の意味が理解できた気がした。
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準備が出来次第、次話も公開します٩( 'ω' )و
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