第9話

死ぬ日がわかっていたから、俺は誰とも仲良くすることをしなかった。

だというのに、彼女に出会ってから俺はおかしかった。

確かに明日死ぬという人を見つけたことは正直に言えば、これまでたまにあったのだ。

でも、お互いに死ぬ日が見える人を見たのは初めてだった。

だから彼女に惹かれたのだろう。

そして、彼女と話していくうちに、同じだと思ってしまった。

お互いに、本当に心を許せる、本音を言い合える人がいないということに…


「そうだな、俺が好きだからだ」

「何よ、そんな理由?」

「だったら悪いか?」

「だって、そんなことじゃあ、次に好きになる人にも同じことを言えるでしょ?」

「ないな」

「どうしてよ」

「だって、明日死ぬんだからな」

「!」

「どうした?」

「そういうこと言うかな、今日死ぬ相手に向かって」

「だから俺と明日を迎えてくれ」

「さ、最初からプロポーズみたいなことを言わないでよ」

「仕方ないだろ、告白の仕方なんてわからないだからな」

「何よ、それ…」

「仕方ないだろう?それならお前は告白したことあるのかよ?」

「ないわね」

「だったら…」

「されたことはあるけどね」

「なんだと…」

「あははは!」


どうやら、彼女は俺とは違った人らしい。

そんなことを思いながら空を見上げると、彼女に笑われた。

仕方ないだろう、俺は告白されたこともないんだから…

だけど、彼女は少し笑うという。


「でも、いいよっていうのは今回が初めてかのかもしれない」

「どうしてだ?」

「だって今日死ぬんだから」

「いや、本気で告白するのは明日だから、違うな」

「何よそれ」

「だって、明日を迎えてほしいからな」

「そっか、そうよね」

「ああ」

「ねえ…」

「なんだ?」

「今更だけどさ、名前を教えてくれない?」

「本当に今更だな?というか、人の名前を聞くなら、自分から名乗るものじゃないのか?

「いいでしょ、最初のわがままよ」

「しょうがないな。俺は永劫ようこう

「永劫ね。あたしは未来みらい

「!」

「ねえ、あたしを未来に連れてってよ、永劫!」

「当たり前だ!」


そうして俺は、再度抱きしめた。

そして、俺たちは明日に向かうために手を繋いで歩き始めたのだった。

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今日死ぬ君と明日死ぬ僕は… 美しい海は秋 @utumiaki

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