第8話

「はあはあ…」

「どうしてきたのよ」

「どうしてって、妹に言われたからだよ」

「なんでよ、家族との時間を大切にしなさいよ」

「確かにそうかもな」


彼女は、予想通り公園にいた。

最初に出会ったあの場所だ。

あのときと同じように、僕は隣のブランコに座る。


「それで?どうして、来たのよ」

「さっき言っただろう妹に言われたからだよ」


同じことを聞かれたので、同じことを言った。

すると彼女はブランコから立ち上がりながら叫ぶ。


「何を言ってるのよ、後二日しかないのよ!家族との時間をもっと大切にしなさいよ」

「そうだな」

「だったら、家に帰りなさいよ!」

「それがいいかもな」

「だったら、そうしなさいよ!」

「いいのか?」

「何がよ?」

「帰っていいのか?」

「何を言ってるのよ、当たり前じゃない!」


その言葉を言われて、僕も立ち上がった。


「だったら、そんな顔してんじゃねえ!」

「!」

「苦しそうな顔をしてんじゃねえ!」

「!」

「涙を流すんじゃねえ!」

「何よ、泣いてなんか!」

「なくねえよ!」

「見たくないなら、ここから去ればいいじゃない!」

「それができないから言ってんだろ!」

「なんでよ!」

「お前にはもう、今日しかないからだよ」

「…」


僕は泣いてる彼女を抱きしめた。


「何をしてるのよ」

「ただ、泣いてる女性がいればこうするって何かで見たからな」

「何よ、その知識…」

「仕方ないだろ、僕の知識なんて、そんなもんだよ」

「そっか…ねえ…」

「なんだ?」

「胸借りるね」

「ああ…」

「死ぬのが怖いの…」

「ああ…」

「一人が怖いの…」

「ああ…」

「何もできないのが怖いの…」

「ああ…」

「何もないのが怖いの…」

「ああ…」

「このまま自分がいなくなってしまうのが怖い、怖いよ…」

「大丈夫だ…」

「どうしてよ…」

「だって、僕が、いや俺がいる」

「え?」


そして俺は彼女の泣いている今の姿を見て、決意していた。


「俺の彼女になってくれ!」

「え?」

「明日になったらなってくれ」

「できるわけないじゃない」

「わからないだろ?」

「どうして?」

「それは…」


俺はこれまでの自分を振り返って、その理由を考えていた。

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