第5話 今日から始める 模擬戦

 男女に別れて着替えて、訓練室Ⅲに移動中彼は絡まれていた。

あんな美少女と何時お知り合いになったのか。

どうしてお前なんだとか。

やっかみもある。

しかしこっちによこせ、だけはなかったが。


「しかしまあ、美人には何着せてもにあうよな……」


 ポニーテールにして、ジャージを着込んだイリスを見ながら、呟くアレン。

そのつぶやきに反応したのは、意外にも担任だった。


「そうだな、だが他の子も似合ってるぞ」


 そう言って、やってきた女子達を一人一人褒める。

その姿に淀みはなく、まるで戸板に水のように出てくる言葉は聞いている限り嘘偽りはない。


「昔取った杵柄というやつだ」


 アレンの方に戻りながらこっそりと呟く。

そのまま通り過ぎ、こちらを向くと。


「これよりオリエンテーリングを始める。内容はクラスそれぞれだが、ウチのクラスは──」


 指をパチンと鳴らすと、景色が波打つように変わる。見えたのは突き刺さった武器と盾の数々。

額を拭う仕草がわざとらしい、どうやったのかなどは何も言わなかった。

だか、その仕草を終えて見せた顔は、実戦を行ってきた者のそれだ。


「模擬戦を行う」


 一言、それだけでなにをどうしたらいいのかなど単純明快である。


「ああ、それと武器はここにあるのを使え、自前のものがあってもだ。お前らの実力で怪我をされても困るしな」


 

 指をくいくいと動かしかかってこいとばかりに、アピールする。

皆意を決したかのように歩き出す。

一人、また一人と各々得意なまたは近い物をとってゆく。

その間に、反対側に移動していた担任は改めて剣と盾を構える。

振り向いたとき、そこにいた誰もがその男に騎士の姿を被らせた。

──孤高なれども、誓い我が手に──

よくよく、この国の大衆劇場で聞かれる言葉である。

召喚士と従者、二人を除いた全ての生徒が理解したのだ。

この男の出自を、そしてという幸運を。


「さあ、どこからでもいいぞ」


 隙が全くないその男に対し、生徒達は一対一を願いそして、にべもなくやられてゆく。

誰もが怖じ気づくような光景でありながら、しかしそれに後じさるの者はいない。

やがて、立っている者は三人だけとなった。


「んで、お前さん達はどうする?」


「いや、挑みますよ」


「一人ずつ……か?」


「いいえ、二人がかりですね」


 少女が前に立ち、その後ろに少年が立つ。

情けなさなど、微塵も感じない。

勝つためには、この陣形以外ない。


「情けなくないか?」


「自分の分相応を知ってるだけです」


「そうかい、なら言うべきことは一つだ」


「──来い──」


 言葉はもう要らないとばかりに、すごみのますそれをそよ風のように流しながら、


「参ります」


 彼女が立った。




───────

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ぼっち召喚士と万能聖女~コミュ障に友情召喚(フレンドサモン)とは嫌がらせか?!~ @ashw

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