閑話 ― side.xxx ―

「やだなぁ。あんな噛ませ犬の襲撃なんかでやられちゃ堪らないよ。しかも、主を護って名誉の負傷だなんて。もっと絶望に塗れて惨めに死んでくれないと。」


 男の声が、窓のない、扉が二つついたその空間に奇妙に響く。


 暗く僅かな明かりだけが灯されたその空間は、ムワッとした甘い香りと血の匂いに満たされ、彼ら以外に正気を保っている者は居ない。

 壁には空になった鎖の首輪がいくつも垂れ下がり、空では無い首輪には、ぼうっと宙を見つめる武官や亀島家の使用人が数名繋がれていた。


 持ち主がこの世を去ったことで、誰にも知られぬ事となったその場所は、もうすぐ罪人を捕らえる箱に代わる。


 最後の晩餐に、母の為に見目の良い男を一人用意しようとは思うものの、その後しばらくは彼と罪人、食糧以外が入ることはなくなる。


「ねえ、母上。直に貴方の願いが叶います。次はこちらの番ですよ。」


 血溜まりの中で美しく妖艶に微笑む女性の頬に男は優しく触れて、その唇の端を引き上げた。

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