第61話 彼女は僕だけの人形になる ※微エロあり

 日曜日の朝、夏の太陽が全力を出す前のちょっとだけ涼しい時間、我が家の玄関にはタイトスカートに長袖ロゴTシャツ、靴は動きやすいスニーカーを履いた琴子さんの姿があった。

 動きまくる菜穂に合わせた柔らか素材のスカートらしく、しゃがんだり駆けたりしても問題ないらしい。長袖でも露出している部分には日焼け止めをしっかりと塗って、屋外であってもバッチリだと琴子さんは微笑む。


「本当は僕も行きたかったんだけど……ごめんね、任せる事になっちゃって」

「いいんですよ、俊介さんのお義父さんという事は、私のお義父さんでもあるんですから。それに先方の申し出ですからね、しっかりと娘として母として、全力でアピールしてきますから。菜穂ちゃん、今日はことママ・・・・と一緒に頑張ろうね」

「うん! なほ! がんばる! おばあちゃんとのおでかけたのしみ!」


 薄いけどちょっとお高い余所行きの服、頭には可愛らしいリボンのついた麦わら帽子をかぶった菜穂は、琴子さんの手を握って「いってきまーす!」と大きな声を出して、玄関を後にした。 


 今日は祥子さんのご両親とのお出掛けの日。

 だけど僕は足の骨折があるから遠出は出来ないため、こうして二人を見送ることに。

 お義母さんからは「治ったら温泉行きましょうね」と連絡を貰っているから、少しは安心だ。


「実の娘なのに、なぜ私は置いていかれたのでしょうか」


 最近ちょっとメンヘラが加速している祥子さん。

 今回のお出掛けも「私も一緒に」と声を上げたのだけど、いらないと断られたのだとか。

 その代わりに琴子さんを連れて行きたいとの申し出があり、謹んで受けたのだけど。


「俊介さん、私、両親にまで見捨てられたのでしょうか?」

「それはないんじゃない? むしろ、今回のお出掛けは琴子さんっていう人を、見極める為のお出掛けなんじゃないかな? 僕もそうだけど、琴子さんも祥子さんと一緒にいるって宣言してるんだからね。ご両親としては、なるべく近づいて知りたいと思うものなんじゃないかな」


 はっきり言ってお義母さん達の時代じゃ考えられない状態なんだ、同性愛者とも取れる琴子さんの発言を受けて、二人の目で判断したい……と、考えたんじゃないかな。


 そして、琴子さんの次が本命である僕だろう。

 その日がいつになるのかは、今日の琴子さん次第だろうけど。


「お二人さん、ちょっと通らさせて貰ってもいいですか」


 振り返ると、そこにはスマホを手にした詩さんの姿があった。

 鍔付きのカラフルな帽子に薄く青みがかったサングラス、無地の白Tシャツの上に薄手のパーカーを羽織り、下はハーフパンツを穿いている……って事は、詩さんもどこかに行くのかな?


「お昼には戻ると思うんですけど、もし戻れないようなら連絡入れます」

「そうなんだ、友達か何かかな?」

「まぁ、そんな所です。それでは行ってまいります」


 あまり気乗りしない感じで、詩さんは靴をトントンしたあと軽く敬礼をした。

 合わせて僕も手をこめかみ辺りに合わせると、うむって感じで詩さんも出て行ったけど。


「みんな用事があるんだね……どうしよっか?」

「どうしよっかって、何がですか?」

「いや、二人っきりになるのって、なんか久しぶりだなって思って」

「そ、そう言えば、そうですね」


 とはいえ、どこかに遠出に行くくらいなら、菜穂のお出掛けに一緒に行っている訳で。

 どこにも行けないからこそ発生してしまった、祥子さんとの二人きりの時間。

 髪を耳にかけながら僕をちらりと見ては、すぐさま視線を逸らす。

 玄関から入り込んできた夏の香りが、そんな祥子さんをより一層艶っぽく魅せた。



 セミの音だけが無駄に響く、太陽の熱がどんなに熱しようが、室内までは届かない。

 こんなにこの家って静かだったっけ? と思ってしまうほどに、静かだ。

 祥子さんは片付けをしていて、僕は寝室で横になって本を読む。

 五人になってから静かに読書なんてした記憶がないから、なんだか新鮮だ。

 

 最近は買うだけで満足してしまって、読んでない本も沢山あった。

 読む時間が無かったっていうのも、現実問題として存在する。

 仕事と家事の両立は、思っていた以上にハードだった。

 それこそ、祥子さんが心配してしまうほどに、僕には重荷だったのだろう。


 皆がいないリビングのテーブルを拭く祥子さん。

 彼女がいなかったら、一体今頃どうなっていたのだろうか。

 

「あ……」


 ふと、目があって、僕はそのまま見ていたのだけど、やっぱり祥子さんは目を逸らした。

 それでも見続けるのだけど、祥子さんは僕の方を見ないまま。

 

 袖を捲った半袖のTシャツには、家事で染み出た汗が、彼女の下着を露わにし。

 ジーンズの裾を何重かに丸め、くるぶしから見えている生足は、とても細くしなやかで。


「どうして、僕と目を合わせないの?」


 いつもならもっと積極的になるはずなのに、今日は何だか少し遠く感じる。

 今日……じゃないな、祥子さんの過去を聞いた辺りから、様子が少しおかしい。


「あの、ごめんなさい。なんか、自分の過去を話しちゃったら、自信がなくなっちゃいまして」

「自信がなくなったって……どうしてさ?」

「だって、汚いって、思いますよね。それに、呆れるくらいバカでしたし」

「汚いって……どうして?」

「どうしても何も、私、琴子さんとは違って、経験済みですから」


 そんなの僕も一緒じゃないかって思ったけど。

 その言葉が今の祥子さんに特効薬となり得るか。

 答えは否だろうな、軽率な言葉の裏付けには、到底なり得ない。


 だから、少しだけ意地悪してやろうと思った。

 もうこれ以上、祥子さんを落ち込ませないために。


「じゃあさ、見せてみてよ」

「…………え」

「汚いっていう祥子さんと、汚くないっていう僕。どっちが正しいか、判断してあげるよ」


 読んでいた本を閉じて、僕は彼女を寝室へと誘った。

 まだ午前中、だけど、遮光カーテンを閉じれば、ここは一気に夜の街に変わる。

 普段は閉じないリビングとの間仕切りを使い、室内の明かりを少しだけ暗くした。

 この八畳間の寝室には僕と祥子さんの二人だけ、他に人は誰もいない。


「……あの、俊介さん、私」

「大丈夫だよ、僕は約束は守る男なんだ。祥子さんを抱く時は琴子さんも一緒。だから、今は祥子さんが汚いっていう身体が本当に汚いか、確認するだけ」

 

 壁に背を預け、両足を投げだしながら祥子さんを見やる。

 眉根を寄せながらも、頬は紅潮し、どうしていいかその場に立ちすくむ。

 扇情的であり嗜虐心をそそる祥子さんの仕草は、僕の中の何かを芽生えさせる。


「じゃあ、脱いで貰ってもいいかな」

「…………はい」


 言いなりになってしまうのだろう、祥子さんは愛した人を信じ切ってしまう節がある。

 相手がどんな人であれ、自分が信じた人には全てを委ねてしまう。

 現に今の僕の言葉に素直に従い、祥子さんは穿いていたジーンズを脱ぎ始めた。


 緩慢な動きには多少の迷いが見られるけど、止まらずにゆっくりと脱ぎ続ける。

 するりと脱げた途端、しなやかな生足とそれ用ではない下着が目に飛び込んできた。

 ピンク色をしたショーツ、以前コインランドリーで見たそれとは違う下着。


「……」


 普段、自分から迫る時とは違う興奮と緊張があるのだろう。

 一つ一つの動きがとてもゆっくりで、僕の視線を意識した動きになっている。


 脱いだジーンズを綺麗に畳むと、それを脇に置き、次に来ているTシャツへと手を掛けた。

 汗で湿っていたTシャツは脱ぎ辛いのか、ちょっとだけ苦戦している。

 それでも、下から捲り上げると可愛らしいおへそが顔を覗かせて、僕の期待値を上げた。


 ブラジャーがもうそろそろ見えるという所で一旦停止し、祥子さんは視線を横に流したまま何かを考え始めた。このまま言うことを聞いてもイイのだろうかという思いと、僕に正直に見せないといけないという葛藤がせめぎ合っているのだろう。


 こういう時は、焦らずに自分で答えを出すまで待った方が良い。

 可愛らしい姿のまま停止した祥子さんを黙って見ていると。

 やがて目が合い、観念したのか、彼女は再度動き始める。


 汗でへばりついたTシャツを脱ぐと、露わになるのはショーツと同じ色をしたブラジャー。

 隠しきれない大きな乳房を支えているそれは、今の僕達には不要なものだ。


「もちろん、それも外してね」

「わ、分かってます。言われなくても脱ぎます」

 

 裏返ってしまったTシャツを畳み、ジーンズの上に置く。

 下着姿のままでそれを行うのだから、非日常感が半端ない。


 祥子さんが背後にあるホックを外した途端、たゆんと乳房が上下に揺れた。

 張りのある、けれども柔らかそうな胸に視線を向けると、祥子さんはそれを手で隠す。


「ダメだよ、隠したら」

「だって、なんか、恥ずかしいです」


 恥ずかしいのは顔を見れば分かる。

 耳まで真っ赤にして、視線がずっと泳いでいるのだから。

 でも、ダメだ。今の祥子さんには荒療治が必要だ。

 だから、僕はそのまま命令し、彼女の手で隠してる部分を露わにさせる。


 ゆっくりと手から零れ落ちる乳房は、以前堪能したそれと変わらない。

 ピンク色をしたブラジャーも綺麗に畳むと、同じ様に脇に置く。


 まだ手で隠そうとしたから、後ろ手に組むよう指示した。

 背筋が伸び、つんとした乳房がやや上を向く。

 でも、それが少しだけ震えている……その震えは、緊張か、快感か。


 そして堪能するんだ、祥子さんの露わになった上半身、その全てを。

 

 触り心地の良さそうな、だけど幼稚園のお仕事で日焼けした健康美溢れる祥子さんの上半身は、細くくびれていて、それでいてアンバランスなまでに大きい乳房が二つ鎮座する。腹筋も少し割れているのかな? ダンスの練習もあるみたいだし、僕なんかよりも体力はありそう。


「……そんなに、じろじろ見られると」

「嬉しい?」

「う、嬉しい、ですけど、でも」


 緊張と興奮、その両天秤がどちらにも傾いている事は、彼女の乳首を見れば分かる事だ。

 硬直し、大きくなり、それでいてしっかと上を向いている。

 触ったらきっと大きな声で嬌声を上げてしまう事だろう。

 でもね、触らない約束だから、触らない。

 そして、今回の確認は、まだ終わっていない。


「じゃあ、お尻を床につけて、足を開いてみてよ」

「…………、俊介さんって、もしかして、変態なんですか」

「変態とは随分だね、汚い身体って言ったのは祥子さんじゃないか。僕は確認したい、それだけだよ」


 事実、僕は一歩も動いてないし、何もしていない。 

 本音を言うと、この足が動いていたら自分を抑制できる自信がないくらいに興奮している。

 だけど、激痛がそれを無理に抑えるんだ。

 いま無理は出来ない、だからこそ、祥子さんの荒療治には丁度いい。


 後ろ手のままにゆっくりとしゃがみ込み、その場に三角座りをする。

 膝小僧とつま先をしっかりとくっつけてるから、乳房から下まで何も見えやしない。


「ほら、早く開いて」

「…………」


 無言のまま、祥子さんは動こうとしない。

 ささやかな抵抗のつもりなのだろう。 

 それでも待っていると、くっついていたつま先が離れ、ゆっくりと開き始める。

 太ももの内側や、床に接地したお尻がやわらかな曲線を描くも、膝小僧はくっついたままだ。


「祥子さん」

「わ、分かりました、分かりましたけど。本当に、嫌いにならないで下さいね」

  

 なる訳がない、こんなに可愛くて素直な祥子さんを、嫌いになる理由がどこにあるって言うんだ。

 震えながら、祥子さんは手を膝に当て、自分の力で両足をゆっくりと開いていく。

 露わになるピンク色のショーツは、真ん中の部分だけが色濃く湿り、彼女の現状を素直に表現していた。

 

 祥子さんの女の全てが、そこにある。


 自然と上目遣いになる彼女の目と、僕の下心が剥き出しになった目、その二つが合わさると、言葉にしなくても互いが何を求めているかが、一瞬で理解出来てしまった。


 ――。


 生唾を飲む音がやけに響き、徐々に彼女の吐息が荒くなっていくのが分かる。 

 もう、我慢するのが難しいほどに、狂おしいほど祥子さんを求めたい。

 沈んだ瞳に汗ばんできた身体は、彼女がいつでも受け入れるという意味の現れだろう。

 先ほどよりもショーツの染みは広がり、触ってもいないのに快感を感じてしまうほどなんだ。

 このまま祥子さんと、白濁とした時間を過ごしたい。

 もう、ダメだ、限界値を何もかも突破してしまっている。


「祥子さん……」

「…………私、抱いて、欲し」

「ただいま戻りました!」


 唐突に玄関から響き渡る詩さんの快活な声に、二人してビビる。

 そして当たり前のように廊下から直結している寝室へと入ってきたのだ。


「あれ? 祥子さんお昼まだですか? 詩、お腹すいちゃって……って、なにしてるんですか、二人してお布団に入って。あれ? リビングとの間にこんな間仕切りあったんですね」


 まさかの詩さん帰宅、確かにお昼には帰るって言ってたけど……あ、もうお昼か。

 いつの間に手にしたのか、洋服の全てと共に、祥子さんは僕の布団へと潜り込んでいた。

 

「あ、あの! ごめんね! お昼まだで、今はね! 二人きりだったから、こうしたら楽しいなって、ね! 俊介さん、ね!」

「確かに楽しそうではありますけど……なんか、この部屋暑くありません?」

「あ、冷房弱めにしてたからかな!? 強めにしていいからね!」

「そうですか……あ、ちょっと、温度差感じたので、トイレ失礼します」


 とたとたと消えた詩さんを見て、祥子さんはほっと息を吐いた。

 ヘラってる祥子さんも可愛いけど、真横に裸同然でいる祥子さんはもっと可愛い。


「やっぱり、全身綺麗でしたよ」

「……ほ、本当ですか」

「一番大事な場所も全部、綺麗でした」

「み、見えてました? ……恥ずかしいから、誰にも言わないで下さいね」


 これで当分は大丈夫かな……でも、正直、危なかった。 

 もう、色々と限界に近付いているのかも。


――

次話「女の子だから」

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