第59話 男1女3での平和?な雑談②

 祥子さんの重い話。

 ふと菜穂がこの話を聞いていないか気になって見てみたけど、大丈夫っぽい。 

 相も変わらずアニメに夢中だ。


「大学生二年の時ですね、元彼と再会したんですよ。ようやく見つけたって言われて。再会した時は、私のことを見捨てた人って思ってたんですけど、やっぱり忘れられなかったんですよね。わざわざ探してくれたんだって思っちゃったら、なぜか離れられなくなっちゃいまして」

「その時って事は……その元彼ってもう卒業してますよね?」

「はい、既に卒業して、社会人になってました。なってたはずでした」

 

 意味深な言い方だな。

 お義母さんが泣かされたって言ってたから、ろくでもない感じだったんだろうけど。


「また誘われたんですよね、一緒に住まないかって。で、私も大学生だし、別にいいかなって思って……でも、家出じゃなくて、お母さんに一回相談したんです。さすがに警察のお世話になってましたからね、そこはちゃんとしないとかなって思って」

「でも、真理子さんだと認めなさそうですよね」


 うん、僕もそう思う。

 真理子さんは筋が通ってないことは絶対に反対する人だ。

 そして祥子さんの相手が過去の過ちと同じ人だとすると、許可するはずがない。


「そうなんですよね、お察しの通り、またそこで大喧嘩しちゃいまして。で、結局私はもう一度元彼の所に行っちゃったんです。高い学費も出して貰ってるのに、何やってるんだろうって今なら思いますけど。当時は頭に血が上っちゃって、それどころじゃなかったんですよね」

「でも、それって家出とは違う感じだよね。お義母さん的には祥子さんがどこにいるか分かってる訳でしょ?」

「はい、分かってました。だからこそ連れ戻されたんです」

「え、どうしてですか?」

「……借金、ですね」


 ん、借金? 学生ローンみたいな?


「元彼、働かないクズだったんですよね。なんであんな人の所に行ったんだろうって今なら思うんですけど、でも、その時は認めてくれない両親から逃げたくてしょうがなかったんですよね」

「それで、生活費の為に借金をしたってことですか?」

「……私もバイトとかしてたんですけどね、でも、全然足りなくって。元彼はギャンブルにハマってて、パチンコとかスロットとか、競馬競艇なんでもやる人だったんです。ヘタの横好きだったんですよ、負けてばかりなのにやめないで、私が稼いだお金全部使われちゃって」

「それで、仕方なく消費者金融に手を出したと」

「なんか、警察の取り調べみたいですね。段々当時を思い出して、死にたくなってきました」


 あ、ダメだ、祥子さんの目から生気がなくなってる。

 側によって抱き締めると、僕の腕をぎゅっと掴んだ。


「あの、本当に嫌いにならないで下さいね。私、思っていた以上に弱い人間なので、俊介さんや琴子さん居なくなったら、多分もう、生きていけない」

「詩は入らないんですか!」

「え? あ、うん、詩ちゃんも側に居てね」


 詩さんのお陰でちょっとだけ空気が和んだ。

 陽キャ全開の詩さんと、陰鬱全開の祥子さんとで、うまい具合に釣り合ってる感じ。


「それで、最終的にはどうなったんですか?」

「最後ですか? 最後は実家に支払督促が届きまして、それを受け取った両親が激怒し、元彼の家から強引に連れ出されました。借金も全額両親が支払ってくれて、お陰で何とか今に至りますけど……。あ、ちなみにその時のお金はもう両親に返済しましたので、今は何もないです」


 何もなくはないだろうに。

 なるほどね、そんな過去があるから、同棲してるって話を聞いて突然乗り込んできた訳か。


「お義母さんは、今日の僕達を見て少しは安心してくれたのかな?」

「……少なくとも、以前よりは全然マシです」

「今はその元彼との付き合いは」

「ある訳ないじゃないですか。あったら私、お父さんに刺し殺されますよ」


 なんと心強い言葉だ。


「もう、絶対に失敗したくないんです。散々お母さんにも迷惑かけちゃってるから、次こそは絶対に成功するんだって。そう思って、今もここにいるんです」

「……なんだ、私と同じじゃないですか」


 琴子さんはぐっと伸びをして、大きく深呼吸する。


「私だって沢山失敗して、もう失敗したくないからここにいるんです。俊介さんだってそうですよね?」

「……うん、僕も物凄い失敗したからね。もう失敗したくないって気持ちは、二人と同じかな」

「だ、そうですよ? 祥子さん、少しは安心しました?」


 琴子さんの温かみのある問いかけに、祥子さんは目から涙を流しながらうんうんって頷いて。

 本当に不安だったのだろう、受け入れてもらえるのか。

 ダメな自分は、本当にどこまでもダメな自分だから。


「人間なんですから、大なり小なり失敗するんです。私たち三人は失敗トリオですね」

「琴子さん……ふえええぇぇ……」

「よしよし、祥子ママは泣き虫ですね」


 受け入れて貰えるって、心の底から嬉しいものなんだ。

 また一つ、僕達は家族に近付けたような気がする。


「また詩をのけ者にしてる」

「だって、詩さんは何も失敗してないでしょ?」

「失敗ですか? してますよ?」

「失敗って、何をさ」

 

 んーって、人差し指を口元に当てて天井を見上げたあと。

 詩さんは僕を見てこういったんだ。


「惚れる相手、ですかね」

「そうなの? 厄介な人なんだ?」

「厄介というか、鈍感な人です」

「ふぅん……でも詩さんなら、明るいし人気者だし、すぐに上手くいくと思うよ」

「そうなんですか? 本当にそう思います?」

「うん、心の底から」

「そうですか、その言葉、嘘じゃないですよね?」


 なんだ? なんでこんなに確認するんだ?

 詩さんの雰囲気の違いを感じ取ってか、祥子さんと琴子さんの二人も詩さんに注目する。

 

「決めました、詩、三人目に立候補します」

「……三人目?」

「詩、告白されることは数えきれない程にありましたけど、告白するのは初めてなんです。俊介さん、詩もこの家族の仲間入りさせて下さい。詩も、菜穂ちゃんのママになりたいです」


 間。


 菜穂が名前を呼ばれたのと勘違いして「なほ?」とこっちを一瞬見たけど、沈黙して固まってる僕たちを眺めた後、いつもの通りテレビ画面へと顔を戻した。


「ダ、ダメダメダメダメ! 詩ちゃんまで増えたらどうしようもないし!」

「どうしようもなくないですよ、俊介さん結婚してないんですから、詩にもチャンスはあります」

「だってまだ学生さんでしょ!?」

「そうですね、でも、就職先も決まってますし。宜しくお願いします、琴子先輩」

「え、私? 詩さん、もしかしてオプレンティアに入社するんですか?」

「はい、ですので詩と琴子先輩、俊介さんは同じ会社の仲間でもあります」

「ちょ、私だけ仲間外れにしないでくれる!?」

「さっきから詩を仲間外れにした罰です」


 あっかんべーをする詩さんを見て、はっと気づく。

 詩さんが三人目宣言をして一番傷付くのは誰か。


「……詩さん、祥子さんを揶揄からかうのは程ほどにね」

「揶揄うって……あ、え、まさか冗談ってこと?」


 腕組みしてぷんすこしてる詩さん。

 何回か重要な場面で仲間外れにされた事を怒っているらしい。


「なんだ、冗談か……冗談に聞こえなかったよ」

「冗談じゃないですからね」

「ちょっと、本当かどうか分かんないから、やめて」

「それは今後の祥子さんの出方次第です。詩のこと仲間外れにしないでくれますか?」

「しないしない……もうしなから。仲直りしましょ」


 はいって小指を出すと、二人で指切りげんまんして。

 お義母さんの時もそうだったけど、詩さんの冗談は冗談か本気か分からないんだよな。

 絶妙のタイミングでボケてくるから、振り回されっぱなしだ。


「あ、でも、この家族の仲間入りさせて下さいって部分は、ガチだったりします」

「どういう意味ですか?」

「琴子さん、琴子さんは私のお兄ちゃん、知ってますよね?」

「一ノ瀬達也さん、ですよね?」

「はい。私の実家結構遠くて、これまでお兄ちゃんの家に勝手に居候させて貰ってたんですけど、なんか最近になって彼女が出来たのか、家にいないでくれって言われる回数が増えたんですよね。それで住むとこ無くなっちゃったんで、俊介さんの家にお泊りさせてくれないかなって」


 へぇ、一ノ瀬君彼女出来たんだ。

 彼、確か社宅だもんな。

 確かに1DKに彼女と妹さんが居たんじゃ、色々と厳しいかも。


「詩さん、その彼女さんって……赤い髪をしてませんか」

「いえ、私は見た事ありませんので。ただ、確かに床掃除すると赤い髪が落ちてることありますね。え、まさか、お兄ちゃんの相手って」


 江原所長、だな。

 あの界隈で赤い髪って言ったらあの人しかいない。

 詩さんの身内に、会社の上司が誕生してしまう可能性が出てきた訳か。


「うわ、余計家に帰りたくなくなりました。という訳で、今日から宜しくお願いします」

「あ、そこ、ガチ?」

「はい、ガチです。寝るところは菜穂ちゃんの横で構いませんので」

「いや、菜穂の横は僕だから」

「そして俊介さんの横は私ですから」

「え、なに言ってるんですか琴子さん、俊介さんの隣は私でしょ?」

 

 とか何とか言いながら、いつも二人は疲れからか、僕より先に寝入っちゃうんだよね。

 だから、僕の隣って言うよりも、二人で仲良く寝ている事の方が多い。

 そうすると菜穂を囲んで、詩さんと僕とで眠る感じになるのか。


 んー、ていうか、正直手狭だな。

 2LDKに五人はちょっとキャパオーバーでしょ。


「買っちゃうか、家」

「買うって、一戸建てですか?」

「はい! 詩、専用の部屋が欲しいです!」

「私、お風呂はもっと大きいのがいいです! 俊介さんと一緒に入りたいです!」

「ウォークインクローゼットも欲しいですね、五人分の洋服だと専用で部屋が欲しくなります」

「はい! 詩、料理したいのでキッチンはアイランド型がいいです!」

「食洗器も欲しいですね、他にも洗濯機も新調したいですし」

「4LDKは最低でも欲しいですね。あと車三台ありますので、駐車場もそれなりじゃないと」

「はい! 詩、トイレは最低二個欲しいです!」


 なんとなく呟いた言葉に、より食いつく三人。

 近い将来、五人で住める家を探さないとかな。


――

次話「お義父さん、娘さんと家を僕に下さい」


※タイトル変更しました。

 カクヨムコン勝ち残る為の悪あがきだと思って、生暖かい目で見て頂けたらと思います。

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