第44話 最低なお願い ※微エロあり

※後半過激なシーンがあります。

 カクヨム規定には触れないとは思いますが、ご了承の上、ご拝読願います。


――


 僕が事故を起こしてから、毎日のように祥子さんと琴子さんの二人はお見舞いに来てくれた。

 まだ未婚、二十代前半の二人に、菜穂のことから家のことまで、全てをお願いしている。

 

 これでいいのかと、何度自問自答したか分からない。

 だけど、事実、僕には頼るべき人が他にはいないんだ。

 

 両親が住まう実家だって、飛行機で一時間はかかる。

 親友と呼べる人は、イコールで仕事仲間だ。

 菜穂や家のことをお願い出来るはずがない。


 無力さを、嫌って程に実感する。 

 出来ないことが多い、仕事してる時は、何でも出来るって思ってたのに。


「焦る必要なんてないですよ、俊介さんが折ってしまった大腿骨は、時間をかけて治さないといけない大事な骨なんですから。そこがきちんと治らないと、足が全部動かなくなっちゃうかもですよ? 大丈夫です、私も琴子さんも全然有休使ってなかったので、四十日フルでいけますから。二人合わせて八十日です! 土日除けば三か月ですよ!」

「そういう訳にもいかないさ。頑張れば三週間で退院できるみたいだから、そうしたら自宅に戻れる。そうすればわざわざ病院まで来る必要もなくなるし、僕もリモートで仕事も出来るようになる。一秒でも早く元の生活に戻れる努力をしないと、二人に申し訳がたたないよ」


 三週間っていうのは、僕が調べただけの数字だ。

 実際には僕の足は大腿骨だけじゃなく、膝もダメになっている。

 どんなに早くても一か月が現実的な数字なのだろうけど。

 

 目標は高ければ高いほどイイ、営業年間目標みたいなものだ。

 二十パーセント増なんて、ごくありふれた数字、僕なら出来る。

 これまでもやってきたんだから、僕なら。 


「ですから、そんな風に思わなくて大丈夫なんですって。癒合しにくい頸部の骨折ではないにしろ、大腿骨の骨折はそう簡単には治りません。リハビリは大切ですけど、何ごともやり過ぎは逆効果ですよ? 今は、ゆっくりと治療に専念してください」


 そう言いながら、にっこりと微笑みながら祥子さんは僕へとリンゴを差し出すのだけど。

 僕の視線は、リンゴではなく祥子さんの服装へと向けられていた。


「……ちなみに、変なこと聞くんだけどさ」

「はい、なんでも聞いて下さいね」

「その服装は、どうしたのかなって」


 今日の祥子さん、なぜだか看護師さんと同じ様な服装をしている。 

 生地が薄くて固い感じがして、本物の看護師さんとは違うのは分かるんだけど。

 色もピンクだし、なんかスカート短いし。

 

「これですか? 昔こういうの着たことあったので、俊介さん喜ぶかなって思い準備しました」

「昔、着たの? え、それってやっぱり」

「変なの想像してません? 大学の学園祭で友達と一緒に着てただけですから、何にもしてないですよ。もちろん、俊介さんなら何してもOKです。その代わり、本物の白衣の天使さんに手出ししちゃダメですからね?」


 そんな生地の服だと、こぼれちゃうんじゃないの? ってぐらいの胸を、祥子さんは更に強調しながら、僕の隣に座り見せつけてくる。ミニスカートから覗くやわらかそうな太ももに、丸みを帯びた女性らしいラインのヒップ、どこを見ても祥子さんは綺麗の一言なんだけど。


「それにしても、祥子さんほどの美人さんが独身でいるなんて、ちょっと僕には信じられません。これまで彼氏とかはいなかったんですか?」

「それは……ダメですよ俊介さん、女の過去は聞かない方が良いってもんです」

「言えないくらい乱れてた?」

「そ、そんな訳ないじゃないですか! これまで二人だけです! って、なに言わせてんですか! もう!」


 そっぽを向きながら祥子さんは僕から少しだけ距離を取った。

 ふくれっ面になって腕を組んで……それでも可愛いと思えるんだから、本当に美人さんだ。


「あはは、ごめん。それにしても彼氏が二人か。見る目がないね、その二人も」

「ど、どういう意味ですかそれ」

「こんなに美人な祥子さんとの別れなんて、僕には考えられないって意味だよ」

「ふぇ」


 祥子さんと出会ってから既に二か月近く時間が流れているけど、楽しい以外の感情が沸かないんだ。相性がいい、これは一緒になる上で間違いなく最重要なことであり、なかなか巡り合えるものではない。


 江菜子のように表面上は合わせる事が上手い人もいるけど、ずっと一緒にいたらいつかはボロがでる。気を使い続ける関係なんて、夫婦じゃないんだ。どこまでも自分を曝け出せる相手、自然体のままでいられることが、何よりも大事なんだと、僕は思う。


「……べ、別に、褒めたって何も出ないですよ?」

「僕が何かを望んで語るように見える?」

「それは、見えないです、けど。あ、じゃ、じゃあ、さっきの言葉なんですけど」

「さっきの言葉?」


 祥子さんは離れた距離を、もう一度詰める。

 至近距離、目と目があって、鼻と鼻が触れ合う程に。


「はい、私と別れられないということは、いま俊介さんと一緒になれたら……もう、永遠に一緒ということで、良いんでしょうか……?」


 真剣な瞳、この瞳で見つめられたら、十人中十人が恋に落ちる。

 吐息がそのままキスを求めている。

 それを受ける事は、イコールで答えになるんだ。


 だから、僕は唇を重ねずに、彼女を抱きしめる。 


「……ごめん」

「え……」


 祥子さんの言葉、それは僕を独り占めしたいという意味なんだろう。

 当然だ、日本国憲法で定められているのだから、一夫一妻を望むに決まってる。


「僕は卑怯者なんだよ、事故を起こしてからずっと考えてた。今のままの関係じゃダメなんだって。だけど、考えれば考えれるほど、祥子さんと琴子さん、どちらかなんて選べないんだ。今の二人に頼らなきゃいけない現状だからじゃない、僕は、完全に二人に惚れてしまっている。大好きなんだ、愛してるんだ。でも、どちらか一人になんて、僕には」

「……私、別に、私だけなんて言ってませんよ?」


 抱きしめて背後から聞こえる祥子さんの声が、何を言っているのか理解できなかった。

 

「…………え?」

「実はですね、この前琴子さんとも話し合ったんです。どうすれば俊介さんが一番喜ぶのか。私も琴子さんも、俊介さんの事が大好きなんですよね。……ううん、愛してるって言葉の方が適切なくらい、俊介さんでいっぱいなんです」


 二人とも僕の事が好きっていうのは、これまでで痛いくらいに理解してるけど。

 祥子さんは抱きしめていた状態から離れると、当たり前のようにキスをした。


「手術が終わって、ベッドで横になってる俊介さんを見て。私、居なくなって欲しくないって、心の底から願いました。もう、どんな状態でもいいから生きてて欲しいって。一夫一妻制でしたっけ? そんなどこの誰が決めた制度なんかじゃ、私たちの気持ちは抑えられないんですよ」


 呆けたまま祥子さんを見ていると、彼女は僕の手を取り、そのまま服の中へと誘う。

 温かい……いや、熱いくらいの体温に、僕の手が包まれる。


「ドキドキしてるの、分かりますか? さっき、一瞬だけでも断れちゃったのかなって思って、それだけで悲しくなって、死にたくなって……でも、やっぱり大丈夫で、安心して。もう、心臓が持ちませんよ」

「ごめん、そんなつもじゃ」

「早く、安心させて下さい。私も琴子さんも、もう俊介さんなしじゃ生きていけないって、ずっと思ってるんですからね?」


 菜穂はまだ、幼稚園にいる。 

 琴子さんも、仕事中なんだろう。


 四人部屋の病室には、他の誰もいなくて。

 看護師さんの検温も、次に来るのはお昼前後か。


 誰もこない、空白の時間。


「……ん」


 舌を絡めながらするキスが、僕の鼓動と理性を奪う。

 お互いを貪りあうような、獣のようなキス。


 僕は、動かない足がもどかしく感じる中で、祥子さんの服に手をかけた。

 ボタンを外すたびに吐息が強くなり、祥子さんの全身が反応する。


 しなやかな首筋に、鎖骨から肩にかけてのラインがとても綺麗で。

 僕は、絡めていた舌を優しくついばむ様にしながら、そのラインを堪能する。


「は、……ん、やぁ」

「逃げたらダメだよ、ほら、こっち寄って……」


 くすぐったかったのか、背を丸め逃げる祥子さんを、これ以上離れられないように腕ごと抱きしめて、また舌を口腔内へと押し込む。甘くて、やわらかっくて、エロスがすごくて。祥子さんはキスをすればするほど、しなやかな体から力が抜けていくんだ。


 まさぐるようにして、後ろに三つのホックがついたブラを外す。

 窮屈だったのだろう、ほわんと谷間が広がって、甘い香りが僕のことを更に誘った。


「俊介、さん、私、ちょっとだけ、恥ずかしいです」

「じゃあ、やめる?」

「……やめないで、下さい」


 意地悪な質問だと思ったけど、これはもはやセオリーだろう。 

 ついばむ唇をそのまま大きな乳房へと移し、ゆっくりと周囲を舐める。

 次第に大きくなっていく彼女の微動は、祥子さんが感じている証だ。


「あっ、ひっ……っ、ん」


 大きな乳房に比べて、アンバランスなほどに小さな乳首がとても可愛らしい。

 口の中にほおばって、ころころと舌で転がす。


「――――ッ!」


 咄嗟に、祥子さんは自分の手で自分の口を塞いだ。

 声が出てしまうのを止めれらないと判断したのだろう。


 転がして、吸い出して、ちょっと噛んで。 

 それだけで、祥子さんは全身を震わせながら、素直に反応してくれた。  


 愛おしい、もっと、祥子さんを求めたい。

 彼女のスカートの中へと差し込むと、もはや抵抗すらしない。


 我慢の限界まで来ていたのだろう。

 泉と化したそれは、言葉にする事すら不要なまでに、僕の指を受け入れる。 


『俊介さん』


 その瞬間、雷光の閃きの様に、僕の脳裏に琴子さんの顔が浮かんだ。 

 以前、僕の太ももに腰かけて、同じように濡らしていた彼女の事を。


 途端に、僕の指が動きを止める。

 

 いま、このまま最後までしてしまっていいのか?

 祥子さんからの言葉だけを鵜呑みにしてしまって、本当に大丈夫か?


「…………?」


 蕩けた瞳で、祥子さんは僕を見る。

 だけど、一度でも疑問に感じてしまった僕には、これ以上は出来ない。 

 

「祥子さん、最低なお願いをしても、いいですか」

「最低な……お願い、ですか?」


 衣類のはだけた状態で、祥子さんが首をかしげる。


「僕は、祥子さんと琴子さん、二人同時に抱きたい、です」

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