第8話 辿り着けない

 東北の方では、災害が発生した時はバラバラで逃げると言うのがお約束になっていると聞いた事がある。今のこの状況も正しく災害そのものだろう。この女子と一緒に逃げるのは危険かも知れない。生存率を上げるためにはバラバラに逃げた方がいい。それがいいに決まっているんだ。

 そう結論付けた俺は、女子の逃走ルートを気にせずに独自の判断で逃げ始める。


「ちょ、どこ行くの?」

「俺はこっちに逃げる! じゃあな!」

「ちょ……っ」


 俺は彼女と別ルートに逃げた事で、無事にゾンビの追跡から逃れる事が出来た。どうやら、ゾンビ達が追いかけていたのはあの子だけのようだ。余計な事に巻き込まれずに済んで、俺はほっと胸を撫で下ろす。

 襲われる脅威がなくなったところで、俺は彼女が逃げた方向に視線を移した。


「でも、これで良かったのかな……」


 俺は結果的に彼女を見捨ててしまった事に良心を痛める。だけど、それは結果論でもあった。ゾンビが自分側に来る可能性だってあったのだから。だからと言って、ゾンビの目的が彼女だと初めから分かっていたら一緒に走って逃げていただろうか。答えの出ない自問自答はしばらく続いた。

 しかし、俺はひとつの決断をして、その結果安全を手に入れた。今はこの決断を尊重しようと考えを切り替える。


「彼女には悪いけど、これも運命だったんだよ……」


 本来なら、彼女を助けようとするのが正しい行動かも知れない。けど、相手はゾンビだった。警察に通報したってイタズラだと思われるのがオチだ。霊能者的な人ならあいつらを倒せるかも知れないけれど、俺にそんな知り合いはいない。

 打つ手なしと言う事で、俺は手を合わせて神様に彼女を助けてくれるように祈る事にした。


「神頼みしか出来ないけど、生き延びてくれよな……」


 やれる事はやったと言う事で、俺は改めて帰宅ルートに戻ろうと歩き始める。まだ時間は夕方で、そこまで遅くなってはいない。このまままっすぐ帰れば親に心配をかけずに済むだろう。

 早く見覚えのあるいつもの通りに戻ろうと、俺は少し早歩きをする。記憶が確かならば、すぐにもその道に合流出来るはずだった。


「あれ? おかしいな……」


 俺はこの辺りの道を知っている。知っているはずだった。幼い頃から通り慣れた道を少しだけ外れてしまった。そう言う場所のはずだった。なのに、どれだけ歩いても合流ポイントに辿り着けない。

 何度も同じ道に戻ってくる違和感に、俺は立ち止まって首を傾げた。


「まさか、このまま家に戻れないのか?」


 俺は腕を組んで、この異常現象への対処を考える。一体どうすればいいのだろう?



 おかしいなと振り返る

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649105575258

 とりあえず前進する

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649105643229

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