第11話 折角だから上に行ってみよう

 エレベーターの階数表示に並ぶ数字を見て、俺は指を顎に乗せる。今いる階は1階だ。下に降りると言う事は地下。この状況で地下に降りるのは何かヤバい気がする。俺の直感もそう訴えていた。となると、答えはひとつだ。


「折角だから、俺は上の階へ行くぜ!」


 何となく宣言したくなった俺は、独り言をつぶやきながら2階へのスイッチを押した。やがて、静かにエレベーターが動き出す。すぐ上の階なので程なくして到着して扉が開いた。

 何も武器を持っていない俺は、周囲を注意深く観察しながら慎重に探索していく。


「どうか誰も襲ってきませんように……」


 声を潜めて気配を消してゆっくりと歩いていく。2階も1階と似た状況だったものの、1階で目にしたモンスターは現れず。誰にも何にも出会う事なく探索は終了する。続く3階、4階も同じ状況だった。

 どの階でも同じ事を繰り返している内に、ついに俺は最上階に辿り着く。


「あれ? どうして俺はこんな所まで……」


 何となく成り行きでここまで来てしまった事を俺は軽く後悔する。最初は1階に出た化け物から逃げるために登ったんだ。それは間違いではなかったと思う。それからは全く危ない目に遭っていないし。ただし、収穫も何もなかった。

 そう言う意味で言えば、上層階に登ったのは失敗だったと言う事になる。


「じゃあ、地下に降りた方が正解だったのか?」


 エレベーターの階数表示を見たところ、地下は3階まであるみたいだ。地下は地下ですごいモンスターがいそうで、正直あまり乗り気はしない。それに、地下と言えば謎の実験室。本当にあるかどうか分からないけど、ここまで怪しいビルならあってもおかしくはない気がする。


「しかしこの階も静かすぎる。電気と人がいないだけでここまで怖くなるものなんだな……」


 結局、2階から上の階ではモンスターに全く遭遇していない。それはそれで説明の付かない現象だった。アイツは一体どこから来たと言うのだろう。どこかに発生源があって、そこから出てきたのだろうか?

 頭の中に生まれた疑問は、答えを得られずにずっと俺の脳内をさまようばかり。どれだけ考えても、証拠が見つからないのだから意味がない。


 色々考えている内に捜索も終わり、4階にも誰もいない事が分かった。本来なら上層階の探索はここで終わりと言う事になるのだけれど、うろついている間に俺は更に上に登る階段を見つけていた。

 エレベーターでは行けないもうひとつ上の階、それはつまり――屋上だ。


「屋上になら、誰かがいるかも知れないな」


 人がいたら、このビルについても色々な事が分かるだろう。どうにかして脱出方法を聞き出して、俺はこのビルからおさらばするんだ。最後の可能性に賭けて、俺は階段を登っていく。そして、外に出るドアに手をかけた。鍵がかかっているかもと思ったものの、呆気なくドアは開く。

 外の風が少し肌寒い。もう太陽は沈んでいて、残照が屋上を赤く染めていた。


 俺はゴクリとツバを飲み込むと、慎重に周りを見回しながらドアを開けて外に出る。何となくだけど、ここには何かがあると俺の直感が告げていた。1階で出会ったモンスターがいるのか、それとももっと別の何かなのか。

 薄い可能性で言えば、1階で姿を消した彼女がここにいるのかも知れない。


 このビルの屋上にはいくつか障害物があって、出入り口から全ての景気が見える訳ではなかった。なので、俺は物陰に潜みつつ慎重に周りを見回す。気分は尾行中の刑事か探偵だ。

 そっと建物の向こう側に向けて首を伸ばすと、ぐったりとしてまぶたを閉じているマイの姿が目に飛び込んできた。同時に、彼女の側にいる謎の生物も視界に入ってしまったけれど。


「何だ……あれ?」


 そいつは全長が2メートルくらいのタコの頭をした化け物。身体は人間と同じような感じだ。ヒューマノイドタイプって言うやつだろうか? マイと一緒にいると言う事は、アイツが俺を背後から襲ったんだな。

 彼女をさらったあのタコ頭は何故そんな事をしたのだろう? そして、何故屋上でじっとしているのだろう。疑問は尽きないものの、考えていてもそれらの答えが出る事はない。


 囚われの彼女は逃げ出そうと言う気配もなく、ずっと建物にもたれかかったままだ。俺が手を振って合図を送っても微動だにしない。眠っているのか、意識を乗っ取られているのか。単に気絶しているだけなのかも知れない。俺だって自分が同じ状況になったら、正気を保っていられる自信はない。

 さっきから全く動いている気配がないので、生きているのかそうでないのかも分からない。


 タコ頭から彼女を助け出せるかと言えば、はっきり言って無理だ。今の俺は何の武器も持っていない。格闘技の経験もない。だとすれば、戦略的撤退しかないだろう。マイには悪いけど、俺は勝てない戦いはしないのだ。

 と、ここで俺は覗き見に熱を入れすぎたのか、足元の突起につまずいて転びかけてしまう。


「うおっ!」


 そこで声を出してしまったのが良くなかった。タコ頭は秒で気付き、髪の毛みたいな触手を俺に向かって伸ばしてきた。当然吸盤付きであり、俺は呆気なく捕まってしまう。


「は、離せーっ!」


 触手に両手両足を拘束された俺に向かって化け物からの攻撃が迫る。タコの足は8本だ。4本を拘束に使ってもまだ4本残っている。まずはその4本でしこたま殴られた。手も足も出ないので成すがままだ。殴り飽きたタコ頭は、そのまま俺を外に向かって高く放り投げた。

 放物線を描きながら落下していく中、俺は自分の今までの人生を走馬灯を見るように回想して――。


 やがて地面に強烈に叩きつけられた俺は、そこで16年の短い生涯を呆気なく終えたのだった。



 タコ頭モンスターにやられ死亡エンド




 もう一度最初から

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648990233938

 このエピソードの最初から

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649068856685

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