第10話 マイを助け出そう!

 出会ったばかりだったとは言え、マイは大事な相棒だ。もし危険な目に遭っているのだとしたら、どうにかして助け出したい。とは言え、今の俺は何も武器を持っていなかった。

 素手で人を倒せるほどに強かったら問題ないだろうけど、そんな格闘技術は体得していない。そもそも、ゾンビが出てくる世界観だ。相手が人間とも限らない。


 と言う訳で、まずは何かしら武器になるものがないかビル内を探す事にした。そんな都合のいい話はないと思いつつ、僅かな希望に賭ける。

 開いている部屋を物色しながら、ゲームだったら会社のオフィスに何故か銃の弾丸とかがあったりするんだよなと妄想を膨らませる。実際にはボールペンとかの文具があるくらいなんだけど。


「しかしこの建物はどうして人がいないんだ? 外のゾンビみたいにモンスターが現れて皆逃げ出したとかか?」


 誰もいなくて静かで暇だったので、俺はこの建物に感じる謎についての考察を始める。照明が点いていないのは、そもそも電気が通じていないからだ。これは部屋のスイッチを入れても無反応だった事からも分かる。

 入れる部屋の雰囲気から言って、それぞれの部屋に社員がいて仕事をしていたのかどうかも疑わしい。整然としすぎているからだ。


「て言うか、このビルは一体どう言うビルなんだ?」


 外側には看板的なものはなかった。中に入っても、どう言う人達が利用しているものか分かるものは見当たらない。まるで、本当の目的をカモフラージュするダミーで各部屋が『設定』されているかのようだ。

 現実はゲームと違い、その部屋にあるはずのないものは何もない。ゲームだったらちょっと探せば見つかりそうなナイフですら見当たらなかった。


「やっぱ現実はゲームとは違うよなあ……」


 俺は半ばあきらめ気味に、掃除道具入れとかの狭い部屋を探しに入る。こう言う部屋なら、武器になりそうな道具があるかも知れない。そして、その勘は当たった。


「やった! これ武器になるっしょ!」


 俺が見つけたのはバールだ。長さは70センチくらい? しかもアルミ製なので軽い。現実的に普通にあって使えそうな武器の類では、一番いいアイテムではないだろうか。相手が人間だったら格闘技未経験の俺でもいい勝負が出来そうな気がする。

 ……人間とは限らないのが不安なところではあるけれど。


 こうして武器を手に入れた俺は、マイ捜しに本腰を入れる。とは言え、この階で入れる部屋は全部探し尽くした。次は別の階へ移動するしかない。その移動手段は探索中に発見している。エレベーターと階段だ。どっちがいいだろう。


 階段は移動するだけで体力が削られるし、やはりここはエレベーターだろうな。そう決めた俺が方向転換をして動き始めたその時だ。突然向こう側からゾンビとは違う化け物が現れた。

 体全体は濃い緑色っぽい感じで、全身が焼けただれているように見える。背の高さは俺よりちょっと高いくらい。180センチくらいだろうか? 目はうつろで口は大きく裂けている。服は何も着ていない。下腹部は膨れていて今にも爆発しそうだ。なんだこいつー!


「シャウワー!」

「わああああ!」


 その化け物はいきなり大きく口を開けて威嚇したかと思うと、いきなり俺に向かって走ってくる。このままだと襲われると本能的に感じ取った俺は、すぐにこの場から離脱した。

 さっき手に入れたバールで応戦しても良かったものの、いきなり現れたから心の準備が追いつかない。こう言う場合は逃げるのが正解だ。だと思う。


「ヒィィィィ!」


 無我夢中で走っていると、前方にエレベーターが見えてきた。階数表示が光っているので、どうやらここはまだ電源が生きているらしい。俺は何も考えずにエレベーターの扉を開ける。この階で待機していたので、扉はすぐに開いた。ラッキー!

 エレベーターに入った俺はすぐに扉を閉じる。化け物も迫ってきていたものの、何とか入り込まれずに済んでいた。間一髪で助かって、俺はほっと胸を撫で下ろす。


 改めてエレベーターを見ると上にも下にも行けるようだ。マイをさらった誰かがいるとしたらどっちだろう? 俺は顎に手を当てて次の行き先を考える。



 上の階に行こう

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649103758914

 下に降りよう

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649104059227

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