第9話 ビルに入ってみた
俺は、走りながら目の前の小さなビルを指さした。
「あそこに入ろう!」
「いいね!」
ほぼほぼ阿吽の呼吸で、俺達はちょうどいい場所にある丁度いい大き大きさのビルに飛び込んだ。外から見ると4~5階建てで何処かの会社のビルっぽい雰囲気だったものの、中は恐ろしいほどに静かで不気味な雰囲気を漂わせている。
ただ、入ったばかりの俺達はとにかくすぐにドアを締めてゾンビが入らない事だけに意識を持っていっていた。鍵はよく分からなかったので、入ってすぐに身体を反転させて背中でドアを押す形にする。
「気付くな気付くな気付くな気付くな……」
「早くあっち行け早くあっち行け早くあっち行け……」
俺達の願いが通じたのか、ゾンビ達はビルに入った俺達に気付かずに通り過ぎていく。ただ、振り向いて確認したらゾンビも俺達に気付くかも知れない。なので、本当に通り過ぎると雰囲気でも感じ取れるまで、俺達は身体を硬直させながらしばらくそのままでいた。
ある程度静かになって落ち着いてきたところで、俺はほっと胸を撫でおろす。
「もう行ったかなぁ~?」
「そんなにすぐ振り向くのはヤバいって、せめて後10分」
「分かったよ……」
慎重派のマイに釘を差され、俺はその10分の間を持たすためにスマホを起動させた。ニュースやSNSを見る事で暇を潰そうとしたのだ。ゲームをしても良かったものの、これから何が起こるか分からない状況で無駄な電力を消費したくなかったのでそれはやめておく。
そうして適当に暇を潰したところで、俺は隣で座り込んでいる彼女に目配せをした。
「もういいよな?」
「そうね……。うん」
お許しが出たのでゆっくりと顔を外に向けると、もうそこにゾンビはいなかった。俺はパアアと顔を綻ばせる。
「良し、いなくなった!」
厄介な化け物がいなくなったのを確認して、俺は勝利のガッツポーズをする。そうして、意気揚々とドアを開けようとした。
「ダメだよ! 外で待ち伏せしているかも知れない」
「じゃあいつまでここにいるってんだよ。俺は出ていくね!」
「ちょ……」
マイの制止を振り切って俺はドアを開けようとする。けれど、どれだけ力を込めても微動だにしなかった。入る時は簡単に開いたのに……今は鍵がかかっている?
俺は必死になって開けようと奮戦するものの、やはりドアはびくともしなかった。
「ヤバい! 閉じ込められた!」
「嘘でしょ?」
「何でだよぉ……」
希望が絶望に変わってしまい、俺は頭を抱えて塞ぎ込む。一体この世界で今何が起こっているんだ。さっき目にしたスマホのニュースでは、当たり障りのない記事しか目にしなかった。ゾンビが大量発生したなんてどこにも書いていない。
俺は、そこでようやく自分の持っているスマホの本来の機能を思い出す。
「こう言う時も110番でいいのかな?」
「私も今それをやろうとしたよ。でも画面をよく見て?」
「えっ?」
彼女のアドバイスに従ってよく見ると、電波状況が圏外になっていた。さっきまで通信はちゃんと出来ていたはずなのに。その表示が出た以上、外部との繋がりは絶たれている。
勝手に鍵が閉まったり、スマホが圏外になったりの異常現象。これに原因があるとするなら、このビルが怪しい。ビル内にいる誰かがそんな操作をしたのだろう。監視カメラで今も俺達の動向を観察しているのかも知れない。
「このビル、おかしいよな?」
「だよね。全然人の気配がしない」
彼女の言葉に俺はハッとする。今まで焦っていて分からなかったけど、このビルは何か変だ。まだ17時前なのに人の気配がまったくない。電気もついていないので薄暗い。どこかの会社のビルだと思っていたけれど、そう言うビルではないのかも知れない。全く未知の空間に入り込んでしまった事に気付いた俺は、襲い来る不安でしばらく身体を硬直させてしまった。
俺が頭の中を真っ白にしていると、マイが決意を込めたマジ顔で覗き込んでくる。
「ここでじっとしていても仕方がないし、ちょっとビルを調べてみない?」
「そ、そうだね」
こうして、俺達はこの謎のビル内を探索する事になった。照明が点いていないから真っ暗な廊下。ほとんどの部屋には鍵がかかっていて、入れる部屋もガランとしていて殺風景なものだ。
俺が会議室っぽい部屋に足を踏み入れたところで、背後からの強い激痛が背中を襲う。
「がはっ!」
突然現れた謎の誰かに襲われた俺は、呆気なくその場に倒れた。廊下に前のめりに倒れた俺が意識を取り戻すと、場所は全く移動していないようだった。少しずつ体を動かして感覚を取り戻して起き上がると、俺はすぐに現状を確認する。
しかし、時間経過以外は特に何も変わってはいない。ただ、やたら静かな事だけは違和感として心の中に残り続けた。
「何か、何かが足りない気がする。どう思……」
俺が同意を求めようとして顔を左右に振ったところで、この違和感の正体が判明した。さっきまで一緒にいたはずの、マイがいない――。
ここで考えられるのはただひとつ。俺を襲ったやつが彼女をさらっていった。それしか考えられなかった。しかし、どうして?
ひとりになった俺に不安が大きくのしかかってきた。これから俺は一体どうすればいい? 俺は顎に手を当てて、この先の行動のシミュレーションをする。
マイを助けよう
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649103685495
まずは脱出優先だ
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649105151473
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