第8話 追いかけてくるゾンビ達
走り出すのが遅れたために、背後を走っていた女子と並走する形になった。彼女は恐怖がそうさせているのか、俺と並んで走っている。男子と張り合える脚力と言う事は、陸上部にでも入っているのかも知れない。
とは言え、偶然こう言う形になっただけなので最初はお互いに無口だった。
俺は意識して彼女と顔を合わせなかったものの、やがて向こうの方から視線を向けてきた。
「あなたも、結局何も出来ないんだ……」
「えっ? いや、だって……」
「助けを呼ぶとか……。でも無理か、ゾンビだもんね」
陸上系女子は1人で話を完結させていた。ゾンビに追いかけられるとか、普通はそんな非常事態に適切な行動なんて取れないだろう。アメリカのゾンビ映画なら銃をぶっ放すとかできるんだろうけど、ここは日本で俺は武器的なものを何ひとつ持ってない。警察を頼ろうにも、通報して説明をしている間に襲われてしまうだろう。
この状況の場合の正解は逃げ一択。それしかない。それ以外にある訳がない。だからこそ、彼女も自分の要求を引っ込めたのだ。
走りながらチラチラと背後を確認する。見たところ、ゾンビの勢いは全く衰える様子はないようだ。数こそ増えてはいないものの、多分体力、特に持続力はあっちの方が上だろう。
俺はこの状況を何とか打破出来ないかと情報を求めた。
「でも何でこんな事に?」
「知らない。気が付いたらゾンビが襲ってきた。この街ってこう言う事がよくあるの?」
「よくあったら一緒に逃げてないって! 俺もこんなの初めてだよ!」
「だよね。良かった、こう言うのが普通じゃなくて」
彼女はそう言うと急に笑い出した。俺も同じ状況だと分かって安心したのかも知れない。その笑顔を見て、俺も少しばかり緊張感が弱まった。
「あはは。全然笑える状況じゃないのにね」
「でも恐怖と笑いって紙一重とも言うし……。俺もこの状況、おかしくて笑っちゃうよ」
「私は宮児嶋マイ。あなたは?」
「え? 俺?」
いきなり自己紹介を促されて困惑するものの、この状況が続く限り俺達は協力して逃げ延びなくてはならない。そのためにはお互いの名前を知っておく必要だってあるだろう。そこで、俺も自分の名前を口にする。
「ハルトね、分かった。よろしく!」
「あ、ああ……」
俺はマイの顔をここでハッキリと目に焼き付ける。年齢は近いとは思うものの、やはり初対面だった。そしてかなりの美少女だ。俺は彼女に対する興味がむくむくと湧いてくる。
「俺、16歳なんだけど、君は?」
「私も16歳。高1」
「え? 同級生なんだ。奇遇だね。この辺に住んでんの?」
「この辺っちゃこの辺だけど、私、越してきたばかりなんだ。だからよく分かんない。今日も道に迷っちゃって、それでゾンビが……」
引っ越してきたばかりなら、俺が知らないのも当然だった。しかし災難だよな。新しくやってきた街でいきなりゾンビに襲われるだなんて。こんな恐怖体験はないわ。
もっと色々話したかったものの、ゾンビに追いかけられているこの状況では呑気に雑談もしていられないだろう。
一生懸命に走っていると、俺達の目の前にいい感じのビルが見えてきた。ここに入ってドアに鍵をすればあのゾンビ達をやりすごせそうな気がする。もしくは、その先の路地に逃げ込むと言うのもありかも知れない。
少しの間考えた俺は――。
目についたビルに逃げ込む
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649103600510
その先の路地に逃げ込む
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649105390933
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます