第4話 冒険の日々
「よ、よろしくお願いしまぁぁす!」
実はこう言う異世界ファンタジーに憧れていた俺は、シーリィに対して思わず右手を差し出していた。もちろん頭をぐっと下げて。黒ずくめの魔女はニッコリ笑いながら優しく俺の手を取る。
その手はとても美しくて柔らかく、俺は変に興奮してしまった。
「ふふ、こちらこそよろしく」
「2人共、食事の準備が出来ましたにゃあ!」
話がまとまったタイミングで、サラサラの黒髪が美しい10歳くらいの可愛い女の子がひょこっと顔を出す。食事の準備をしていたので、黒い服にピンクの可愛いエプロンを付けていた。
姿は変わっても声が同じだったので、俺はすぐにこの子が黒猫のルルアだと気付く。
「ルルア、人の姿にもなれるんだ」
「魔法使いの使い魔だもの、当然にゃ! ところでお前、勇者をしてくれるのにゃ?」
「ルルア、彼はハルトと言うのよ。それと、ちゃんと私達のお願いを聞いてくれたわ」
「本当にゃ?! ハルト、有難うにゃ! 今日は宴だにゃ!」
こうして、その日はとても豪華の食事にありつけた。魔女の食事と言うと、どう言うのもが出てくるのか全く想像がつかない。最悪ゲテモノ料理のフルコースを覚悟していた。けれど、リビングに行ってみるとちゃんとした美味しそうな料理が並んでいて、俺はほっと胸をなでおろす。
パンにスープにサラダに肉料理に魚料理、卵を使ったものに、ジュースも用意されていた。シーリィの前にはワインもある。ルルアの前にはケーキやお菓子もあった。
「うわ、結構豪華だ……。でも食べきれないよこんなに」
「ハルトは少食なんだにゃあ……」
「え?」
「さあ、食べましょ。ハルトも好きなだけ食べて飲んでね」
俺が1人分の分量の料理で満足していると、シーリィとルルアが食べる食べる。10人分くらいは用意されていた料理を2人でペロッと食べきってしまった。俺はその光景を見て言葉を失う。
「魔女ってみんなこんなに食べるんすか」
「こっちの世界の人はこれが普通よ。ハルトも慣れたらもっと食べられるようになるわ」
「ええぇ……」
俺はこの世界に慣れた自分の姿を想像して、少し気が遠くなる。大食いキャラは苦手ではないものの、自分がそうなると言うのがイメージ出来なかったのだ。
テーブルに用意されていた大量の料理を全部食べきってなお、2人の表情にはまだ余裕があるように見える。
「今日はこのくらいにしましょうか」
「分かったにゃ。腹八分目にゃ」
「嘘だろ……?」
食事が終わった後、俺は片付けを手伝おうと申し出る。10人分以上の分量の料理だったので食器の量とかも半端なかったからだ。
けれど、ルルアはブンブンと首を振ってそれを断った。
「片付けは魔法でやるから大丈夫にゃ。それよりハルトは早く寝るにゃ。それで早くこの世界に馴染んで強くなるのにゃ」
「そ、そう? じゃあそうするよ」
寝室も彼女に聞いて、俺はベッドに倒れ込む。まだ起きているつもりだったのに、気がつくとガッツリ熟睡していた。ふかふかの掛け布団に安眠用の魔法がかかっていたのかも知れない。とてもいい匂いがしていて、嗅いでいたらいつの間にか朝になっていた。
鳥達の賑やかな鳴き声と穏やかな陽の光に、俺のまぶたは自動的に上がる。そのタイミングで部屋のドアが勢いよく開いた。
「朝だにゃ! 起きるにゃ!」
顔を出したのは使い魔のルルア。俺を起こしに来たようだ。お約束のように鍋とおたまを両手に持っている。俺がまだ寝ていたらアレを叩いて起こすつもりだったんだろうな。
俺はムクリと上半身を起こすと、彼女に向き合う。
「ルーちゃんおはよ」
「ルーちゃんじゃないにゃ! ルルアにゃ!」
「ルーちゃんはダメかな? かわいくていいと思ったけど」
「そう言うのはもっと仲良くなってからにゃ!」
ルルアは顔を真赤にして頰を膨らませる。ま、確かにあだ名って普通は仲良くなってからだ。いきなりのニックネームは早すぎたか。
俺はすぐにルルアに向けて愛想笑いをして、さっきの行為を誤魔化した。
「あはは。ところで、もう朝ごはん?」
「全然違うにゃ! 勇者になるための修業をするのにゃ!」
「え~。いきなりやんのぉ?」
「一刻も早く強くなって魔王を倒すのにゃ!」
ルルアに急かされて、俺はベッドから出る。するとすぐにこの世界の服を着せられた。RPGとかでよく見る勇者の服装だ。肩当てがついているマント付きの鎧。ちなみに、彼女の魔法で一瞬で装着したので正式な着方は分からない。脱ぐ時はどうしたらいいのかなコレ……。
俺がこの服の着心地をチェックしていると、ずっと見ていたルルアが突然キレる。
「モタモタしてないで、早く行くにゃー!」
「うわあああ!」
彼女に背中を押されて家の外に出ると、そこには魔女のシーリィがいた。ずっと待っていたのだろうか。俺が到着するとすぐに彼女は振り返り、手に持っていた杖を振りかぶる。
「おはよう、ハルト。じゃあ早速基礎からやりましょうか」
「は、はい……」
俺はゴクリとつばを飲み込む。シーリィが杖を振るうと、俺達は特別な空間に転移した。どうやらそこがチュートリアルルームらしい。彼女は転移したと同時に俺に向かって杖を構える。
「まずは魔法の退避と耐性の訓練からね」
「ちょ、いきなりっすか?」
「今からやる私の攻撃を避けたり耐えたりしてね」
どうやら問答無用らしい。まだ武器も何も持たされず、防具は身につけた鎧のみのこの状態から修行は始まった。
まずはシーリィによる魔法攻撃を避ける修行。失敗すればそれは魔法攻撃に耐える修行になる。魔法攻撃に慣れるために行う、魔女の彼女だから出来る修行だ。ある程度こなせるようになると、今度は魔法の修行が始まった。
魔法の回避修行で何度もシーリィの攻撃を受けた結果、俺は魔法が使えるようになっていた。勇者は剣士なので、基本的に杖を使わずに魔法を使う。剣を媒介にしてもいいし、ただ手を広げて自分の腕そのものを媒介にしてもいい。
「フィヤーボォォォル!」
俺の手の平から放たれた火炎魔法が的を焦がす。それを見てシーリィが修正を入れる。マンツーマンでの魔法修行は彼女が納得するまで続いた。それである程度は使いこなせるようになったものの、未だに剣の修業は始まらない。
「シーリィ、剣の修業はいつ始めるんだ?」
「しないよ。だって私は魔女だもの」
「ちょ、勇者は剣士なんだろ?」
「冒険に出発する時にはいい魔法剣をあげるわよ。剣技は道中の冒険で自力に身に着けて。ハルトなら大丈夫。すぐに強くなれるから」
彼女はそう言ってウィンクする。どうやら得意分野以外の指導は出来ないようだ。俺は溜息を吐き出すと、魔法の修行に集中した。勇者に必要な魔法技術を身につければ、ちゃんとした冒険に出られるからだ。
数ヶ月後、この世界に存在するあらゆる属性の基本魔法を習得した俺は、ついにその日を迎えた。
「今までよく頑張ったね。はい、魔法剣。これを魔物をビシバシ倒してレベルを上げて魔王を倒してね」
「有難う。じゃあ、行ってくる」
「健闘を祈るのにゃ!」
美しい魔女と可愛い使い魔に見送れながら、俺はついに本格的な冒険の旅に出る。どうやらシングルプレイになりそうだ。俺、この世界ではいきなり魔女の家スタートだから、他に知り合いがいないんだよな。
魔女に鍛えられた俺は街に降りる事もなく、魔物を探して倒しながら経験を積んでいく。剣技以外のステータスが割と上がっていたので、最初の道中で現れる雑魚モンスターはほぼ瞬殺。レベルも順調に上がっていった。
ある程度自分の腕にも自信がついた頃、俺は怪しげな気配を漂わせる森に足を踏み入れる。出現するモンスターは割と強敵だったものの、剣と魔法の2つの攻撃方法を持つ俺はそれらを駆使して立ち塞がる魔物をどうにかこうにか倒していく。
この森に入ったのは雰囲気が怪しいと言うのもあったものの、直前でシーリィから『周辺に伝説の剣がある』と言うメッセージを貰ったからでもあった。俺は感覚を研ぎ澄ませて、伝説の剣が発するオーラを感じ取ろうと精神を集中させる。
「多分、アレかな?」
ある程度森の中を歩き回ったところで、俺の直感が何かを感じ取った。その感覚を頼りに獣道を踏み込んでいくと、突然視界が開き、台座に刺さった剣を発見する。以前の勇者が刺したものなのだろうか、そこに漂う雰囲気は間違いなく伝説の剣だった。
「やった……。見つけたぞ」
俺は逸る気持ちを抑えながら台座に近付く。これを抜けば伝説の剣は俺のものだ。そして、この剣こそが魔王を倒せる唯一の剣。このイベントをクリアすれば、あとは魔王を倒すだけだ。俺は興奮しながら剣に向かって手を伸ばす。
と、ここで俺の頭に中で葛藤が始まった。目の前のこの聖剣が本物かどうかと言うものだ。聖剣が魔王を倒せる剣だと言うのは魔王側も知っている。もしこの剣が偽物だったとしたら? 既に魔王軍によってワナが仕掛けられていたとしたら?
そりゃ抜くっしょ
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648991208556
やっぱ止めとこ
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648991563795
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