異世界ファンタジー編
第3話 俺は黒猫に呼びかけた
俺はしゃがみ込んで座っている黒猫の目線に合わせると、そのまま右手を差し出した。
「おいでおいで~」
猫の方も意図を理解してくれたらしく、じいっと俺の方を見つめている。よせやい、照れるぜ。黒猫は逃げる素振りを見せず、呼びかける俺に興味を持ってくれているように見えた。この雰囲気だと近付いてきてくれそうだ。
俺は期待に胸を膨らませながら、黒猫からのリアクションをじっと待つ。
しばらく俺の顔を見つめていた猫は、やがて結論を出したのか、すっと立ち上がった。そのスリムな体のフォルムは、まるで至高の芸術作品のようだ。
「君は見込みがありそうだにゃ」
「なんて?」
黒猫からまさかの日本語が飛び出し、俺の頭は混乱する。すぐに頭を激しく振ってその事実をリセットして、もう一度猫の顔を見た。
「怖くないよ~」
「……」
猫からの反応はない。やはりさっきのは空耳だったのだろう。その代わりに俺の足元に魔法陣が浮かび上がる。すぐには気付かなかったものの、淡い光が回転を始めた事でその事実に俺は猫どころじゃなくなった。
「うわっ、何だこれ」
「怖くないにゃよ~」
今度は猫側から恐れるなと言うメッセージが聞こえてくる。確かに猫が喋っていた。そしてその顔は何かを企むような怪しげな笑みを浮かべている。目が三日月を寝かしたような形になり、ぐにいいと口角も上がっている。
まさか、あの猫が俺をワナにかけた? まさか、この魔法陣は召喚魔法陣?
怖くなってきた俺が立ち上がろうとした時、足元の魔法陣が強く発光する。この現象に、俺は反射的に目を守った。
「うおっまぶしっ!」
光はすぐに消え、俺はまぶたを上げる。そこはもう俺の知っている景色じゃなかった。さっきの魔法陣は予想通りの代物だったようで、俺は誰かの家の何処かの部屋に召喚されてしまっていたのだ。
見慣れない景色を目の当たりにした俺は、すぐに顔を左右に振る。
「どこだここ?」
「いらっしゃい。異世界からの勇者さん」
「えっ?」
気が付くと、そこには魔女がいた。顔を右に触って左に振る間に、その女性は突然現れたのだ。何故魔女だとひと目で分かったのかと言えば、上下黒づくしのお約束の格好をしていたから。もちろん、そう言う服装センスと言うだけかも知れないけれど……。
多分目の前のこの女性がこの家の主に違いない。すぐに色々質問したかったものの、俺はまずあの黒猫を探した。召喚したのは目の前の魔女ではなくあの猫なのだから。
「ルルアを探しているのかしら? あの子は今お茶の用意をしているわよ」
「えっと?」
「あはは、ごめんごめん。まずは自己紹介しましょうか。私はシーリィ。見ての通りの魔女よ。ルルアって言うのは使い魔の黒猫の名前ね。あなたをここに召喚したのも彼女。じゃあ、あなたの名前を教えてくれるかしら?」
やはり俺の予想は当たっていた。魔女シーリィは一方的に自己紹介を終えると、俺にもそれを求めてくる。童話の中の魔女は老婆と相場が決まっているけれど、目の前の女性は若いおねーさんと言った感じだ。肌は透き通るほど白く、その瞳は燃え上がる炎のように赤い。
実際の年齢は分からないものの、見た目では20代後半くらいの魅力的な女性に見えた。あの使い魔の飼い主だけあって、底の知れない妖艶な笑みを浮かべている。
俺はこの状況に流されてはいけないと思いながらも、彼女の言葉に全く逆らえなかった。
「お、俺の名前はハルト……」
「そう、ハルトって言うの? いい名前ね。じゃあ、あなたの疑問に答えてあげる。ここはハルトのいた世界じゃないわ。異世界……って言えばいいのかしら? あなたを召喚した理由はね、世界を救って欲しいの。ルルアは魔王を倒せる勇者を探してあなたのいた世界にまで行っていたのよ」
「俺が……勇者?」
「ええ。ルルアが見初めただけあって、あなたには勇者になれる資質を感じるわ。私が言うんだから本当よ。どう? この話に乗ってくれる? 首を縦に振ってくれるなら、私は精一杯のサポートをするわ」
シーリィは言いたい事を一気にまくし立てると、俺の顔をマジマジと見つめる。ある意味お約束の展開だ。異世界、魔王、勇者……。ここまでくると、きっと今の俺にはチート的な何らかの力が宿っているのだろう。魔法だって使えてしまうのかも知れない。
目の前の魔女は俺の返事を待っている。つまり、それは強制ではないと言う事だ。自分の意志で判断していいと言うのなら、俺の答えは――。
やるぜやるぜやるぜ!
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648991110605
イヤ、やめとくよ
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648992009722
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