2-15話、依頼書。
「うーん、いいのがないな……」
俺は今、冒険者ギルドにある、依頼ボードの前にいる。数多く貼り付けてある依頼書の内容を読みながら吟味をしているが、いい依頼は見つからない。それもそのはず、俺とアメリのパーティー『星々の輝き』はまだギルドランクが低くろくな依頼が受けられない。今貼ってある物は、時間が掛かる上に報酬も低い物しかなかった。
「……今回は見送るか?」
別に急ぐ必要もないと思い、踵を返そうとしたところで、新しい依頼を受付嬢が持ってくる。それを貼っている最中に、周りの冒険者も集まって来た。
俺は人集りに囲まれながら、新しい依頼を見る。そこには目を惹く依頼があった。迷わずにそれを手に取り、カウンターへと持っていく。
「すまない、これを頼む」
「はい、わかりました!」
俺がカウンターの上に依頼書を置くと、受付嬢は書類を確認してから、手元に置いてある大きなハンコを依頼書に押した。
「受付完了しました、それでは頑張ってくださいね」
受付嬢に見送られ、俺はギルドを後にする。今回受けた依頼は、ボルボ山というこの街から南西に位置している大きな山を調査することだった。
今回、なんでこの依頼を受けたかというと調査の量に応じて成果が変わるという点に惹かれたからだ。山を丸裸にすれば、評価も爆上がりということである。
「まぁ、そんなに調べることもないだろうけどな」
もう、数年も前に『天空の理想郷』が踏破を終えた場所である。目ぼしい発見はもうないと思う、今回の調査は魔物の数が増え過ぎていないかの確認が主な理由だと思う。
それでも、新たな発見があれば一気に評価が上がるに違いない。それを俺達は見つけに行く。
「さて、依頼も受けたし一度戻るとするか」
俺は意気揚々と宿へと戻ることにした。
「アメリ、戻ったぞ」
「リッドさん、お帰りなさい!」
俺が宿へと戻ると、笑顔のアメリがそこにいた。その横ではジーナがこちらを見ている。その表情に戸惑いが浮かんでいた。俺はジーナに向かって声を掛けることにした。
「よぉ、婆さん。気分はどうだ?」
「最高とは言い難いね、正直まだ夢かと思ってるところさ」
俺の言葉に苦笑いをしながらジーナはそう答えた。そりゃあ、死に掛けた人間がいきなり若返ったとか誰に言っても信じられないはずだ。見る人が見れば、神の御業だとのたまうだろう。
「そうか、まぁ驚くのも無理はない」
俺は周囲を見回し、近くにあった椅子に座る。これからジーナに交渉をしないといけない。
「なぁ、婆さん。戸惑っているところで悪いが少し頼み事があるんだが」
「……なんだい?」
値踏みするかのように俺を見てくるジーナ。少し空気が重くなったような気がする。それを感じとったのか、アメリがゴクリと唾を飲み込んだのが見えた。
「俺達のパーティーに入らないか?」
「断る」
「……やっぱり?」
即答されてしまった。これは半分程想像していたことだ。この宿がある限りジーナは動こうとしないはずだと、何故だかそんな風に考えていた。
「まぁ、無理強いはしないから考えておいてくれ」
俺はそう言いながら、アメリの方へと顔を向けると、彼女は悲しそうな顔をしていた。俺は話を変える為に、依頼の件をアメリに告げる。
「アメリ、そんな顔をするな。それより、依頼を受けて来たから明日からはそれに着手しようと思う。いいな?」
「……え、船は?」
「それについても当てが出来た。だから、今は依頼に集中しよう」
俺の話を聞いたアメリは、表情を変えて「はい!」と大きく頷いた。これで少しは気分転換になるといいが。
俺はそう考えつつ、明日のことについてアメリに伝えていくのであった。
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