第三十四話、憧れを越えて。
俺はいつから、スキルで戦う事に固執するようになってしまったのだろうか。
思えば、シータと戦っていた時、スキルなど気にしてなかったはずだ。それが、自分に無いスキルという物を手に入れれる事が嬉しかった為、そればかりに固執していた。
元々、俺のラベルは物に貼ることによって能力を発揮する物だ。スキルを使えるようになるのはただの副産物でしかない。だから、今さっきまでの戦いでは100%の力は発揮出来ていない。……何をやってるんだ俺は。
「──アメリ、待ってろよ!」
俺は剣を下に放り投げ、腰のポケットにあるラベルを取り出した。新たな戦い方は、ラベルと『マジックラベル』二つのラベルが必要になる。
口にペンを咥え、右手を動かすことで文字を書いていく。その文字は『ばくは』。そのラベルをあの左手に貼れば倒せるはずだ。ただ、これはそのままでは当たるわけがない。だから、俺はもう一種類のラベルを使う。『必中』と書いた『マジックラベル』をラベルに貼る。
ラベルにラベルを付与する。それが、『ダブル・ラベリング』これが俺の新たな戦い方。
「──いけっ!」
ダブルラベルを騎士の左手目掛け投げつける。猛スピードで飛んでいったラベルは自動追尾をし、左手に直撃して綺麗にラベリングをしてくれた。
──ユニークスキル『ラベル貼り』、その効果は綺麗にラベルを貼ることが出来るだけ。それは、今までの人生でずっと笑われて来た効果だった。その効果が今この瞬間に化ける。
ラベルが貼られた騎士の左腕は、爆発して飛び散った。『ばくは』の効果がしっかりと発動したことに俺はほっとする。いきなり近くで左手が爆発したことにアメリは少し驚いているようだった。
「は、はは──なんだよ。お前、こういう時の為のスキルじゃねぇかよ!」
長年付き添ってきた、無能と呼ばれたスキルにも使い道があった。そのことに笑えて涙が出てくる。誰にだって、必要とされる時が来るんだと俺は知る。
『ラベル貼り』の使い道はまだまだある。俺の『ラベル貼り』にはこういう使い方も出来るはずだ。
『ふくげん』と書いたラベルを左の肩に貼った途端、無くなっていた腕が肩から生えてくる。これはスライムが復活したことから思いついた。
これで左手も使えるようになり自由が利く。ついでに、左足も『復元』してからスキルの『浮遊』を外して地面に降りる。
「……最初からこうすればよかったのに、何で思いつかなかったんだろうな」
そして、シータに歩みより『蘇生』のラベルを貼ってやる。一度死んだスライムが生き返ったのなら、俺のラベルには死すら乗り越える力が備わっているはずだ。
「──ごほっ!」予想通りシータは息を吹き返す。これでもう大丈夫だ、後はあいつを倒すだけ。今の俺達なら、それは造作もないことのように思えた。
俺は地面に落とした武器を拾い、アメリの横に並び立つ。
「アメリ、待たせたな! 俺はもう大丈夫だ! 一緒に行くぞ!」
「はい、リッドさん!」
見なくても、アメリが頷いたのがわかる。俺達は今心を通い合わせていた。
「行こう、アメリ。ここからはもう、相手の番じゃない。──俺達の番だ」
そう言いながら、俺は彼女の剣に『エクスカリバー』のラベルを貼る。英雄なら……いや、アメリならばやってくれるはずだ。
「俺が動きを止める、だからその間にそいつを撃ってくれ。……使い方はわかるな?」
アメリは頷き、騎士と向かい合う。騎士も俺達の意志を感じ取ったのか、身体を元に戻して剣を構えて来た。それを見て俺は叫ぶ。
「──さぁ、行くぞ! これが最後の戦いだ!」
俺の声を機に、アメリと騎士は斬り結び始める。それを見ながらも俺は必死に思考を巡らせていた。あの核を潰す為には『必中』と『破壊』の組み合せでいけるかもしれない。
そう安直な考えで放ったラベルは騎士のエクスカリバーによる光であっさりと消されてしまった。どうやら、さっきの左腕の最期を見ていたみたいだ。
──なら、動きを止めてやる。アメリのサポートが俺の役目だ!
『停止』、『粘着』、というと相手の動きを阻害出来そうなラベルを相手にばら撒いてみる。それらは全部消されてしまったが、アメリの剣が右腕に吸い込まれる。
相手が剣を取り落とせばそれで終わりだ。そう思われた瞬間、騎士の鎧が溶け、スライムの姿へと変わる。それは、シータが倒した奴より二回り程小さい姿。それがコロコロと転がり回りながらアメリの追撃を回避した。
「そんなことも出来るのかよ!」
「ダメっ、速くて捉えられない!」
地面の上をスライムは疾走している。身体中を棘だらけにして、地面にその棘を食い込ませスパイク代わりにして加速していく。
「うっ!?」
途中で、急な方向転換をした後、アメリに飛び掛かる。いきなりのことでアメリは驚き剣で受けようとする。
「──ダメだ、アメリ! 避けろ!」
俺の声に反応して、アメリは回避をした。スライムは自身の身体にエクスカリバーの光を纏っている。あれを受ければ今のアメリでも一たまりもないはずだ。
さっきからラベルを飛ばしているが、どんどん速度を上げているスライムに当たる気配が無い。だけど、俺にはもう一つ狙いがあった。
『■■■■■!?』
唐突にスライムの動きが止まり、金属が擦れたような鳴き声を上げる。そこには、俺の投げたラベルが沢山転がっていた。それらには全て『粘着』の文字が書いてある。
それは、『停止』のラベルと一緒に最初から仕掛けていた罠。それがここに来て機能した。
──これが、最後のチャンスだ!
「アメリ、今だッ!!!」
俺が叫ぶよりも早く、アメリは『エクスカリバー』を上段に構えていた。その剣は黄金に光り、七色の虹を纏っている。
『■■■■■■■!!!』
スライムも咄嗟に騎士の姿へと変わり、輝く黄金の剣を上段に構えて光を纏わせる。逃げ場を無くして覚悟を決めたみたいだ。それを見たアメリは叫ぶ、伝説の剣の名を。
「エクスッ!」
『■■■!』
一人と一匹の声と音が共鳴し、森に響く。二つの『エクスカリバー』がぶつかり合うのは俺の知っている御伽話を越えている。──ここから新たな物語が紡がれていく、何故だか俺はそう確信した。
「──カリバァァァァァァ!!!」
『──■■■■■■■■■!!!』
二つの黄金の光が森の中で迸る。それは、両者の間で少しの間拮抗をする。しかし、すぐに拮抗は崩れ去った。
「ぐぅっ、うわぁあああああああああああ!!!」
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』
徐々にアメリが押されていく。今ラベルを送ったとしても、もう間に合わない。だけど、俺達にはもう一本『エクスカリバー』がある!
俺は躊躇なく、もう一本の『エクスカリバー』を構えた。それは、老婆からもらった剣──アメリを守るのに使えと言われた剣だ。剣を強く握り直し、俺は吼える。
「残念だったな! お前の武器は確かに凄いよ、俺の憧れたエクスカリバーその物だ。だけど、お前は英雄ではなく偽物! ならば、俺達が勝てない道理はない!」
騎士の姿をしたスライムは、俺の憧れの英雄その物だった。だけど、本物の英雄を見て、その気持ちは薄れてしまった。だからもう、子供の頃に抱いた幻想は捨てる。──今から俺は英雄と共に歩んで行く。
「さぁ行くぞリッド、夢の果てに続く道の第一歩を」
俺は自分に喝を入れ、上段に剣を構える。そして、子供頃の自分を断ち切るかのように思いっきり剣を振り、剣の名前を叫んだ。
「エクスッ! カリバァァァァァァァ!!!」
俺の叫びと共に、光が剣から放たれる。それは、アメリの光を後押しして、一筋の光となりスライムを飲み込んでいったのが見えた。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』
スライムが最後の断末魔を上げている。重なった三つの光は更に眩しさを増し、やがて光は白に変わった。
白の世界、そこで俺は世界の果てを見た。その世界は何の音も無い世界。その場所で俺は、『物語』の始まりを感じた。
「────今のは?」
目を擦るがもう何も見えない。その代わりに見えたのは光が消えた跡。その場所には何もなかったみたいに全てが消し去られている。さっきまであれだけ存在感を誇っていたスライムも完全に消滅していた。
「はぁ……はぁ……やったんですよね?」
アメリは恐る恐る聞いてくる。それに俺は頷き、「ああ、俺達の……勝ちだ!」勝利宣言をした。
俺の言葉を聞き、アメリはこちらへと走ってきて、俺の胸に飛び込んでくる。俺はアメリを抱き留め、そのまま地面へと転がった。
「──アメリ!?」
「よかった……本当に……」
驚く俺の胸の中で、アメリは泣きながら喜びを嚙みしめていた。俺はアメリの頭を撫でる。強くなっても彼女は俺の知る彼女のままだ。
「やったんですよね……私達……」
「ああ、奇跡的にな」
俺は、今回の事は勝ったと思っていない。間違いなく、全員死んでいた戦いだった。死を覚悟したのも一度や二度じゃない。
それでも、俺達は勝つことができた。その死線を打ち破ってくれたのは、俺の胸の中で泣く小さな英雄。
「なぁ、アメリ……本当に俺と来るのか?」
今のアメリには数多の輝かしい未来が開けている。それをこんなおっさんの夢に付き合わせるのも気が引けてしまう。しかし、アメリは俺の言葉を聞いて不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「……何言ってるんですか。当たり前ですよ!」
「……そうだよな、すまない。変な事を聞いて」
アメリが普段見せない顔をする程に怒っているのがわかった。彼女の意志がこれ以上ない程に伝わってくる。だから俺はそれを受け入れた。
「それにしても……疲れましたね……」
気付けば、アメリの目がとろんと垂れている。これは、エクスカリバーの反動だろう。俺も同じく目が塞がってきていた。視界がじわりじわりと黒く染まっていく。
「ああ、そうだな……少しゆっくり休むとするか……」
俺はアメリの言葉に頷き、目を閉じる。耐えきれない程の疲労がどんどんと意識を蝕んでいくのがわかる。
「……リッドさん、起きたら計画立てましょうね。……二人の夢の」
そう言い残し、アメリは何も喋らなくなってしまった。どうやら眠ったしまったらしい。
「…………もう、俺一人の夢じゃないんだな」アメリの言葉に胸が温かくなる。
──いい夢が見れそうだ。
アメリを抱き締めながら、俺は意識を手放したのだった。
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