第二十九話、決意。
「…………嘘だろ?」
シータの言葉に俺の思考は停止した。こいつが本体じゃない? ……これだけ手強いこいつが?
「ごぼっ……本当だ。こいつは、スライム系列のはずだろ? なら、核は必ず無ければおかしい。今まで核がないやつなんていなかったからな……」
シータは説明をしてくれる。その説明を聞いて腑に落ちたことがいくつかある。『鑑定』が効かなかったこと、『エクスカリバー』をノーリスクで撃てたこと。本体が肩代わりしているのなら説明がつく。
「最後の悪足掻きも本体がいるからってわけだ、くそったれめ!」
シータは飛び散った破片に向けて悪態を吐く、その隣ではアメリがシータの手当をしていた。チラッと見えたが、シータの腹の傷は相当深く、ポーションだけでは完全に回復仕切れないはずだ。つまり……これより強いかもしれない相手をシータ抜きで戦わなければいけない?
「つーか、ラルフがまずいな……多分、ハルトのところに本体がいるんじゃねぇか? 俺の勘がそう言ってやがる」
シータは舌打ちをして、唇を嚙みしめる。先程から立ち上がろうとしているが、力が入らないのか立ち上がることも出来ない。
シータが倒れていた地面には腹から溢れ出した血が水溜まりのようになっていた。明らかに血を流し過ぎだ。これ以上怪我をすると最悪死んでしまう。
──俺達がやるしかないのか。
戦闘の支柱を失ってしまったという不安が心に影を作る。──それに、ラルフもやられていたとしたら……
俺はアメリを見る。今動けるのは俺とアメリだけの可能性が高い。アメリは不安そうな顔でこっちを見て来ている。その目には戸惑いが浮かんでいた。
──俺は今、決断しなければいけない。……進むのか、戻るのかを。
まず、戦力は俺とアメリ二人だけ、シータはこれ以上戦わせられない。ハルトとジェシカも身動きが取れない可能性が高い。ラルフも同様。
一度戻ってカミラやアドルフに頼む? 相手の戦力が未知数な以上、無駄な犠牲を出すだけの可能性がある。それに、アドルフにはもう家族がいる。無茶には付き合わせられない。
俺は手持ちのアイテムを見る。さっきの戦闘と俺とシータの回復でかなりの数を消耗してしまった。鞄がやられたのは痛手だ。身体が軽くはなったがその分、大怪我をしてしまったらもう回復は見込めない。そのまま死んでしまうだろう。
「──おっさん、もう帰れ。アンタには元々関係ないだろ。これは俺達のギルドの話なんだからな」
シータが震える身体を無理矢理に起こす。その顔は青く、動ける状態じゃないのは明白だ。
「それに、アンタの動きじゃ勝ち目はない。さっきの奴との戦闘を見て思った。俺が守らなきゃ、二回は死んでたぞ?」
「──ああ、知っているさ。お前に迷惑を掛けていたことも」
自覚はある、シータが俺が狙われないように戦闘の短期決着を狙ってくれたのも全部わかっているんだ。でも、ここで逃げたら前の自分に戻ってしまう。何故だか、そんな未来が容易に想像出来てしまって──
「それでも……俺は、行く。ここで変わらなければ、俺は永遠に前へと進めないんだ」
どうすれば、上手く戦えるのかはわからない。自分に合った戦いも確立出来ていない。それでも、逃げるのはもう嫌だ。逃げるのは、もう30年もしてきているだろ? ──なら前に進めよ。絶望の筋書きを貼り替えろ。『敗北』から『勝利』へと!
「ははっ、やっぱりおっさんは馬鹿だな!」
シータは面白がって笑う。もういいよ、馬鹿で。馬鹿だから、使えない武器も使う。きっと、これを使わないと倒せない敵だから。
俺は老婆からもらった剣に『エクスカリバー』を貼る。これで、絶対に一撃で決めないといけなくなった。リスクを乗り越えた先に勝機はあると俺は信じた。
「アメリはどうする? 離れるなら今だぞ?」
「──行きます。リッドさんが変わると言うのなら私だって変わりたい!」
アメリはハッキリと自分の意志を言葉にした。その目にも、強い意志が溢れている。その言葉に俺は頷く。
「それじゃあ……行くぞ!」
二人が頷くのを見て、俺は森の奥へと踏み出した。
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