第二十四話、剣の行き先。
俺は宿で老婆から鞘をもらった後、冒険者ギルドへと早足で向かう。アメリの足ならば、もう着いてるはずだと思った。
「おーい、アメリ!」
ギルドの前に着くと、予想通りアメリの姿が見えた。辺りをキョロキョロと見回していたので、声を掛けて手を上げるとパッと明るい笑顔に変わり、こちらへと小走りでやってくる。
「リッドさん、アドルフさんにはちゃんと伝えてきました! ようやく起きたか馬鹿。と伝えておけと言われたので伝えておきます!」
アメリは鼻息荒く、俺に報告してくる。その内容を聞いて、俺はげんなりした。
「いや、アメリ……まぁいいや。ありがとう」
そういうのは別に言わなくてもいい。と言おうとしたけどやめておいた。こっちの方が彼女らしくて良い。
俺がギルドの中へ入ろうとすると、アメリは俺の後ろをちょこんと付いて来た。その姿をちらりと横眼で確認してからカウンターへと向かう。
「すまん、ギルドマスターはいるか? リッドナーが来たと言えば多分来るはずだ」
今日のカウンターにはカレリアがいなかった。その代わりに女性の職員が三人増えていた。これが買い出しに行っていたという従業員だろう。
受付嬢はにこやかに笑い、「少々お待ちください、今呼んで参ります」と言い奥の部屋へと消えていく。そこから数分待つと、奥の部屋からカレリアが出て来た。身体をぼりぼりと搔きながら、大きな欠伸をしているところを見るにどうやら寝起きのようだ。
「おう、来てやったぞ。──とりあえず、裏へこい」
カレリアは、指で奥の部屋を指さす。俺はそれを見て頷き、カレリアの後を付いて行った。
カレリアが部屋の扉を開けると、中が見えた。部屋の中はテーブルとソファーが置いてあるだけで、調度品や飾り物が全くなく、まるで取り調べ室のように思えてしまう。横にいるアメリが少し震えるのがわかった。
ドカン、と身体を投げ出すようにソファーに座ったカレリアを見て、俺とアメリは向かいのソファーへと座った。カレリアは俺達の姿を見ながら、顎に蓄えた髭をいじっている。これがカレリアの考え事をするときの癖なのかもしれない。
「──ふむ、どこから話したものやら。俺が言うよりお前から聞かれたのを答えた方が楽そうだが」
カレリアがそう言ったのを聞き、俺は頷く。俺からすると、そんなに聞きたいことはない。
「そうだな、質疑応答という形にさせてもらう。まず、ラインハルトとジェシカの件からだ。進捗は聞かせられるか?」
「ああ、言えるぞ。まぁ、ギルドの恥を言うだけだがな。昨日、ジェシカが戻らなくなったから俺は冒険者を送った。そいつらの行方もわからなくなった。それで終わりだ」
俺の問いに、カレリアは両手を挙げる。これはお手上げという意味だと悟った。
「何が起きているかわからないのか?」
カレリアは頷き、バツの悪そうな顔をした。まさか、被害が出ているのに情報すら掴んでいないとは思っていなかった。そこで、一つ気付いてしまったことがある。
「──そもそも、なんでラインハルトに白羽の矢が立ったんだ? あいつを行かせるだけの理由があったはずだ」
俺は事の始まりを聞いてみる。最初に聞いたのはジェシカから。確か、緊急と言っていた。カレリアもアイテムを買い出しに行かせていたはずだ。──それは、何かがあったから。
カレリアは、顎髭をいじり始め。間を置いてから訥々と話始める。
「──森のな、一部が消えていたんだ」
「……なんだって?」
俺は一瞬、言っている意味が理解出来なかった。カレリアは続ける。
「あの森で今までそんなこと起きたことがないからな、俺達は新種のモンスターが出たと思ったわけだ。そこで、この街で力を持っているギルドに調査を頼んだというわけだが……どうした?」
カレリアの話を聞きながら、俺は身を竦ませる。肌が粟立つ感覚、血が引いていく感覚、それらを一身に感じていた。……頭の中で、森を消した元凶に思い至ってしまったからだ。
『エクスカリバー』はどこへ消えたのか? その問いに対する答えが、明確に形となった気がした。
「……リッドさん、まさか」
アメリも同じ考えに行き着いたようだった。草原で、光が通った跡をアメリも見ているから気付くかもしれないとは思っていた。──ただ、タイミングが悪い。
「……あん? お前ら、何か知ってんのか? ──まさか」
腹の底が冷えるかと思うドスの効いた声と共に、突然空気が重くなっていく。
「──ハッ、ハッ」
アメリの呼吸が荒くなっていくのが耳に聞こえてくる。彼女はこの空気を味わったことはないに違いない。俺は、カレリアに睨むように見据える。
「知っているが、やったのは俺ではない」
重い空気を壊すようにハッキリと言ってやる。この脅しは長年生きてきた中で何回も味わってきた。……まだカレリアのは弱い方だ。
俺が言葉を放つと共に、すぐに空気は元に戻っていく。アメリがまだ息を吸えていなかったので、背中をポンポンと叩いてやるとゆっくり深呼吸をし始めた。
「ほぅ、サポーターをずっとやってたって割には中々肝が据わってんな……わかったお前の言うことを信じる。その代わり、知ってることを言え」
「わかった、簡単に話すと俺のスキルで光を出す武器が作れるようになった。その武器は刀身が無くなってしまって草原に置いてきてしまって、取に行ったらなくなってしまっていた。わかったか?」
「わからん! 全然説明が入ってこなかったぞ!」
早口で巻くし立てたせいか、カレリアは文句を言ってくる。カミラにも説明したし、何回も説明するの面倒なんだよな……
「……リッドさん、『マジックラベル』を見せるのが早いと思います」
立ち直ったアメリが俺に提案をしてくれる。それは今の俺の助け舟となった。
「──あ、そうか。アメリ、ありがとう」
そして、俺はアメリの言う通り『マジックラベル』を手に取り出しカレリアに見せる。
「これが俺のスキルだ。何にでも貼れて、何の効果でも付けることが出来る。今回は『エクスカリバー』っていうラベルを剣に貼ったんだ」
「『エクスカリバー』? それって、御伽噺に出てくる武器じゃねぇか! お前なんてもんを!」
お、カレリアは知っていたか。ギルドマスターをやっているだけあるな。俺は、うんうんと感心する。
「……ということは、その力を悪用している奴がいるってわけか」
「でもな、俺が一撃放った時はそのまま意識が無くなったんだ。そうそう連発出来るもんじゃなかったぞ。それに刀身も無くなったしな」
カレリアはそれを聞き「やっぱりお前が原因か!」と言ってくるが、「俺じゃない、人聞きの悪い」と返しておく。事件の発端は俺のせいかも知れないが、犯人は違う。
「それでも、俺以外がラベルを貼っても効果がないと思うんだけどな。どうやってるかは皆目見当もつかない」
「ふむ、でも実際に森が消えてるってことは、そいつは力が使えているんだろうさ。この際方法は関係ねぇ。今をどう動くかだ」
この言葉を聞いて、カレリアの事を尊敬しそうになってしまった。俺は剣が使えるようになった理由ばかりを考えていた。着眼点の違い、これが経験の差かと納得する。
「とりあえず、俺が行かないと対処出来ないかもな」
いきなり聖剣をぶっ放されるなんてかなりの恐怖でしかない。一度、光を見たことのある俺とアメリは行った方がいい。……まぁ、行くなと言われても行く二人組なんだが。
「私も行きますね。行くなと言われても行きますから!」
──ほら、思った通りだ。
「……そうか、だがどこにいるか見当は付いているのか?」
「ああ、森の奥に洞窟があって、そこにハルトがいるのが見えた。ジェシカもハルトの横にいるはずだ」
「見えたって……ああ、そのラベルか。いいスキルもらったじゃねぇか。なら、後は……行くメンバーだな。心当たりはあるか?」
俺は首を横に振る。アメリに視線をやってみるが、困った顔をした。いたら二人で行動はしていない。
「まいったな……今から他のギルドを当たろうにも時間が掛かってしまうしな、最悪二人で行ってもらうしか……」
カレリアは、申し訳なさそうに下を向く。仕方がないと諦めかけたその時、表でやたらとでかい声が聞こえてくる。……耳を澄ませば、それはよく知った奴の声だった。
「──帰って来てみりゃハルトもジェシカもいないと来た! それにギルドの人離れが深刻だぁ!? おい、
「──シータ、落ち着け!」
それは、普段の俺達なら嫌な気分にさせる声。でも、今の状況ではこれだけ頼れる奴はいなかった。
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