第二十二話、『薄幸の少女』
「『ラベル貼り』レベル2。ラベルを貼ると、書いた数値に変更することが出来る。それと、『マジックラベル』魔力で出来たラベルを生み出すことが出来る……って書いてあるな」
「なんか、また凄いのが来ましたね……でも、『マジックラベル』ってなんでしょうか?」
アメリは顎に手を当てて、真剣に考えてくれている。その間、俺は思いついたことを試してみることにした。
「『マジックラベル』!」
まずは、スキル名を叫んでみた。──しかし、何も起こることがなかった。少し寂しい。
「名前を呼ぶと出るスキルって割と多いんだけどな……」
俺は頭を掻きながら、他に方法を考える。もしかすると、これが使えるようになればハルトとジェシカを助けに行く為の足しになるのかもしれないのだと思うと、どうしても焦りが生まれてしまう。
「──リッドさん、頭の中にラベルをイメージしてみるとかどうですか? それでスキル名を言ってみるとか!」
アメリは新しい意見を提案してくれる。そうだな、何でも試してみるべきだと思い、俺はイメージを想像しやすいように、目を瞑る。
イメージするのはいつも使っているラベル。もう何十年も使っているから質感、手触り、匂いまで簡単に思い出すことが出来る俺の相棒。
──俺は、頭の中にラベルを想像し叫ぶ。スキルの名を。
「『マジックラベル』!」
「──わぁっ!」
俺が声を上げるのと同じくして、横からアメリのびっくりした声が俺の鼓膜を震わせる。目を瞑っていたので、少し驚いた。
何が起きたのかを見る為に、ゆっくりと目を開く。そこにあったのは幻想的な光景だった。
「おおっ、凄いな」
ほとんどが闇に染まっている部屋が、青白い光により照らされていた。光がどこから漏れているのかを探すと、俺の握られていた右手の中から、それは存在を示すかのように放たれていた。
俺は緊張から生唾を飲み込む。そして、恐る恐る手を開いていく。そこには青白く光る、質量を持たないラベルがある。それは、頭に浮かべた物と全く同じ形をしていた。
「……これが、『マジックラベル』か」
触れようとすると、手をすり抜けていく。それを三回程繰り返した時点で俺は諦める。魔力で作られているからか、物理的には触れないみたいだ。
「どうやって使えばいいんだこれ?」俺は疑問を口にする。スキルの説明が無さすぎる! 誰だこの説明文を書いたのは! 俺は内心でキレていた。スキルを使うのに、何故こんな謎解きをしないといけないのか!?
「頭の中で文字をイメージしてみるとかどうでしょうか? そのラベルを出した時と同じように」
「……お、おう。そうだな」
アメリがあまりにも冴えているので、俺は言われるままに行動をする。頭の中に出来たラベルに文字を入力していく、その文字は『鑑定』。理由として、これが一番効果を実感しやすいからだ。
すると、『マジックラベル』の一枚に文字が書き込まれていく。それを、スキル欄の一番上に貼り付けるイメージをすると、効果はすぐに表れる。目の前にはアメリのステータスが浮かび上がった。
確認をしてみると、いつの間にか『鑑定』のラベルはスキル欄に貼られている。今度は逆に剥がすイメージをしてみると、アメリのステータスは消えていく。慣れると簡単に使えそうだった。でも──
「便利だけど物足りなく感じるな。これなら普通のラベルでも……」
そこまで言ったところで一つ、普通のラベルでは出来ないことを思い出す。俺はそれを試す為、もう一度『鑑定』を貼り、ステータスを閉じる。
「……リッドさん?」
「うん、やっぱり思った通りだ。このラベルなら、ステータスを常に開いている必要がない」
魔力の塊で出来ているステータスプレートに、物質であるラベルは馴染まない。でもこのラベルはその弱点を打ち消す性質を備えていた。これなら、やれることが増える。
「ふむふむ、それなら私のステータスもラベルで変えたままに出来るってことですかね?」
「……そうだな、先にそれをしておくか」
俺はアメリのスキルを入れ替える為、彼女を『鑑定』する。同時に、俺がこの前見たステータスが目の前に表示された。
「──よし、これでいいな」
俺はサクッとアメリのスキルを強化させる。これで彼女はレベルが上がる度に、段違いに強くなっていくはずだ。それにしても……
「この、レベル38で解放されるスキルってなんなんだろうな?」
「私のステータス画面ではわからないんですよね……本当にあるんでしょうか?」
アメリが首を傾げているのが見えた。窓の外は夜が明け始めて来たのか、仄かに部屋が照らされ始めている。
「なぁアメリ。せっかくだから一個目の奴、試してもいいか?」
俺は、アメリの返答を待つ時間の中で『38』と書いたラベルを作った。
「……そうですね、お願いします!」
アメリが俺を見ながら、しっかりと頷いたのを見てからラベルを貼る。無事に、アメリのレベル表記は38になるが、表面上は何も変わらないので本当に成功したのかわからない。
「これで、レベルが38になったはずだ。見てくれないか」
「はい! ステータスオープン!」
アメリはステータスを開く。そして、ゆっくりと顔が驚きへと変わっていくのがわかった。
「成功してます! これが、リッドさんの新しいスキルなんですね……」
アメリが俺の能力が強くなったことに喜んでくれていた。俺は照れ臭くなって頬を掻く。
「そ、それより、アメリの新しいスキルを見ないとな!」
俺は照れ隠しに、話題を変えることにした。アメリがクスクスと笑っているのはそれに気付いているのかいないのか。とにかく、俺はアメリのスキルを見て、そこに書かれていた文字を見て絶句してしまった。
『薄幸の少女』経験値の上昇量が減り、パラメーターが伸びなくなる。
──なんだ、これは。
絶望のスキルがそこに書かれていた。そもそも、なんでこんなスキルが存在しているんだ。俺はアメリを横目見る。そこにいるはずのアメリは無表情でその文字を見ていた。何を考えているのかはわからない。
きっと、いい能力が隠されていると思っていた。それでも現実は残酷だ、実際に待っていたのは地獄だった。
もし、これが俺だったらどうだっただろう? ようやくスキルのレベルが上がって、それでもいい能力がもらえなかった場合、どんな気持ちに──
「──リッドさん」
アメリの言葉に、俺はびくっと身体を震わせた。どんな言葉を伝えればいいのか思いつかない。慰めた方がいいのだろうか? でも、それでは余計惨めになるのではないか?
さっき、俺の心を救ってくれた少女に対して何も出来ないことが辛くて、手を思い切り……血が出ると思う程に握り締める。
「アメリ、その──」
何も思いつかないまま、俺はしどろもどろになりながらも言葉を選ぼうとした。空気が淀み、重くなっていくのが肌でわかる。その重さで、俺の口は閉じてしまった。掛けれる言葉なんて、思いつかない。
「なに緊張してるんですか! やだなぁ、もう!」
そんな空気は、アメリの一言で一蹴される。「ははは」とアメリは笑った。
「まぁ、私が幸薄いのはそうですし。あぁ、やっぱりなぁ……ぐらいにしか思っていませんよ!」
アメリは笑う。でも、その顔はいつもの笑顔とは少し違った。彼女は嘘は吐けない人間なのかもしれない、それに演技もいまいちだ。
だって、そこには──諦め。そんな表情が浮かんでいるのだから。俺はそんな彼女を見て泣きそうになる。
彼女は吐けない嘘を、俺の為に吐いてくれている。きっと、それが俺と横に並ぶ為の方法だとでも思っているのだろうな。……馬鹿野郎。
持つ者である俺には、持たざる者になってしまった彼女に言葉をかけることなど出来ない。だから、俺が出来るのはこれだけだ。
頭の中で、もう一度『マジックラベル』を展開し、アメリのスキルを貼り替える。彼女が幸せになるように祈りを込めて。
『 幸の少女』経験値の上昇量が増え。パラメーターが伸びやすくなる。
これが、俺が彼女に出来る最大限の祝福だった。これを見て、アメリの笑いは止まる。
「……リッドさん、ありがとうございます」
──アメリの声は消え入りそうな程に小さい物で、それは彼女の気持ちを表しているように思えた。
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