最終話 これまでのこと、これからのこと

「お父さんから聞きました。美人な彼女さんができたみたいですね?あのゲームの望ちゃんに似ているんだから、まあ相当な美人なんでしょう。なんだか腹が立ちますけれど、良かったと思えるようになりました。フラれないように頑張ってください。またバイトのときにその話をしましょうね!」

 

希実

「わかっていたけれど、由衣はOKしちゃったかあ。それから3月14日が終わったのにお返しを貰っていないんだけれど?何でも好きなもの強請って良いってことだよね?じゃあブランド物がいいな!」


「おいおい!どういうことだ!どうしてお前がゆいっぺの彼氏になっているんだよ!

水本、これで終わりじゃないぞ、俺は諦めないからな!」



「見てよ、これ」

2人で買い物に出かけた約束の日、清輝は由衣に自分に送られてきたメッセージを由衣に見せた。

「清輝、随分と恨みを買っているようだね」ショッピングモールの屋外に設置されているガーデンパラソルの椅子に寄りかかり、由衣は我関せずと苺ミルクのスムージーを飲んでいる。

「呑気なことを言っていないでよ。潤なんか諦めないとか言っているし。そもそも由衣はこのことを知っていたの?」

「潤はわかりやすいからね」由衣はストローから口を話すと困った顔で清輝を見た。

「希実さんにはお返しのクッキーを買ってあるんだから、早く渡さないと」

「そうだね。そうしないと希実は容赦しないと思うよ」

「まったく他人事だと思って・・・」

「休憩もしたことだし、よし、買い物を再開しよう」

由衣は空になったコップをゴミ箱に捨てると大きく伸びをした。

「結構店を見て回っているのに、由衣がなかなか決めないからだよ」

「値段と相談しているんだから文句を言わないの」

「そうでした・・・」清輝は髪の毛を掻きながら立ち上がった。


「茜ちゃんって言う子のお父さんだったんだね」

由衣は思い出したように隣を歩く清輝を見た。

「本当に驚いたよ。人が良くて面白いお父さんだと思っていたけれど、まさか専務とは・・・あの感じだと結構な大企業っぽいし。それで、どうして自宅の車が軽自動なんだろう。なんだか不思議だよ」

「いいんじゃない。そういう人は魅力があるし」

「そういうものなの?」

「そうだよ。そういえば、あのゲームってもう消しちゃったの?」

「まだアンインストールはしていないけれど、近いうちに消すつもりだよ」

「希実には見せないの?」

「うーん、もういいかなって」

「清輝にしては強気だね。ねえ、それでも、あのままとっておこうよ」

「どうして?」

「記念だよ。記念。それで清輝が私にフラれたら消せば良いの」

「あ、俺がフラれることが前提なんだ・・・」

「冗談なんだから、そんなに辛気臭い顔をしないの」

2階でエスカレーターを下りると、先を歩いていた由衣は顔を輝かした。

「良いものが見つかったの?」

「ううん。あの服が清輝に似合いそうだなって思ったから」

「俺の買い物じゃなくて、今日は由衣の買い物だからね」



「決めた。今度は私が清輝をプロデュースする!」

「はあ?何を言っているの?」

「だから、私が清輝をアイドルに・・・それは絶対に無理だから、似合う服や趣味を一緒に探すの!」

「ちなみに、そのプロデュースにかかる金銭は?」

「それは清輝が払うに決まっているでしょ?」

「あ、やっぱりそうなのね」

「少しは喜びなさいよ」

「まあ、由衣と付き合えただけで喜んでいるんんだからこれ以上、喜ばなくてもいいんだけれど」

「臆面もなくそう言える清輝って、ある意味、凄いよ」由衣は明らかに照れている。顔をまともに合わせようとしない。


「でも、本当に私を選んでくれてありがとう」由衣は俯いて小声で呟いた。

「え、何、よく聞こえなかったんだけれど?」

「いいから、ほら買い物を続けるよ!」

由衣は清輝の背後に回り込むと、照れた顔を隠すように両腕で背中を押した。

いつ始まったのかわからない恋愛関係が、いつまでも続けば良いと思いながら。

 


紗枝、玲、あかり、唯、望。申し訳ないけれど、しばらくプロデューサーの職を離れます。

君たちをプロデュースできたことを感謝しています。

いつ再会できるのかはわからない。再会できないかもしれない。

こんなダメなプロデューサーでごめん。俺はプロデューサー失格だ。


「私はプロデューサーさんのおかげで少しだけ前向きになれました。アイドル活動だけじゃなくて勉強も頑張ります」星野紗枝


「残念ですが、プロデューサーにも色々と事情があるのでしょう。でも、私は、いいえ、私たちはプロデューサーが戻ってくるのを待っています」速見玲


「プロデューサー、なんで?どうしていなくなっちゃうの?嫌だよ、これからもプロデュースしてよ!」七崎あかり


「少しの間のですが、お世話になりました。それから、私にビジュアルレッスンしているときのプロデューサーの目つきがいやらしかったです。あ、嘘ですからね。真に受けないでくださいね」渡辺唯


「プロデューサー、もっともっと前へ進もうよ。なんとなくだけれど、そう言いたいんだ」

山本望



由衣には話していないが、すでに別れを済ませた。

そして、望。君は由衣の存在を大きさに改めて気づかせてくれた。

本当にありがとう。



清輝は買い物に夢中になっている由衣の手をゆっくりと握った。

「へえ、そういうこともできるんだ?」困惑しているが嫌ではなさそうだ。

「約束したんだ。ゲームの中の由衣と。もっともっと前へ進むって」

「さすが私、良いことを言うね」

そう言うと、由衣は照れながら清輝の手を握り返した。






              「完」


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ガシャガチャアイドル -新人プロデューサーは今日もゲームとリアルで苦悩するー モナクマ @monakuma

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