第531話 挑発からの楽しい戦闘

「ビ、ビジョンさん!!」


 リヒトが人をかき分け、ビジョンの名前を呼ぶ。


 周りの人の視線が刺さるリヒトは、今すぐにでもエトワールのお願いを終らせようとビジョンへと駆け寄った。


「な、なに……?」


 まさか、見ているのがバレた?

 そう思い怖がっていると、予想していない問いかけに顔を赤くした。


「ビジョンさん、私と、組みを組んでいただけませんか?」

「~~~~~~~~~よろこんで!!」


 嬉しさのあまり、リヒトの手を掴むビジョン。

 その事に驚きつつ、リヒトは「あ、ありがとうございます」と、笑みを浮かべた


 あまりの可愛さに胸を貫かれたビジョンは、「ぐはっ!」と、胸を押さえその場に倒れ込んでしまった。


「え、ビジョンさん!? な、なんでぇぇぇえ!?」

「あははははははっ!!!」

「笑ってないでどうにかしてくださいよエトワールさん!!」

「あははははははっ!!!」

「笑うなぁぁぁあぁああ!!」


 この場を落ち着かせられる人などおらず、エトワールの笑い声と、リヒトの怒りが数分間続いた。


 ※


 無事に組み分けが終わると、教師陣が沢山学校から現れた。


「では、ここから場所を変える。昨日と同じ闘技場だ」


 言いながら、歩き出す。

 未だに笑っているエトワールと、鼻血がでて止まらないビジョンを引き、リヒトもついて行く。


「大丈夫かなぁ、このメンバーで」


 リヒトの不安の声に反応する人はなく、闘技場にたどり着いた。


 直ぐに順番と、戦う教師が決められる。

 その時、一人の教師が手を上げた。


「俺様があのチームとやる。いいよなぁ??」


 短い黒髪、耳には複数のピアス。

 本当に教師なのかと疑ってしまう見た目と言葉使い。そんな彼が見ているのは、エトワール達だった。


「…………私達ですかぁ~?」

「お前らの実力は、昨日の試験で見た。面白いもん持ってんじゃねぇか。俺が相手にしてやるよぉ」

「嫌ですぅ~」


 拒否したかと思いきや、「キャッ!」と、わざとらしくかわい子ぶるエトワール。

 もう、何を言っているんだと、リヒトは後ろに下がりすべてを諦めた顔を浮かべた。


「誰か助けて、カガミヤさん……」


 そんなリヒトの嘆きなど気にせず、エトワールは挑発を続けた。


「あぁ?」

「怒ってもぉ〜、嫌なものは嫌なんですよぉ〜。だってぇ〜、弱いじゃないですか~。本当に教師ですかぁ? こんな弱い魔力の教師が、魔法学校の教師。ふふっ、笑えますー!! あははははははっ!!!」

「もうやめてくださいエトワールさん!!」


 リヒトが涙を浮かべ、エトワールの口を塞いだ。

 ビジョンもエトワールに縋り付き「本当にやめてください!!!」と嘆く。


 二人の泣き顔など見えていない教師は、エトワールの挑発にまんまと乗ってしまった。


「てめぇええ……。いいぜ、今すぐにやり合ってやるよ!!」


 魔力が高まり、杖が赤く光る。

「ひゃぁぁぁぁあ!!」と、リヒトとビジョンはエトワールに抱き着いた。


 そんな時、今まで受講者の案内をしていた老人が怒り始めた教師を止めた。


「待ちなさい、キロンニス」

「っ、アラリックさん」


 今までずっと、受講者の試験官をしていた教師の名前は、アラリック。

 興奮していたキロンニスを落ち着かせ、エトワールの前まで移動した。


「君の実力は素晴らしい。だが、目上の人との接し方は、もう少し学んだ方がいいだろう」

「はぁい、肝に免じておきまぁす」


 アラリックが目を逸らし戻ると、エトワールは舌を出し「べー」と、馬鹿にする。

 視線に気づいたアラリックが振り返るが、瞬時に笑顔へと表情を切り替えた。


「エトワールさん、勘弁してください……」

「本当ですよ……。僕達の事も考えてください」


 リヒトとビジョンは、肝が冷える経験をし、脱力。やっと難が去ったかと思いきや、そんなことはなかったことに顔を真っ青にした。


「注意だけで終わると思ったか?」

「へっ?」

「罰則だ。君達は試験とは別に、キロンニスと戦ってもらう」


 ※


「なんで、私達まで……」

「もう、深く考えるのはやめましょう……」

「そうですね、ビジョンさん」


 なぜか戦闘に駆り出されたリヒトとビジョンは肩を落とし、前で杖を振って準備しているエトワールの後ろで嘆いていた。


 二人の様子など一切気にしていないエトワールは、前に立つキロンニスを見据えた。


「さっきの言葉、撤回するなら今だぞ」

「何を撤回しないといけないのですかぁ? 私、特に撤回するような言葉を貴方にお伝えしていないと思うのですがぁ」


 口に手を当て笑うエトワールを見て、キロンニスは額に青筋を立てる。


「ほぅ、いいぜ。確かに実力は高いらしいが、この炎魔法使い、キロンニス様の魔法を耐えられるか……試してやるよ」

「それはちょっと、嫌ですねぇ〜」


 言いながら、エトワールは後ろに下がる。

 後ろで待機していた二人に小さな声で伝えた。


「油断は絶対に出来ません。楽しい戦いが出来そうですね」


 エトワールの言葉で、二人はより一層顔を青くした。

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