第530話 チーム戦
リヒトとエトワールは、二人で魔法学校に向かった。
「昨日のは勇気出しましたねぇ〜。今日は、帰りが楽しみですよ~」
エトワールの言っている昨日の話とは、リヒトが知里にお願いした贈り物の話。
リヒトは、知里が送りたいと思ってくれたものが嬉しいと言っていた。だが、知里のセンスは正直、見えない。
今まで、贈り物を選んでいるところを見たことがない。
武器や防具などにも興味があるわけではなく、アクセは邪魔としか思っていないだろうと、リヒトは思っていた。
利益、金にしか興味のない知里の贈り物は想像できない。
それも含めて、エトワールは「楽しみ」と言っている。
リヒトは少し頬を赤面させて、「う、うん……」と、恥ずかしそうに頷いた。
これは、余計な事を言わない方がいいなと思ったエトワールは、笑みを張り付けたまま前を向いた。
「――――今日は、どんな試験なんでしょうねぇ」
「うっ」
試験の話になると、リヒトの顔が青くなる。
ふふっと隣で笑っているエトワールは、前を歩く一人の魔法使いに目が留まった。
「あっ、ビジョンさーん」
「ひっ!?」
前を歩いていたのは、昨日勝ち残った魔法使いのルーク・ビジョン。
エトワールは、ビジョンを呼び、駆け寄った。
リヒトも遅れないように走る。
「あ、貴方達は……」
「昨日はお疲れさまでした。お強かったですねぇ~」
顔を寄せ、笑みを向けるエトワールに、ビジョンは後ずさる。
距離を離さないように、エトワールは後ずさるビジョンに近付く。
「ねぇ、貴方、男性でしょう? 女性みたいな見た目をしているのは、何か理由があるの?」
「え、エトワールさん! そんなこと急に……」
エトワールがズカズカと土足で踏み入るような言い方に、リヒトが口を塞ぎ止めるが、遅かった。
ビジョンは目を丸くした後、すぐに表情が豹変。
額には青筋が立ち、笑みを張り付けているけれど怒っているのは明らかだった。
「あ、あの、すいません…………」
リヒトが代わりに震える声で謝るが、ビジョンの耳には届いていない。
「僕、好きで女性のような髪型をしているわけではないんです。あまり言わないでいただけると嬉しいです」
「そうなんですねぇ~。失礼しました。では、ビジョンさん、貴方はすごい魔法使いですが、なにか特別な修行などを行ってきたのでしょうか??」
エトワールが素直に謝ったからか、すぐにビジョンは落ち着き、すぐに怯えるように顔を俯かせ二人から目を逸らした。
「そ、それは、あの…………」
またしても豹変するビジョンに、エトワールは内心『おもしろーい』と思いつつ、質問を続けた。
「答えられない修行を行ってきたんですか? それはそれで大丈夫ですよ。私も答えられない事は多々あるので」
やっと顔を離したエトワールは隣を通り抜け、顔だけを振り向かせる。
「次の試験、お互いに頑張りましょー!」
そのまま歩き去ろうとするエトワールに、リヒトも追いかける。
「あっ、ビジョンさん。お互い、頑張りましょうね!!」
「待ってくださいよぉ~!!」と、リヒトはエトワールを追いかけた。
その場に立ち止まって何があったか理解が出来ないビジョンだったが、最後のリヒトの笑顔で頭が植え付けられていた。
「…………かわ、いい…………」
※
「第二回、試験内容は、教師陣とのチーム戦だ」
ヒュースが言った通り、チームを組み教師陣と戦闘を行う試験内容が発表された。
エトワールは安堵の息を零し、リヒトは少し怯えている。
ビジョンは、さっきのリヒトの笑みが忘れられず、遠くから見ていた。
「チームは、皆で話し合い、三人の組を作れ」
今の言葉で、エトワールとリヒトは目を合わせ頷き合う。
だが、周りの視線がエトワールに突き刺さり、不愉快そうに顔を歪めた。
「…………私と組みたいみたいですね」
「エトワールさんの実力は、昨日の試験で知れ渡ってしまったみたいですね」
「めんどくさいなぁ」
言いながら、エトワールはリヒトを引き寄せ抱き着いた。
「へっ!?」
何が起きたのかわからないリヒトは、変な声を上げエトワールを見上げる。
「あとは~」
周りを見て、目的の人を探す。
その人は、今もリヒトを見続けていた。
ニヤッと笑い、リヒトの顔を覗き込む。
「リヒトちゃん、お願いしていいかな」
「へ?」
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