第524話 編入試験開始

「次! 三番!」


 リヒトの番になり、一気に体が固くなる。

 他の人達も険しい顔を浮かべているが、リヒトを残し前に出た。


「…………ん? おい、残り一人、三番! 早く来い!」

「は、はい!」


 緊張し過ぎて足と手が一緒に前に出る。

 ロボットのような動きを見て、エトワールは「あらあら~」と、楽し気。


 他の受講者は、終わったなと言う顔を浮かべていた。


 同じ番号の人達も、リヒトになら勝てる、と確信。

 だが、今回は一対一。二手に分かれ、勝ちぬいた人同士で戦うルール。


 そのペアは、試験官が独自で決める。

 今回も、独自で決められた。


「では、リヒト=ケイン、ザンコ=コザ。中に入れ」


 名前が呼ばれ、リヒトは歩く。共に歩き出したザンコは、もう勝ちが決まったような表情を浮かべていた。


 二組が準備できた。

 試験官も確認し、手を上げた。


「では、戦闘、開始――……」

chainチェイン!!」


 開始の合図と共にリヒトは鎖魔法、chainチェインを発動。

 すぐに反応できなかったザンコは、すぐに捕まってしまった。


「は、はぁぁああ!?」


 地面から数多く現れた鎖は、ザンコの腕、腰、足をグルグル巻きにする。

 杖は、地面に転がっている為、ザンコは魔法を放てない。


 鎖魔法が放たれた瞬間に杖を落してしまっていた。


「は、離しやがれ! 今のは卑怯だぞ!」

「え、ひ、卑怯?」


 リヒトは、予めエトワールと話していた。

 開始と同時に魔法を放てと。そうすれば、熟練の魔道士じゃなければ、chainチェインで捕まえられると。


 なのに、これが卑怯と言われてしまえば、リヒトはどうすればいいのかわからない。

 素直に聞いてしまい、不安で試験管を見る。けれど、何も言われない。


 仮に卑怯な手で、ずるだというのなら止めに入るはず。

 そう考えたリヒトは、杖を強く握り魔力を送り続けた。


 人を一人だけ捕まえる鎖は、そこまで魔力を使わない。


 一度発動してしまえば、後は魔力のコントロールで何とかなる。

 だから、相手はリヒトの魔力切れも狙えない。


 ザンコは、杖なしでも魔法を放とうとするが、うまく魔力をコントロールできず放てない。


 そんな事をしていると、試験官が終わりの合図を送った。


「三番、終わりだ。リヒト=ケイン、次の準備を」

「は、はい!」


 鎖魔法を解き、胸をなでおろした


 負けたザンコは、悔し気にリヒトを睨む。でも、負けた自分は何も出来ないと思い、逃げるようにその場を去った。


「え、あれは、あり?」


 ポカンとしていると、もう片方も終わったらしい。

 勝ちあがってきたのは、水魔法使いのスーズ=カラン。女性の魔法使いで、藍色の髪が特徴的。


 背丈は、リヒトより頭一個分大きい。

 大人の女性といった雰囲気に、一瞬リヒトはたじろぐ。


 けれど、ここで怖気づいては駄目。気を引き締め、前に出た。


「では、三番。戦闘開始!」

chainチェイン!」


 また、同じ戦法で捕まえようと鎖魔法を放つ。けれど、スーズは隙間を縫い簡単に避けた。


「っ!」


 ステップを踏むように避けたスーズは、杖に魔力を込め始めた。


acquaアクア


 魔法を唱えると、水弾が現れた。

 リヒトは、最初に決められなかったことで焦り始めた。


「避けられるかしら」


 スーズが作り出した水弾がリヒトに向かって放たれた。

 走り、避けようとするが、数が多くて全ては避けきれないと判断。


lehrdレールド


 水のシールドを発動。何とか防げた。


acquaアクア


 リヒトも最近覚えたacquaアクアを発動。

 ぶつけられないため、動きの制限を目的として放つ。


 属性違いの魔法なら出せるため、リヒトはacquaアクアを出しながらchainチェインを発動した。


「な、属性二つ持ち?」


 不思議に思いながら鎖を避ける。

 けれど、acquaアクアが浮かんでいる為、うまく避けきれない。


 チャンスだと思い、リヒトはchainチェインを放ち続けた。


「――――lama・waterラーマ・ワーター


 水で作られた刃を放ち、リヒトが放ったacquaアクアを打ち消す。

 全て正確に打ち消しており、スーズはその場から動かなくなった。


 リヒトは、相手の隙を見つけようとするが、まだ他にどのような魔法を持っているのかわからないため、迂闊に大きな魔法は放てない。


 走るのを止め、リヒトは再度acquaアクアを放つ。

 だが、すぐにlama・waterラーマ・ワーターで相殺される。


 他の魔法を放たせるには、こちらも違う魔法を放たなければならない。

 けれど、リヒトの使える魔法は、三つだけ。この三つでどうにか勝たなければと考える。


「…………どうすれば…………」


 リヒトは、唇を噛み、どうすればいいのか戦闘しながら考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る