第525話 余裕の勝利

chainチェイン!」

lama・waterラーマ・ワーター


 どんなに鎖を放っても、水の刃で相殺される。

 だからと言って、acquaアクアを出しても、意味は無い。


 リヒトは、acquaアクアで相手を攻撃出来ない。気持ちが拒んでしまう。


 chainチェインで何とか拘束して身動きを封じる事しか、リヒトにはできない。

 なら、次に考える事は、どうやって拘束する隙を作るか。


 それこそ、chainチェインだけでは駄目だ。

 acquaアクアを使って相手の動きを制限し、chainチェインに続ける。


 リヒトは走り、lama・waterラーマ・ワーターを避けながら、隙を見つけるため視線をスーズに向ける。


 スーズは、魔法を放ってからというもの、その場から動かなくなる。


 魔法を放つだけで、姿勢はそのまま。歩かず、魔力を杖に込め続けるだけ。

 体力温存も考えているのだろうか。


 走り続けて無駄に魔法を放っているリヒトが今は危険。早く隙を見つけなければ、魔力切れを起こしてしまう。


「――――あ」


 リヒトが何かに気づいた。

 瞬間、微かに笑みが浮かぶ。


「わかりやすいね」


 呟くと、リヒトは足を止めた。

 いきなり足を止めたリヒトに一瞬驚いたスーズだったが、遠慮することなく水の刃を放ち続けた。


「そこまで動かなすぎなのは、違和感がありますよ。chainチェイン!!」


 水の刃を無視し、リヒトは鎖魔法をスーズの足もとから出した。


 驚き、咄嗟に後ろに跳ぶ。すると、リヒトに向かっていた水の刃が四方へと飛び回り、消えてしまった。


 体勢を整えさせず、リヒトは鎖を操りスーズを捉えた。


「くっ…………」


 魔法を放ちたくとも、杖は鎖に絡まれた時に落としてしまって不可能。

 身動きが取れなくなったスーズは、諦めたように項垂れた。


 それが合図のように、笛の音が鳴り響き、戦闘終了。リヒトが勝ち残った。


「勝ち残りました!」

「しー!」

「はっ」


 嬉しすぎて、声量を考えずにエトワールへと駆け寄ってしまった。


 試験管は、次の準備で気づいていない。

 安堵の息を吐き、リヒトはブイサインをエトワールに向けた。


「やりました」

「お疲れ様。最後、よく気づいたわね」

「えへへ」


 スーズの弱点は、魔法のコントロールが上手く出来ないこと。

 魔法は放てる。だが、それに集中しなければコントロールが効かず、四方へと跳んでしまう。


 そうならないために、その場から動かず中距離攻撃でリヒトを攻撃していた。


 リヒトがそれに気づいたのは、動かなかったのも理由の一つだが、魔力の揺れを感じたからと言うのもある。


 戦闘の際は、魔力をお互いにぶつける事となる。


 急に見失ってもすぐに追跡できるように、魔力探知は欠かせない。

 リヒトも、魔力探知をしていたため、魔力の揺れを感じ、最後の攻撃を仕掛けられた。


「エトワールさんはいつですか?」

「今が四番目だから、次ね」

「頑張ってください」

「余裕よ」


 ※


 四戦目が終わり、五戦目。エトワールの順番になった。

 また、二体二に分かれ、戦う。


 相手は、冷静そうな男性。

 眼鏡をくいっと上げ、余裕そうにエトワールを見る。


「君、弱いね」


 いきなり弱いと言われ、エトワールは思わず笑いそうになる。だが、ここで変に刺激すればめんどくさい方向へと向かう可能性があるため、何とか堪えた。


「コホン。えっと、なんで?」

「魔力を感じない。少ないだろ」

「ふーん」


 自信満々に言い切る男性に、エトワールは腰に手を当て聞き流す。


「この世界は魔力がすべて。僕は、誰よりも魔力が多いんだ。今までの人生、僕より魔力の多い人には出会ってこなかった。そんな僕の魔法を、君は体で受け止めるんだな!!」

「…………まぁ、頑張って」


 最初は面白かったが、徐々にめんどくさくなり、エトワールは聞き流すことにした。


 それでも、相手は「僕の魔法は」とか「僕は誰にも」などと自慢を続ける。

 冷静そうに見えたのは見た目だけで、頭脳は子供なんだなと、エトワールは欠伸を零しながら試合開始の合図を待った。


「では、四試合目、開始!!」


 同時に、彼が魔力を杖に込めた。


「これで君は脱落だ。僕に当たったことを後悔するといい。────ふれっ――……」

somniumソムニウム


 相手が魔法を放つより先に魔力を整え、微弱な魔力でも出せる夢魔法、somniumソムニウムを発動。


 これは、相手にエトワールが思い描く夢を見せる魔法。

 魔法を放とうとした彼は動きを止め、白目をむいたかと思えば、バタンと、倒れた。


「さて、次はどっちかなぁ」


 余裕と口で言っていたように、本当に無駄なく一試合目を終らせたエトワールに、周りの皆、全員口をあんぐり。


 戦闘をしている二人以外、凍り付いたかのように空気がシーンとなってしまった。

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