第523話 魔力の無駄使い

「始まったな」

『みたいだね。リヒトとエトワールはまだ順番ではないのかな、端で待機しているみたい』


 アクアの指摘を受けた俺とヒュース皇子は、人の気配がない木の影まで移動していた。


 アマリアとの会話は、今まで数回使った事はある、魔道具。

 俺の足元には、映像を出すための機械。

 耳には、イヤホン。これで会話をしていた。


 映像は、アマリアの視界が写されていた。

 アクアのも写せたらとも思ったけど、アクアの場合は落ち着きがないから酔うかもしれないらしく、諦めた。


 アマリアの視界を通しているから、流石に人の中にいるリヒト達を見つけられない。

 けど、戦闘が始まったら流石に分かるだろう。


 今も、一番目の戦闘光景は見えているしな。

 ヒュース皇子とアルカが、俺の左右から映像を覗き込んでいる。


 そんな時、ヒュース皇子がボソリと呟いた。


「――――派手だな」

「そういうもんだろ?」

「そういうもんでは無い。魔力の使用を少しでも抑え、どれだけ長く戦闘に立っていられるかも魔法戦では大事なこと。あれでは、直ぐに魔力がなくなりジリ貧になる」


 あー、なるほど。

 俺はチート魔力を持っているから魔力の消費は、本当に使い過ぎたと自覚した時しか意識はしない。


 一般的には、魔力量も考えないといけないし、あんなに最初から派手に使っていたら直ぐに無くなるか。


「魔法のぶつけ合いは、お互いに不利益だ」

「そこまで見てんだな。お前…………」

「戦闘は好きだからな。ただ、立場上、難しいだけで。戦闘や喧嘩をしてもいいのなら全力で行う」


 あ、あぁ……。

 なんか、地面につけている手が微かに震えているような気がする。武者震いだな、これ。


 そう言えばこいつ、戦闘狂だったな。

 これ以上は、何も言わないでおこう。

 アルカも、ヒュース皇子の空気に苦笑いを浮かべていた。


 また、映像の方に目を移すと、まだ派手に魔法のぶつかり合いが行われていた。


『無駄ですねぇ』

『本当だね。本当に魔法使いなのかな。自分の事を理解していない子供みたいな戦闘見ていてもつまらないし、早く終わってほしいなぁ』

『私もですよぉ〜。自分が戦えないのでつまらないです~。アマリア~』

『飽きたら知里の方に行ってもいいよ。でも、どっちにしろ同じ景色を見る事になるからつまらないのは変わらない』

『そんなぁ~』


 辛らつだなぁ。

 そんなに言われるくらい、戦闘を行っている魔法使いは雑魚なのか。


『知里の戦い方だよね』

『知里は魔法を放つだけです~』

「黙れ」


 俺に聞こえているのを忘れているのかこいつら。


 おい、なに笑ってやがる。俺を暇つぶしの道具に使うんじゃねぇよ。


 はぁ、まぁいいや。

 リヒト達の番になるまで暇だし、少しボぉ~としよう。


 今日は青空だし、風も気持ちがいい。

 休むには絶好だな。


「ヒュース皇子。リヒト達の番になったら教えてくれ」

「寝る気満々だな」

「さすがに年齢には勝てない。あと、日差し」

「はぁ…………」


 横になると、ヒュース皇子から呆れたようにそんなことを言われた。

 呆れてもいいよ、俺が休めるなら。


 あ、本当に瞼が下がってきた……。


 ※


 リヒトとエトワールは、目の前で繰り広げられている戦闘を見ていた。

 リヒトは目を輝かせ、エトワールはつまらないというように見ている。


「あ、あの、エトワールさん」

「どうかいたしましたか?」

「お話ししても大丈夫でしょうか」


 一応、小声でリヒトはエトワールに声をかけた。


 エトワールは試験管を見るが、今は戦闘をしている四人に釘付け。待機している自分達には意識を向けていない。


「小声なら大丈夫そうですよ。いかがいたしましたか?」


 エトワールが笑みを浮かべ、リヒトを促した。


「すごい戦闘ですね。強そう」

「あんなの、ただの雑魚ですよ」


 リヒトの興奮をかき消すように、エトワールが欠伸を零し言った。


「え、雑魚?」

「魔力の無駄遣い、魔法が広がっていて、殺傷力にも欠ける。魔法をぶつければいいと勘違いしている。他にも色々欠点はあるけれど、見ていてつまらないという言葉で今は締めくくりますね」

「は、はい…………」


 目の前の戦闘について分析しているエトワールの瞳はどこか冷たかったが、リヒトを見た時のエトワールは優しく笑みを浮かべていた。


 その豹変がリヒトにとっては少し怖く、顔を引き攣らせた。


 エトワールから逃げるようにリヒトは目線を戦闘を行っている四人に向けた。


 皆、魔力がなくなり始め、息切れもし始めている。

 強制睡眠も体力の限界も、時間の問題になってきた。


 なんとなくリヒトは気になり、試験管を見た。


 ヒュース皇子が言っていた怖い人があの人なのなら、今の戦闘はどう見るんだろうと考える。


 あの、優しいと思っていたエトワールですら、ここまで辛らつに言っているのだ。

 厳しい試験官は、勝ち抜いたとしても合格させる気はないんじゃないか。


 戦闘を見ている試験管の瞳は、リヒトの場所からでは見えない。


「…………魔力は、使い過ぎない」


 今の話を胸に秘め、リヒトは戦闘を見続けた。

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