第522話 不安と余裕

「今、微かに魔力を感じませんでしたか?」

「気のせいですよぉ~、リヒトさん。ほら、試験に集中しなければ」

「は、はい」


 エトワールはリヒトの肩を掴み、緊張を抜くように摩る。

 笑顔を浮かべているが、エトワールも上を気にしていた。


「魔力……、隠さないと駄目ですよ、知里さん」

「え、カガミヤさんが、なんですか?」

「緊張ほぐれましたかぁ?」

「えっ、え?」


 エトワールの独り言は少ししか聞こえず、リヒトが聞くが答えてはくれなかった。

 ひたすらに両肩を摩られる。


 よくわからないが、リヒトも自分の事に集中しなければならないと考え、支給された杖を握った。


 支給されたのは、杖だけでなく服もだった。

 二人は今、魔法学校の制服を着用している。


 藍色の生地に、キラキラと控えめにラメが散りばめられていた。

 女性はケープコートを上に羽織り、中はワンピース。男性はズボン。


 これは、魔法に強い素材を使っており、炎や水といった属性魔法をそう簡単に通さない。


 頑丈で、簡単には体に傷をつけることが出来ない服だが、魔法に特化しすぎているため物理攻撃には弱い欠点がある。


「──あっ、来たみたいですよ。ここからお話は、あまりできなくなるかと思いますので」


「では」と、笑みを浮かべエトワールはリヒトと少し距離を取る。

 心細く、不安だが、リヒトは支給された杖を強く握った。


「大丈夫、大丈夫……」


 自分に言い聞かせていると、昨日の男性と、そのほか数人の魔法使いがやってきた。


 黒い短髪、生徒が来ている制服と似ている模様のローブ。

 革靴を履いている男性が、手にクリップボードを持って声を張り上げた。


「ただいまをもって、編入試験を開始する! まずは、相手を決める!」


 と、言いながら首にかけられているネックレスに手を伸ばした。

 それは、チャックのような形をしており、首から外した。


 右に投げると、チャック部分が大きくなる。

 人一人が簡単に入れるくらいにまで大きくなったかと思えば、男性はそのチャックを開き、中に手を入れた。


 中を覗き込むと、闇が広がっている。

 なんだろうとリヒトは、思わず目を見張った。


 説明もなく男性は、チャックの中に入れた手を抜いた。

 手に握られているのは、一本の紐。先の方には魔石が付けられている。


 催眠術にでも使いそうな形をしている魔道具に、その場にいるエトワール以外の受講生は口を開けてポカン。


 エトワールだけは、めんどくさそうに髪をいじる。


「これに一斉に魔力を送れ。順番を決める」


 受講生は目を合わせ、言われた通りに魔力を送り込んだ。


 リヒトとエトワールも送り込む。

 すると、魔法石が発光した。


「よし、では、発表する。番号が同じものと戦闘を行え!」


 番号がどのように現れるのだろうと待っていると、急に杖の先端が光り出した。


「こういう事ね」と、エトワールはまだつまらないというように周りを見渡した。

 そんなエトワールの杖の先端には、『5』と、描かれている。


 リヒトの杖には『3』。

 周りを見て、同じ数字の人を探す。

 すると、何故か数人と目が合った。


「え?」

「あ、あれ?」

「なんで…………」


 なぜか、数字が同じ人が三人もいた。

 リヒトが数回瞬きしていると、追加で説明が入った。


「今回は、四人の者と同じのはずだ。そいつらと一対一をしてもらう。その中で勝ちあがってきた者が、例外を外し、合格だ」


 追加説明を聞いた受講生は、疑問が解消され、頷く。

 リヒトは、説明を聞きながら今回戦う者達を見て、眉を下げた。


 大丈夫なのか、戦えるのか。

 リヒトは不安でいっぱいとなり、思わずエトワールを見た。


 四人と共に話しているエトワールは、笑っている。

 余裕そうに話しているエトワールを見て、もっと不安となってしまった。


 それでも、やらなければならない。

 ここで、負けてはいけない。そう思い、自分を振るい立たせた。


「では、戦闘は数字順とする。一番、来い」


 そこから、編入試験が始まった。

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