第521話 なんで今まで気づかなかったんだろう
次の日、リヒトとエトワールは魔法学校へと向かった。
ここからは基本、別行動になるはず。
なんとか試験会場に入りたかったが、無理だった……。
透視でも使うか……?
試験が始まりそうな頃に、とか。
「理事長が居なければ、上から見れるかもしれないぞ。空は飛べるか?」
魔法学校の前でどうするか考えている俺に、ヒュース皇子が箒を見せながらそんなことを言ってきた。
それは、もっと早く言ってほしかった。
「空は飛べるぞ」
「それなら上空から見守りましょう。グレールさんとロゼ姫はいかがいたしますか」
一応二人には敬語で話すんだな。
事情が事情であれ、ロゼ姫とは一度、婚約しているわけだしな。少しは気まずいか。
「私達は空を飛べませんので、昨日の続きをしてきます」
「続き、とは?」
「まだまだ、見れていないお店や魔法があるのです。ここは私にとっては宝庫。さぁ、早く行きますよ、グレール」
そのままグレールも、腰を折り歩き出す。
その際、少しだけロゼ姫が振り向いた。
「チサトさん」
「え、はい」
「リヒトさんに何かあれば、チサトさんの身体が溶けますので、覚悟くださいませ」
「……………………はい」
ロゼ姫は、不穏な言葉を残しいなくなる。
…………そんなに心配なのなら、自分で確認しやがれってんだ!
「ロゼ姫も、知里の実力は信じているみたいだね。あと、リヒトの実力も」
「どういうことだよ、アマリア君や。俺、脅されたんだけど? 怖いんだけど、マジで嫌なんだけど」
何を言っているんだよ。
実力を信じてるって、意味が分からない……。
「今までのロゼなら、絶対に知里にリヒトを任せるなんてことしなかったはずだよ。しかも、この場から離れるなんてこともなかった。今回は、宝庫が広がっているというのもあるだろうけど、いい方向に信頼関係を築けているじゃん。良かったね」
「…………素直に喜べねぇのはなんでだろう」
「さぁ」
もう、いいや。
えぇっと、アマリアとアクア、俺は普通に飛べる。
ヒュース皇子も箒を持っているみたいだし、問題はなさそう。
ここで唯一飛べないのは、アルカだな。
一人で焦ってやがる。
「アルカはアクアが背負って飛べばいいんじゃねぇか? 俺は水の翼が背中に生えるから抱えられねぇし、アマリアは体が小さいし。ヒュース皇子も、さすがに箒で二人乗りは危険だろ?」
ヒュース皇子に聞くと、気まずい感じで頷いた。
「乗れなくはないが、私の技術では危険だ」
「技術が必要なのか」
車とかもそうだし、当然か。
「それなら、アクアが一番安全だね。お願いできる?」
「私なら大丈夫ですよぉ~」
「お、俺も、多分…………」
アクアって時点で怖がってそうだな。
まぁ、命を預ける形になるし、怖いわな。
「アクア、絶対に落とすんじゃねぇぞ」
「わかっていますよぉ~。そんな怖い顔を浮かべないでください、知里~。戦いたくなってしまいます~」
「今すぐ空を飛ぶぞ。
逃げるように空へと飛ぶ。
続いて、ヒュース皇子、アマリア、アクアと来た。
アルカは……怖がっているけど、今のところは大丈夫そうだな。
んじゃ、リヒト達を探しますか
さて、どこだぁ?
「お、いたいた」
大きなグランドのような空間だ。
「もっと近づいてっ──……」
「あっ……」
────ゴンッ!!
「ここにはシールドが……あぁ」
「〜〜〜〜早く言えや!!」
ヒュース皇子が言うの遅かったがために、俺はおでこをシールドにぶつけた。
くっそ、いてぇ……。
こ、これなら簡単に編入試験を邪魔できないか。
でも、もしもの時は、追放覚悟でシールド破壊も考えておいた方がいいかもしれないな。
「このシールド、破壊してもいいですかぁ~?」
「「だめぇぇぇぇええ!!」」
今にも魔法を放とうとしているアクアをアマリアと共に全力で止める。
魔力を本気で込めていたから、俺達が止めなかったら本気で放つ気満々だったな。
「やはり、まだ管理者としての…………」
「違う違う!! こいつはただの戦闘狂な馬鹿な子供なだけ!! 子供が遊ぶのを我慢できないだけ!! わかるだろ!?」
────待って、下、俺達を見上げてないか?
アクアの魔力、気づかれた?
「――――大丈夫そうだね」
「まだ、試験官が来ていないのが救いだったな」
ヒュース皇子が言うように、まだ下には受講者しかいないっぽい。
ただ、空を飛んでいる魔法使い達としか思わなかったらしい、良かったぁ。
「アクア、絶対に魔力を込めるな!」
「ですがぁ。そんなにぃ、魔力に敏感な方がいるのなら~、知里の水の翼で気づきませんかぁ~? あと、ヒュースの箒の魔力で~」
……………………思わずアマリアとヒュース皇子を見てしまった。
「「「あっ」」」
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