第425話 深く考えることが負けであるのはもうわかりました

 爆睡、本当に爆睡したわぁ。


「ふわぁぁあ…………」


 今は、何時だ?

 周りを見ても、誰一人戻って来ていない。

 空中でグラースが寝てる? だけ。


 隣には、まだスヤスヤ寝ているアクアの姿。

 安心したような顔を浮かべているなぁ、複雑な気分。


「はぁ…………」


 まだ、眠いし、寝ようかなぁ。

 …………寝よう。


 おやすみなさぁ~い。


 再度横になって目を閉じると、あっという間に夢の中に――……


 ――――コンコン


 …………ノック、扉。

 …………出ないと駄目かなぁ、駄目なのかなぁ。出たくないし動きたくない。


 だって、俺はあと一歩で夢の中に入れそうだったんだぞ。それなのに、なんで起こされないといけないんだよ。


 ――――コンコン


 居留守、使うか。

 流石に、諦めて帰るだろう。

 扉をすぐに開けないという事は、そこまで緊急性はないという事。そういう時は、無視に限る。


 ――――コンコン コンコン コンコン


 コンコン コンコン コンコン コンコン コンコン コンコン コンコン


 ホラーか!!


『カガミヤ』

(「起きてたんだ」)

『寝てはいないよぉ~。というより、アクアが目を覚ますんじゃない?』


 グラースの言う通り、顔を歪めて今にも置きそうなアクア。

 居留守、出来ないなこれ……はぁ、誰だよ。


「なんですか!!」


 一般常識を弁えてから来てくれよ……。


「ん~、どうしたんですかぁ、知里…………」


 あぁ、アクアがとうとう起きてしまった。

 ここまでうるさいんだもんな、起きても仕方がない。


「誰だよ、扉に鍵はついてねぇから入れや」


 目を擦りながら扉を見るアクアの頭を押さえつつ言うと、ゆっくりと開かれた。


「なんで頭を押さえられているんですかぁ?」

「誰が来てもお前が暴れないように」


 扉が完全に開かれるのを待っていると、見覚えのある女性が立っていた。


「…………アシャー?」

「こんな夜分に申し訳ありません。すぐに話を終らせる予定なので、聞いていただけませんか?」


 いや、え? 

 な、なんで? なんで、アシャーがこんな所にいるの? 何しに来たの?


 聞きたい事が沢山ありすぎて、逆に言葉がまとまらない。


「聞いていただけますか?」

「…………すぐに終わるのなら…………」

「ありがとうございます。では、次に会える日程の確認をしたいのですが、いつ頃空いていますか? もちろん、会う理由は竜魔法についてです」


 …………すっかり忘れてた。

 竜魔法について色々話すため、こいつと約束していたんだっけ。


 しかたがない、今以上に面倒ごとが積み重なる前に、こういう軽いミッションは終わらせておくか。


 アルカやロゼ姫が起きると、また怒涛の日常が始まるだろうし、今の内だな。


 …………今のうちに沢山休みたいというのもあるが、これが物語の主人公なんだと、自分に言い聞かせるしかない。本当に、最悪だ。


「なら、明日。少しなら時間を作れる」

「ほ、本当ですか!?」

「何時がいい」


 聞くと、午後からなら時間を作れるとのこと。

 星屑の図書館は、まだ復旧しきれていないけど、中は無事だからと、そこで待ち合わせとなった。


「では」


 約束すると、すぐにアシャーは帰った。

 本当に約束をしたかっただけなんだ。


「つーか、誰だよ。俺の居場所を教えた奴、絶対に許さねぇ…………」


 頭をガシガシ掻いて、また布団の中に入る。

 …………てか、待てよ?


 なんで、アシャーは城の中に入る事が出来たんだ?

 ここは、ロゼ姫の城。一般人が何もせず入れるなんてことは出来ないだろう。


 いくら、王妃がゆるゆるだからと言って、さすがになぁ。

 なら、誰かが中に入れたのか? それとも知り合いが城で働いているのか?


 うーん、わからん。

 わからんけど、そこまで気にしなくていいか。

 なんか、この世界では何が起きても不思議ではないような気がするから。


 人が空からいきなり降ってきても驚きはするけど、そこまで深く考えない自信はあるぞ。


 と、言う訳で――……


「寝るぞ、アクア」

「はぁい」


 また俺は夢の中に入りまーす。

 おやすみなさい。

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