第423話 なんで休んでいない俺に面倒ごとが降りかかるんだ

 リヒトの言葉に返す言葉が思いつかない。

 正しい、そう思う俺もいるし、それは違うと反発する俺もいる。


 言葉って、本当にいい武器だよなぁ。

 マジで人間の脳をバグらせてきやがる。


「――――そこまで来たら、知里やリヒトの頭じゃ駄目だね。もちろん、僕やアクアも。もっと真っすぐで、純粋な子に聞いた方がいいかもしれない。管理者に恨みを持っているけど、心は真っすぐな子。迷っている僕達を、正しい道に戻してくれると信じよう」


 アマリアが珈琲を飲みながらよくわからないことを言う。


 真っすぐで純粋な子に聞く? 

 俺からすれば、リヒトも十分純粋なんだが?


「…………アルカの事ですか?」

「そう。無駄に知識が合ったり、物事を難しく考えてしまう僕達より、アルカみたいな感覚派に聞くのも一つの手じゃないかな」


 なるほどなぁ。確かに、そうかも。


「それなら、アルカが起きるまで答えを出すのはやめた方がいいか?」

「僕は、その方がいいかなって思う。これからの作戦に関わるし、みんなの考えを聞いた方がいいでしょ」


 それもそうだな。だが、そうなると、ソフィアになんて伝えるかだなぁ。


 今日も話し合う事を考えていたら、アルカもまだ目を覚まさないし、日を改める事を伝えなければならない。


 どうしたものかと思っていると、ドアが叩かれた。


 このタイミング、まさか……。


 俺達の返答を待たずにドアは開かれる。

 そこに立っていたのは、やっぱりというべきか、ソフィアとアンキだった。


「起きたらしいな」

「まぁな」


 少ししか寝れていませんがね。


「今日も話し合いをする予定か?」

「いや、今日はしない」


 え、しない?

 話し合いをするために俺達を呼びに来たんじゃないのか?


「その代わり、俺は地上に戻る」

「なにかあるのか? まだ、ソフィアは狙われている可能性があるんだ。さすがに単独行動は危険だぞ」


 言うと、何故か腕を組み鼻を鳴らしやがった。なんだろう、腹立つ。


「管理者が俺を狙っていようが関係ねぇ。俺は管理者に入るつもりはねぇし、仮に実力行使で来ようものなら、返り討ちにする」


 ソフィアの場合は、強がりでもなんでもない本心なんだよなぁ。

 アクアで倒せなかったんだから、本当に返り討ちにしそう。


「わかったなら、余計な心配すんな」

「わ、悪かったって。わかったわかった」


 それだけ返すと、ソフィアはアンキと共に居なくなった。

 と、言う事は、今日一日フリーになったという事か?


 色々考えなければならないことは沢山あるだろうが、ひとまず、また寝れるじゃん。


 俺、休めるじゃん。

 やった、休むぞ、俺。今日一日、ベッドで過ごすんだ。


「それなら、僕も今日はアクアと現状の把握と気分転換にオスクリタ海底を散歩してくるよ。今回の事件で崩壊してしまった所は今、修復しているみたいだし、手伝いも出来たらいいね」

「それは、アマリアだけなら大丈夫だとは思うけど、アクアはまずくないか?」

「…………あぁ、それもそうだね。なら、アクアは、僕の次に懐いている知里に面倒をお願いしようかな」


 ────え、え?


「それじゃ、任せたよ。アクアも、知里の言う事は全てでなくてもいいけど、聞くようにはするんだよ」


 アクアの頭を撫で言うと、アクアはなぜか満面な笑みを浮かべて「わかりましたぁ~」と、返事をしやがった。


 おい、何が「わかりましたぁ~」だよ。ふざけるな。


 俺は寝るんだよ、一人で休むんだよ。

 おい、ふざけるな、俺の文句を聞いてからアマリアよ、行けよ。


「なっ!! おい!!」

「それじゃ、任せたよ」


 ――――ガチャン


 う、嘘だろ?

 本当にアクアを置いて、行きやがった!!


「…………」


 え、ええっと……。

 残されたのは、俺とアクア、リヒトとグラースの四人。

 アクアは俺をジィっと見て来るし、リヒトも緊張して何も言わない。


 グラースも、目を丸くして俺を見てくる。


『寝ないの?』

(「俺だって寝てぇよ。でも、寝れる空気じゃないだろ、これ」)

『確かに』


 グラースもさすがにこの状況は笑えないらしく、黙り込んだ。


 くっそ……。今すぐここから逃げ出したい。


「あ、あの、カガミヤさん」

「どうした?」

「わ、私、その、アルカの所に行ってきますね! 心配なので!!」

「…………え?」


 俺の返事を聞かずに、リヒトもこの部屋を出て行く。残されたのは俺とアクア、グラースだけ。


 …………逃げやがったな、リヒト。

 絶対に許さないからな、こんな微妙な空気に残しやがって。


 苦笑いを浮かべていると、アクアが急に椅子から立ちあがった。


 どこか行くのか? その場合、俺もついて行かないといけないと思うし、勝手な行動はやめてくれ。


「私は、やはりここも居場所ではないのでしょうかぁ」

「……ん? 居場所?」


 悲しそうな横顔を浮かべてる。

 リヒトが出て行った方向を見ている、何を思って――――なるほど。


 リヒトが出ていったのは、自分が悪いと思っているのかねぇ。いや、そうなんだけどさぁ。


 お前とどうやって接すればいいのかわからないんだよ、きっと。悪意は全くないから悲しむなって。


 俺も、まだわからないし、仕方がなよ、許してあげて。


「知里」

「なんだ」

「私は、どこに居ればいいのでしょうか。管理者を抜けてしまっても、良かったのでしょうか」


 縋るような藍色の瞳が俺を見る。

 俺に、何かを求めているような視線だ。


 だが、すまん。

 なんと言ってやればいいのかまったくわからん。


(「グラース、ヘルプ」)


 隣にいるグラースを横目で見て助けを求めるけど、ニコッと笑みを向けられるだけとなった。

 なに、その笑み。なんの意味が含まれてるの?


『それは、僕が手伝ってもいい事じゃないよ。それに、僕よりチサトの言葉の方が響く。頑張って〜』


 そ、そんなこと言われても……。


「…………俺の立場からすれば、お前が管理者を抜けてくれたことはありがたいぞ。なんせ、お前と戦わんくていいんだからな」


 何が正解かわからんから、現状を交えた事を言ってみた。


 アクアの魔法や魔力は、敵に回しておくのは正直きついし、しんどい。

 逆に、仲間としてならウェルカムだ。


 俺と同じくらいのチート魔力と魔法を持っている魔法使い。

 ダンジョン攻略に参加は出来ないけど、管理者との戦いでは活躍してくれるだろう。


「つまり、私は魔力や魔法が無ければ、誰にも必要とされないのでしょうか。クロヌもそうでしたし…………」


 自身の手を見つめ、落ち込んでしまった。

 そんなこと、今の俺に言われても困るって。


 このまま放置したいけど、さすがに気まずい。何とかしたいけど、どうするかなぁ~、うーん……。


 いいや、もうめんどくさい。


「それを俺に言ってどうするつもりだ? アクア自身を見てほしいのならアマリアに言え、そっちの方がいい言葉が返ってくるだろうよ」

「そうですね。ありがとうございます」


 …………無理しているよな笑みだな、はぁぁぁぁ。


「えぇっと、なんだ? んー」


 腕を組み考えていると、アクアが首を傾げちまった。

 だって、アクアを説得させりような言葉……。って、説得させる必要はないのか。


 もう、思ってることをそのまま言おう。

 その方が色々単純だ。


「なぁ、俺はお前の事まだ何も知らねぇんだよ。最近までは敵だったし、魔法とか属性、戦闘方法しか見ていなかった」

「確かに、そうですね〜」

「だから、お前が今欲しい言葉は、おそらく今の俺からじゃ伝えることができん。俺は、普段のお前を知らんからな。戦闘狂という事はわかるが」


 アクアについては、まだまだ分からんことが多い。


 好きなもん嫌いなもん。趣味――は、戦闘だろうな。

 習慣とか得意な事や苦手な事などなど。


 アクア自身についてはわかんねぇんだから、俺は戦闘でのスキルについてしか言えねぇよ。


 伝わったのか伝わってないのかわからんが、アクアが黙った。

 黙ったのならいいや。俺は通帳を眺め――アマリアに取られているんだった。


 え、俺の暇つぶし、心の癒しがなくなっている。

 今からアマリアを探すのも、めんどくさい。


 あ、そういえば俺、あまり寝ていないんだった。

 ひと眠りするか。


 ベッドに入り目を閉じる。

 あ、あれ? なんか、背後に気配。


 後ろを向くと――――なんで!?


「おいおい!! なんでアクアも俺と同じベッドに入ってくるんだよ!! 狭いじゃねぇか!」


 …………なんだ? なんか、震えてる。

 な、なに?


「え、えっと……。はぁ…………」


 なんで泣いてるんだよ、何があった。情緒不安定かよ。

 まぁ、過酷な世界にいたわけだし、仕方がないのかなぁ。


『ほのぼのするね〜』

(「黙れ」)


 はぁ……………………俺の安息、どこいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る