第422話 ここまで考えなければならないことだったか?

「嫌い、ねぇ……」


 そんなこと言われちまうと、こっちは何も言えなくなるんだが……。


「あいつらが近くにいないという条件でなら協力してやってもいい。こっちは、協力する側だ、そのくらいの譲歩はあっていいだろう」


 くっそ、足元見やがって……。

 確かに、今は俺達がお願いしている側だ。強く出れる訳もない。


 だが、どうだろう。

 近付かせないように出来るだけする事は可能だが、スペルやエトワールは絶対に俺の言う事なんて聞かないだろう。


 仮に、俺が近づくなと言って万が一現れてしまえば、スペクターは必ず離れて行く。

 どうしたものかと考えていると、アマリアが助け舟を出してくれた。


「こっちの出来る限りでもいいなら、その条件を飲むよ。でも、僕達より知っているとは思うけど、あの二人はだいぶ自由人でしょ? 言う事を聞かない時はこっちではなく、二人に文句を言って欲しい」

「わかった、さすがにそこまで理不尽な事は言わねぇよ。少なからず、あいつらの事は俺が一番わかっている、そこは心配するな」


「だってさ」と、アマリアが俺を見る。

 今の話で俺の不安は消えたから、力強く頷くぞ。


「今の話からして、相当に切羽詰まっているのは理解した。カケルの封印解除、そんなに難しいのか?」


 聞かれたから、手順と状況を簡単に話すと、ため息を吐いちまった。


「めんどくさっ」

「そうなんだよ」

「確かにそれは、切羽詰まるし、藁にも縋る思い出俺達、元カケルの仲間に話を持って行きたくなる。でも、良く生きているってわかったな。エトワールか?」

「そうだ。最初に会ったのはあいつだったからな」


「なるほどな」と、頷き考える。


「最後の動きからして、失った仲間を集める事を優先したらしいな。アクアを失った今、戦闘能力の高い奴を狙っているんだろう」


 アクアを失う前に狙われていたけどな、ソフィア。

 出江も、たしかにそうだよな。アクアがソフィアを勧誘し始めたという事は、今は戦力を蓄える動きをし始めたという事だ。

 

 管理者だって見境ないわけではないだろうけど、また戦力が、元通りになっちまったら非常にまずい。


「――――その、勧誘されたソフィアってやつは、相当強いのか?」

「化け物」

「人間でもないってわけか」

「人間のはずなんだけどなぁ」


 でも、魔力が無くてもアクアと互角に殺り合っていたし、化け物だろう。


「ソフィアは、もう人間と扱わなくていいと思うよ。管理者と同じ扱いをしよう。体の作り方的に」


 アマリア、それはさすがに酷いって。

 管理者と同じくらい体が頑丈だったとしても。


「管理者は目を付けた人はそう簡単に逃がさない。また、狙われるかもな、そのソフィアって奴」

「ソフィアなら大丈夫だとは思うけど…………」


 だが、流石に管理者全員が動き出したとなるのなら話は別だ。

 ソフィアだろうと、簡単に殺される。――――と、思う。


「…………そのソフィアってやつも交えて話した方がよさそうだな。だが、俺はもうそろそろ移動する」

「もうか?」

「内容は理解した。協力はするが、俺の自由は奪わないでくれ。また、必要になれば来る」


 どう呼べと。


「んじゃな」


 あっ、その場から姿を消した。

 えぇ、微妙な空気……。


「今はもう何も出来ないし、寝るしかないね」

「…………寝れるかなぁ」

『寝よう寝よう!』

(「お前は気軽でいいなぁ」)


 風のような奴だった。


 ※


 寝て目を覚ますと、少しはすっきりしていて良かった。

 けど、昨日の夜はなぁ、なんとなく心残り。


 まぁ、スペクターを仲間にすることが出来た事を喜ぼう。

 と、いっても、条件ありだけど。


 その条件が本当に難しい。

 まさか、エトワールとスペルに出会わないようにしてほしいとか。


 まぁ、口聞きはするけど、約束できるとは限らない。

 それはアマリアが伝えてくれたし、了承済み。


 今はリヒトとアマリア、アクアとグラースと俺の五人が集まっている。


 他の奴らが起きてからスペクターについて話すとして、リヒトにイルドリ王の話についての感想を聞いてみた。


 他の奴らがいると、リヒトは遠慮して話せないし、今個人で聞いた方が話が進むだろう。


「私は正直に言うと、あまり殺しはしたくないです。それが、管理者相手だったとしても……」


 まぁ、リヒトならそういうだろうな。

 元々、優しい奴だし、殺すなんてこと、したくは無いだろう。


「一応、理由を聞いてもいいか?」

「管理者は、確かに本当に酷い事をしてきたと思いますし、許してはいけません。管理者の存在は平等な関係を築けていたのかもしれませんか、公平ではありません。貧しい者と裕福な者が同じ扱いをされてしまえば、貧しい者は何も出来なくなります」


 リヒトの言う通り、管理者は誰が相手だろうと罪を犯せば罰する。

 それが行き過ぎているとは思うが、正直考え方は間違えていない。


 だが、世界を平等にすることに意識が行き過ぎて、公平さに欠けている。


 それは、クロヌが理不尽を嫌うからなのだろうか。

 公平にする世の中の動きを、理不尽と捉える者も多いと聞くしな。


 "お前は今までたくさん食べてきた、だから今回のお菓子は全部違う子にあげる"


 これは、今までの過程を考えると公平にしている。

 だが、お菓子がもらえなかった子からしたら理不尽だと思うだろう。


 それと同じで、目線が変われば理不尽の感じ方も変わる。

 平等も公平も、人間全員に思わせるのは不可能だ。


 でも、最初に思った通り、考え方は間違えてはいない。

 出来る限り公平の方がいいし、平等であるべきだ。

 理不尽も、出来る限りなくした方がいい。


「…………でも、私、殺したく、ないです。相手がどんな事をしていようと、殺すのは、私達も管理者と同じことをしているような。そんな気持ちになってしまいます」

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