第414話 首羽骨

「ゴージャスな骨壺だな」

「王様の遺骨なので~」

「なるほどな」


 カケルが受け取ると、躊躇なく骨壺を開く。

 アンジュが反射で止めようとしたが、アンジェロがそれを止めた。


「今は、待っていましょう~」

「…………わかったわ」


 カケルの行動の意味が分からず、怒りが溢れ出そうになるアンジュは、拳を強く握り耐えた。


 カケルは中に入っている骨を一本、取り出す。


「これで大丈夫か?」


 十五センチくらいの骨を取り出し、スペクターに見せた。

 少し思案し、頷く。


「まぁ、もって三分くらいだろうな。それで話を完結できるかどうかは、親子の絆次第だろう」

「そんなもん、させるしかないだろ。他の骨はさすがに取り出せん」


 言いながら蓋を閉め、遺骨を二人に返した。


「あのぉ~、何をするおつもりですかぁ~?」

「王様をこの世に呼び戻すんだ。んで、親子で話してもらう。それが一番早い、そうだろう?」


 当たり前のように言ったカケルの言葉は現実味がなく、アンジュとアンジェロは顔を見合せ驚いた。


 何も言えず、ただただニヤニヤしているカケルと、面倒くさそうに欠伸を零すスペクターを見るしか出来なかった。


 ※


 城に戻り、イルドリの部屋の前に行く。

 アンジェロが扉を叩き中へと声をかけたが、いつもながら反応はない。


 もう一度、今度はアンジュが声をかけるが、同じだった。


「やっぱり、駄目ですねぇ~」

「返答がなければ何も出来ません。いかがいたしますか?」


 後ろで待機していたカケルは、きょとんと目を丸くし、スペクターは欠伸を零す。

 少し考えたかと思うと、カケルは笑みを浮かべ二人の間を通り抜け扉の前に立った。


「開かないのなら、開ければいいのだ扉など!!」


 リズミカルに言いながらドアノブを握り、大きな音を立て扉を開く。


 アンジュとアンジェロはいきなりの事で反応できず、スペクターはいつもの事なのか無反応。当たり前のようにカケルと共に中へと入った。


 中には、ベッドに腰かけ窓の外を眺めているイルドリの姿があった。

 扉が開かれたことで、振り向く。


 顔は青く、いつも輝いていた目は、死んだように暗い。

 体は細く、本当に生きているのか疑ってしまう。


 そんなイルドリは、見覚えのないカケルとスペクターを見て口を開いた。


「なに用だ」


 今まで一切声を出していなかったからなのか、声は掠れ小さい。

 それでも聞き取れたカケルは、笑みを浮かべ腰を折った。


「初めまして、イルドリ様。私は地上で冒険者として行動している、カケル=ルーナと言います。今回の事件については、お二人からお伺いしており、ご冥福をお祈りいたします」


 カケルを見ても、イルドリは反応を見せない。

 姿勢を戻し、カケルは再度イルドリを見た。


「今、フォーマメントは荒れています。王の息子である貴方がしっかりしなければならないのでは?」


 カケルからの容赦ない言葉に、イルドリの肩はピクッと動く。


 アンジュとアンジェロが言い過ぎだと言うように歩き出そうとしたが、それを欠伸を零していたスペクターが止めた。


「カケルにお願いしたのはお前らだろ? 邪魔すんな」


 右の水色の瞳に凄まれ、二人は肩を震えわせた。


 確かに、自分達はお願いした側。何か文句を言うのはおかしい。

 それでも、心が弱っているイルドリに言う言葉ではないと、アンジュとアンジェロは悔し気に拳を握った。


「…………わかっておる。私が、しっかりしなければならない。私が、フォーマメントをまとめなければならない。頭ではわかっているが、体が動いてくれんのだ」


 顔を抱え、嘆く。

 今の言葉にカケルは、目を細め口角を上げた。


「責任感が強いのは、本当らしい。俺は、お前さんを信じよう」

「…………どういう意味だ?」

「ここで、お前さんが自分の事しか考えていない発言をしたならば、協力しないとも考えた。だが、現状は理解しているらしい。少しは期待しようと思ってな」


 何を言っているのかわからないイルドリは、首を傾げる。

 そんなイルドリを無視し、カケルはスペクターへと振り返った。


「スペクター、頼んでもいいか?」

「わかった。絶対に置いて帰るなよ?」

「今までも置いて帰ったことないだろう……」

「ふん」


 言いながら欠伸を零し、スペクターはイルドリの前に立った。

 何をするのかと思いながらイルドリは、スペクターを見る。


「――――出てこい、首羽骨シュウコツ


 スペクターが呟くと、背後に亡霊のような。女性とも男性とも言えない人物が姿を現した。


 長く、黒い髪は顔を隠しているが、黒い瞳だけは隙間から覗き見える。

 首には赤い傷の跡、袴を身につけていた。


『お待たせしました、主』


 空気を揺らすような声。だが、ノイズがかかっており、やはり女性なのか男性なのかはわからない。


首羽骨シュウコツ、この骨の人物を呼び戻して」


 首羽骨シュウコツは、カケルが差し出した一本のシリルの骨を受け取った。

 頷き、ぎゅっと握る。


 口からは、聞き取れない呪文のようなものを呟き始める。

 耳障りで、耳を塞ぎたくなるような声。


 スペクターとカケルは慣れている為、表情一つ変えない。

 アンジュとアンジェロは、さすがに耳を塞ぎ、イルドリは唖然と見つめる。


 呪文を唱え始めてから一分程度たった頃、骨から淡い光が放たれる。

 すると、首羽骨シュウコツは黒い瞳を光らせ、骨を前方に放り投げた。


 刹那、半透明な男性がイルドリの前に姿を現した。


「――――――――ち、ちうえ?」

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