第413話 遺骨

 フォーマメントに連れて行けるのは、二人まで。


 カケルはもちろん行く。もう一人が問題で、スペルが行くと聞かない。

 エトワールはどちらでもという雰囲気で、ニコニコしていた。


 だが、カケルはスペルの意見を丁重に断り、嫌がるスペクターを無理やり引っ張り連れて行った。


「なんで、俺が…………」

「お前さんの魔法を、今回使うかもしれんからな」

「絶対に約束は守ってもらうからな?」

「はいはい。模擬戦な」


 フォーマメントを歩きながら二人は、そんなことを話している。

 だが、早々に話を切り上げ、周りを見た。


 アンジェロの言う通り、フォーマメントの空気は重たい。

 青空に囲まれているのにどんよりとしており、雨が降っているような感覚に陥ってしまう。


「重たいな」

「そうなんですよぉ~。普段でしたら、明るく、楽しい音色も飛び交っていますぅ~」


 本当にそうなのかと疑ってしまう程に、今のフォーマメントにはアンヘル族がいない。


 カケルは険しい顔を浮かべ周りを観察するが、隣を歩くスペクターは興味がないため、変わらず欠伸を零し続ける。


「……いや、欠伸し過ぎじゃないか?」

「酸素が足りない」

「天空だからかぁ?」

「真に受けんな。普通にめんどくせぇんだよ眠いんだよ今すぐ死にてぇんだよ」

「死ぬな死ぬな」


 適当に話していると、イルドリの城にたどり着いた。


「ここにいるのか?」

「そうなんですよぉ〜。自室にいるのですが、誰も部屋に入ることが出来ないんです〜」

「それは、扉が施錠されているからとかか?」

「いえ。声をかけても反応がないのですぅ〜。王の息子なので、勝手なことは許されません〜」


 つまり、イルドリが何かしらの意思表示をしてくれなければ部屋の中に入ることすら出来ないらしい。


 カケルは少し悩んだが、直ぐにスペクターを見た。


 またしても欠伸をこぼしていたが視線に気づき、涙を拭きながら不機嫌そうに「なんだ」と、問いかけた。


「いや、部屋に入れないのなら、スペクターの魔法を最初から使ってもいいかもしれないと思ってな」


 にやぁと笑ったカケルの表情を見て、スペクターは顔を真っ青にした。


「おい、話の流れ的に、『あれ』を使えということじゃねぇだろうな?」

「わかっているじゃないか! そうさ! スペクター。君を連れてきたのは、あの魔法を使って貰うたっ──」

「断る」


 カケルの言いたいことをすぐに理解したスペクターは、顔近くで腕をクロスにし、拒絶。だが、これはカケルもわかっていたこと。


 カケルは、スペクターの肩に手を回し、耳元で呟く。


「今回の件、真っ当にやっていたら時間がいくらでもかかる。だが、お前の魔法があればすぐに片が付くんだ。早く帰って、寝たくはないか? 模擬戦もしたいんだろう? 今回の事件を終わらせなければ、何も出来ないぞ?」


 脅すような言葉にスペクターは、ものすごく嫌だと顔を歪ませカケルを見た。

 その反応を楽しむようにカケルは、ニヤニヤと笑う。


「…………はぁぁぁぁぁぁぁあ。早く終わらせんぞ」

「さすがスペクター! 俺の恩人であり、一番の相棒だ!」

「黙れうるさい気色悪い死にたい」

「死ぬな死ぬな」


 カケルを見ているアンジュとアンジェロは首を傾げ、顔を見合せる。

 何の話をしているのだろうと不思議に思っていると、カケルが前に出た。


「それじゃ、一つお願いしてもいいかい?」

「なんでしょう?」

「王の遺骨がある場所に案内してくれ」


 ※


 アンジュとアンジェロは、フォーマメントの端にある、一番景色が綺麗な丘の上に二人を案内した。

 そこには一つだけ、墓石がある。


 その墓石の周りには、沢山のお花とお酒。様々な食べ物が備えられていた。


「へぇ、こんな所があるんだ。綺麗だなぁ」


 フォーマメントは、城を中心に自然が広がっている世界。

 その端は、地上を見下ろせるほど透き通っており、何もない。


 綺麗な景色をいつでも眺められるように、アンヘル族の皆は王の墓はここにしようという事に決めたのだ。


「早く終わらせんぞ」

「スペクターが怒り出しそうだし、やるかぁ~。と、言う訳で、遺骨、貸してくれない?」


 カケルが当たり前のように手を差し出す。

 でも、アンジェロ達は顔を見合せ眉を下げた。


「あの、さすがに勝手な事が出来る立場ではないので…………」

「でも、遺骨がないと俺達は何も出来ないぞ? 協力の話は無しになる。それでもいいのかい?」


 カケルの言葉にアンジェロ達は口を閉ざす。

 どうすればいいのか眉を顰め、考えた。


 ニヤニヤしているカケルの後ろで、スペクターは呆れたような表情を浮かべながら欠伸を零す。


「おめぇ、本当に胸糞わりぃな」

「何を言っているんだ、スペクター。俺は、事実を言っているだけなんだが? そんなことを言われる筋合いはないぞ~」


 もう、どうでもいいやと、スペクターはため息を吐き肩を落とした。

 二人が話していると、アンジェロ達は覚悟を決め、顔を上げた。


「わかりました。遺骨を取りだしますので~、少々お待ちください~」

「おう、わかった」


 アンジェロが言うと、アンジュと共に遺骨の準備を始める。

 その間、カケルとスペクターは後ろで待機する。


「それにしても、アンヘル族って、翼がある無いだけで人間とあまり変わらないんだなぁ」

「見た目だけな。体の作りなどは、人体実験などしないとわからん」

「まぁ、それもだな」


 話していると、すぐに準備が出来たらしく、両手で持たないといけない程の大きさはある箱をアンジェロが差し出してきた。

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