第405話 捨てられた町

「では、カメラに収めた事ですし、今日は現像して資料を見ましょうかぁ」

「そうだな!」


 三人はそのまま、城へと戻った。

 その時、微かに視線を感じ、イルドリは足を止めた。


 後ろを振り向くが、誰もいない。

 気配を探るが、もうなにも感じない。


 不思議に思いながらも、イルドリは呼んでいる二人へと駆け寄った。


 ※


 シリルは、イルドリとまた違う場所にいた。

 それは、老人の元家。


 今は誰も住んでおらず、周りも整備されていないため、荒れ果てた町となっている。


 自然も育っておらず、建ち並ぶ建物もボロボロ。

 死んでいる町と言われてもおかしくない程に、人はいない。


 シリルも、今回の老人事件について独自に調べており、そのために一人訪れていた。


 「ここは、事件が起きたまま放置されておるな」


 元々、占いで周りからは敬遠されていた家、放置されていても仕方がない。

 それでも、悲しみはある。


 老人自身は、悪い人ではない。

 占いをしていただけ、その結果を伝えただけ。


 それだけで恨まれ、家族を殺され、自分は殺人者になり牢屋へ。挙句、殺された。


 理不尽にもほどがある。

 そう思うが、もう何も出来ない。

 シリルは、せめて老人の事件を何とかしようと、証拠を探す。


 でも、もう数百年も放置されている。

 今更、何かが見つかるわけがない。それでも、シリルは探し続けた。


 部屋の中を見回し、物はなるべく動かさないように気を付ける。


「埃が…………」


 ゴホゴホと咳き込みながら探していると、やっと何かを見つけた。

 それは、数百年もここに放置された所にあるのはあり得ない、女性の髪の毛。


 シリルは床に落ちている髪の毛をまじまじと見る。

 一応、白手袋をはめ、手で取り、確認。


「黒い、長い髪、だな」


 そう言えばと、老人が殺した女性の特徴を思い出し、目を大きく見開いた。


「…………いや、考えすぎか。まさか、老人が殺した女性が生きているなど、ありえん。それに、火葬もしたはずだ」


 ブツブツ呟いていると、後ろに人の影。すぐ気配に気づき、シリルは振り向く。

 振り上げられている手には、大きな石が握られていた。


 気づかれるとは思っていなかった人影は、シリルに向け意思を投げ、逃げ出した。

 石を簡単に弾き、シリルも追いかけた。


 相手はそこまで足は速くない。

 翼を広げ飛ぼうとしたが、遅い。すぐにシリルが手を伸ばし捕まえた。


「待ちなさい。何をするつもりだった」


 人影は、女性だった。しかも、腰まで長い黒髪。

 さっきまで頭に描いていた女性が過り、驚愕。


 過去、老人が殺した女性と似ている。

 でも、それはたまたま思い出していたから。偶然だ。


 そう思い込んでも、シリルは口を開くことが出来ない。

 すると、女性は顔だけを後ろに向けた。


 その目は、黒い闇。黒い前髪の隙間から覗き見える、憎悪の込められた、闇の瞳。


 一瞬、体が硬直する。

 その隙を突き、女性は逃げようとしたがすぐに力を込めたため、シリルからは逃げられない。


「――――君は、一体何をしているのだ!」


 気を取り直しシリルは、女性に問いかける。

 だが、答えない。


 これは、無理やりにでも聞き出した方がいいかと、眉を顰めた。

 そんな時、女性が顔を上げた。


 その顔は、お世辞にも美しいとは言えない。

 肌はボロボロ、唇はカサカサ。それでも、淡く笑っている口元は、不気味で目を離せない。


 彼女の顔を見た瞬間、シリルはわかった。

 この女性は、老人が殺した女性だと。


「思い出したみたいね」

「っ、まさか、君は、あの時の――……」

「そうよ。私は、あの糞じじぃに一度殺された、女。覚えていてくれているなんて光栄ね」


 ふふっと笑う彼女は、余裕に見える。

 今、確実に追い込められているのは女性のはずなのに、なぜここまで余裕なのか。


 シリルはわからない。

 問いただすため絶対に逃がさないよう、腕を強く掴んだ。


「いっ! …………酷いわね、男性が女性の腕を強く掴むだなんて…………」

「貴様には聞きたい事が山ほどあるからな。悪いが、城まで来てもらえるか?」


 聞くと、口元に浮かべていた笑みを消した。


「悪いけれど、それは出来ない相談よ」


 言いながら、開いている手を上げ、パチンと、指を鳴らした。

 何を企んでいるのか警戒していると、上から砂が落ちる。


 上は天井、何か衝撃を与えなければ何かが降るなんてことはない。

 嫌な予感が走り、シリルは上を見た。同時に、天井がいきなり崩れ落ちた。


「なっ!」


 すぐに逃げようとするが、それより女性が手を振りほどく。

 それに気を取られてしまい、動き出しが遅れた。


 そのまま、崩れた天井の下敷きとなってしまった。


 逃げた女性は、埋められたシリルを見下ろし、ほくそ笑む。

 そのまま背中を向け、歩き出した――……

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