第404話 黒幕
クロヌは一人、薄暗い道を歩いていた。
周りに人はいなく、横で二人は歩けない程の細道。建物とフォーマメントを囲う壁の間は、じめじめとしていた。
今日は天候も悪く、湿気が高い。
じめじめしていてもおかしくはない。
そんな中、クロヌはイルドリとの会話を思い出していた。
コツン、コツンと、クロヌの足音が響く。
だが、一つだった足音が、いつの間にか二つになっていた。
クロヌは足を止め、自分以外の足音の正体を気配で探る。
「────なぜ、イルドリに追いかけられていたのだ」
「それは悪かったわ。少し、体調が優れなかったの」
クロヌの後ろから、イルドリへと落ちた女性が姿を現した。
赤黒かった翼や髪は、綺麗になっている。
服は、まだまだぼろぼろ。それでも、気にすることなく、クスクスと笑いクロヌに近付いた。
「でも、あの人、少し目障りだったから、逆に今回の件は良かったかもしれないわね」
「どういうことだ」
振り向き、クロヌは女性を見る。
「あの人の顔、貴方を見た瞬間に変わったわ。絶望――と、言えばいいかしら。あのまま心が折れてしまえばいいのに」
「折れると思うか?」
「それは、貴方が一番わかっているのではないかしら」
クロヌの言葉に、女性は笑みを消し、手をだらんと垂らす。
黒く濁っている瞳は、クロヌを見ているようで、見ていない。
どこか、違う標的をずっと瞳の中に潜め、逃がさないと言っているように感じる。
クロヌは、その目に逆らえない。
息を飲み、目を逸らした。
その反応を見て、女性は暗く、一筋の光すらない空を見上げた。
「でも、少しは心に衝撃を与えたはずよ。ここで折れないにしても、動きは制限されるはず。もっと、制限してやりたいわね」
言うと、女性の身体にビシビシと何かが刺さる感覚が走る。
クロヌを見ると、静かな殺気が放たれていた。
「今の言葉、撤回はするか?」
「……ふふっ、わかっているわよ。約束は守るわ。貴方が私に協力してくれている限り、イルドリ様に手は出さない。私の目的が達成されるまでが条件……よね?」
「わかっているなら、良い」
すぐに殺気を消し、息を吐く。
振り向き、歩き去ろうとした。
そんなクロヌを、女性は止めた。
「明日から、どうするつもりかしら」
「我の立場がイルドリにばれた以上、もう表立って動くことはできん。他の方法を考える」
言うと、今度こそクロヌはいなくなる。
残された女性は、クスクスと笑い再度空を見上げた。
「私の復讐は、老人を殺しただけでは終わらないわ。この理不尽な世界を許している、この世界の王──そいつを殺さない限り、私の復讐は果たされない」
濁っている瞳は妖しく光り、耳まで裂けそうな程、口元を横に引き延ばす。
彼女の笑い声だけが、辺りに響き渡った。
※
まだ、クロヌが関わっていることを知った時の衝撃は残っているものの、イルドリはアンジュ達と共に調査に出ていた。
「本当に、休まなくて大丈夫ですかぁ~?」
「問題ないぞ! 寝ていないから体は重たいが、徹夜は幾度となく経験している! 慣れだ、慣れ!」
「それは、本当に問題ないのでしょうか……」
三人は今、フォーマメントを歩いていた。
目的は、イルドリが女性を見た道。
今は昼間、周りに人がいるため、あまり大掛かりな調査は出来ないが、見るだけでも何かわかるだろうと来てみた。
三人は、ひとまず女性が現れた所を全角度からカメラに収めるため、首から垂らしていた。
「ここだ」
イルドリが立ち止まった場所は、特別何かあるわけではない、ただの道。
周りは街灯、花壇。建物は特になく、公園のような場所だ。
「吹き抜けですね」
「特に、変わった物もなさそうですねぇ~」
二人が周りを見るけど、イルドリと同じく何も見つけられなかったらしい。
それでも、全方位をカメラに収める。
アンジュがカシャカシャとカメラのシャッターを鳴らす。
そんな時、アンジェロが周りを見ていると、ふと、空を見上げた。
「――――あれ?」
「どうした!!」
アンジェロが上を見上げると、怪訝そうな声を出した。
イルドリが聞くと「あれ」と、指を差す。
指された方向を見ると、何か浮かんでいるのが目に入った。
球体のような形をしている、何か。
イルドリは白い翼を広げ、空中へと舞い上がる。
すると、その球体は、イルドリが近づく前にいきなり動き出し、どこかへと飛んで行ってしまった。
追いかけようとしたが、小さいのもあり、もう見えない。
何だったんだろうと思いつつ、イルドリは今のも覚えておこうとアンジェロと話し合った。
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