第400話 新たな事件
「縄は、本当に貰ったものなのか?!」
「そうだが?」
「拾ったものでは無かったのか?」
イルドリが聞くと、クロヌは微かに動揺を見せた。
それをイルドリは見逃さない。
「何を隠しているのだ、クロヌよ」
「…………」
「クロヌ!!」
クロヌは口を閉ざし、何も話さなくなってしまった。
その事にイルドリは焦りを滲ませ、再度名前を呼ぶ。だが、それでも何も言わない。
またしてもイルドリが感情のままに名前を呼ぼうとした時、アンジェロが手で制し、落ち着かせた。
「ここからはまた僕に任せてくださいねぇ〜」
「し、しかし!!」
「任せて、くれないのですかぁ〜?」
オレンジ色の瞳をぎらつかせ、イルドリを制圧。任せるしかないと思い、渋々引き下がった。
「それじゃ、また僕から質問するねぇ~。縄の話から少しズレるんだけどぉ〜。さっき言っていた女って、どんな服装をしていたのぉ~?」
「他と変わらん、白い服だ。翼が少し黒く濁っていたのは気になるが、それ以外に特徴はない」
「翼が濁っていたのですかぁ?」
「あぁ。随分昔の汚れだとは思うのだが、そこまでまじまじ見ていないから詳しい事はわからん」
「そうなんですねぇ~。顔は完全に髪で隠れていたのですかぁ~?」
「見えなかったな。微かに口元が見え隠れしていた程度だ」
「口紅はしていました?」
「そこまでは知らん」
「ふむ」と、アンジェロは一度質問を止める。
「──その女性とは面識あるかもわからなかったということで?」
「そうだ」
「なぜ、縄を受け取ったのですかぁ?」
「我が快く受け取ったわけではない、押し付けられたのだ」
「押し付けられたぁ?」
「そうだ」
それ以上話さないクロヌになんて質問しようかアンジェロは考える。
「押し付けられたとは、どのような形で? その時の事を詳しく教えてもらってもいいですかぁ~?」
「普通に歩いていた時、前から走ってきた女性にぶつかり、縄を流れるように押し付けられたんだ。返そうとすると、もう走り去っていたのだ」
「その縄を、なぜ貴方はすぐに捨てなかったのですかぁ~?」
「捨てようとしたが、その時の移動途中にガーネットに会ったのだ」
「なるほどぉ。ありがとうございますぅ~」
「これでいいか?」
「いえ、最後に一つ、聞きたい事があるのですが、良いですかぁ~?」
「なんだ」
ここで終わりと思っていたのに、まだ質問が続きクロヌはため息を吐きつつ次の言葉を待った。
「なぜ、ガーネットさんには拾ったと言ったのに、僕達には押し付けられたと、説明したのでしょうかぁ〜?」
ここでその質問が来るとは思わず、クロヌは目を開く。
流れるように質問され、どのように答えようか悩んだ。
「────説明がめんどくさかっただけだ」
「その言葉を信じろというのですかぁ〜?」
「信じる信じないは好きにしろ。俺は、聞かれたことに答えただけだ」
これ以上は何も言わない。
アンジェロはまだ粘ろうとしたが、今はそこまで詰めるべきでは無いと判断。
「わかりました」と、引き下がった。
※
「これは、難航しますねぇ〜」
「そうね、次はどう出ようかしら」
クロヌと別れ、三人はイルドリの自室で情報の整理をしていた。
「今回の聞き込みでわかったことは、クロヌさんが老人の事件に関与していることね」
「そうだねぇ〜。イルドリ様には辛いことかもしれないけど、大丈夫ですかぁ〜?」
今だ口を開かないイルドリを心配し、アンジェロが声をかける。
「大丈夫であろうと、なかろうと。老人の事件にクロヌは関与している、そう考えるしかないだろう」
「いいのですかぁ~? 嫌がると思っていましたぁ」
「…………嫌だ」
アンジェロの言葉をイルドリは、自身の言葉を否定するように、少しの怒りを込めた口調で言った。
「クロヌを疑うなど、私は考えたくない。親友が殺害に関わっているなど、考えたくない。だが、少しでも可能性があるのなら、それを晴らすために動くまでだ」
地を這うような声、殺気が含まれている瞳。
アンジュとアンジェロは、イルドリの表情と声に体を大きく震わせた。
呼吸すらままならず、指一本すら動かせない。
少しでも動けば、何をされるかわからない圧に、何も言えない。
数秒、重苦しい空気が流れると、イルドリが大きく息を吐いた。
すると、重かった空気も共に消え、二人はやっと息を吸う事が出来た。
「すまない、感情の制御が出来ないなど、やはり私はまだまだだ。もっと、精進せんとならんな」
後悔するように拳を握り、悔しそうに顔を歪ませた。
「――――反省は後でたっぷりするとしよう。今は、これからについて話すぞ。クロヌについては、また調べんとならんな。これからの動きにも要注意だ」
元の空気に戻ったイルドリに安心して、二人は頷いた。
「わかりましたぁ~。では、明日からは、事件について調べるのと同時に、クロヌさんについても並行して意識していきましょ~」
アンジェロの言葉に、イルドリとアンジュは頷き、今日はクロヌの情報を資料に書き足し、解散した。
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深夜、イルドリは自室で資料とにらめっこしていた。
クロヌの情報を何度も何度も読み直す。
ガーネットが言っていた証言と、クロヌ自身が言っていた証言は、異なっていた。
だが、クロヌの性格上、ガーネットに真実を話せば、質問攻めにあってめんどくさいと考えるのは、おかしくはない。
「…………次の動きを見てから考えた方がよさそうだな。それより……」
イルドリは、クロヌの話に出てきた女性について思い出す。
なぜ、女性は縄を持っていたのか。
なぜ、クロヌに無理やり渡したのか。
唸りながら、女性についても調べなければとため息を吐いた。
「うーん。少し、外の空気を吸うか」
ずっと、資料とにらめっこしていたため、目が痛くなってきたイルドリは、自然の風に当たろうと立ち上がった。
城から外に出ると、雲が周りを漂い、月が大きな顔を覗かせていた。
風は少し冷たいが、寒いとは感じない。
逆に心地よく、息を大きく吸った。
「ふぅ、気持ちがいいな。やはり、外の空気はうまい」
自然と笑みを浮かべ、星空を見上げる。
目を細め、心地よさそうに髪を揺らした。
「――――では、戻るか」
すぐに城に戻ろうとしたイルドリだったが、何かの音が耳を掠め、立ち止まる。
目を閉じ、微かに聞こえた人の声を意識した。
叫び声に近い声だったため、放置など出来やしない。
耳に集中し、どこから声が聞こえたのか探る。
「――――上?」
上から人の気配、向くと視界に入り込んだのは星空――――ではなく、白い翼が赤く染まったアンヘル族が、イルドリに向かって落ちてきていた姿だった。
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