第399話 情報提供

「クロヌが、縄を隠し持っていた?」

「隠し持っていたというか、服から何かが垂れていたから聞いたんだ。拾っただけと言っていたんだが、どこか不自然というか……。何となく、納得できないような気がしたんだ」


 言葉を絞り出すように唸りながらガーネットが言うと、イルドリは顎に手を当て考え込む。

 まずいことを言ってしまったかと、ガーネットは顔を青くしイルドリの顔を覗き込んだ。


「…………わかった。礼を言うぞ、ガーネット!!」


 ぱっ、と顔を上げ、いつもと変わらない声でお礼を言ったイルドリ。

 驚いたガーネットは、これ以上何も言えず「そうか」と、頷いた。


「ちょっと、クロヌにも話を聞いてみる。貴重な意見、参考にさせてもらうぞ!」


 そのままイルドリは、歩き去る。


 残されたガーネットは、気まずそうに眉を下げつつ手を振って「またな……」と、イルドリを見送った。


 ※


 城に戻ったイルドリは、頭を抱えていた。

 机に肘を突き、髪をかき上げる。


 表情は厳しいもので、イルドリには珍しく歯を食いしばっていた。


「まさか、クロヌが今回の事件の犯人。又は、協力者……?」


 口数は少なく、不愛想。だが、根は真面目で優しいクロヌを疑いたくないイルドリは、苦しそうに唸った。


「…………いや、決めつけるのはまだ早い。ガーネットも言っていたであろう。深く考えすぎるな、と」


 自分に気合いを入れ直し、椅子から立ちあがる。拳を握り、突き上げた。


「明日、クロヌに聞いてみるぞ。今はそれしかできん!!」


 いつものイルドリに戻り、椅子に座り直す。

 机に置かれている資料を手に取り、ほんの少しでも見落としがないか必死になって探し出した。


 ※


 次の日、アンジュとアンジェロを引き連れ、クロヌを探すイルドリ。


 事情は、二人に話し済み。

 三人でクロヌを探していると、意外にもすぐに見つける事が出来た。


 空中で探していた三人は、一人歩くクロヌの元に降りる。


「クロヌ!!」


 上から来た三人を見て、クロヌは目を開き驚いた。


「どうした? そんなに焦って…………」


 声をかけてきたのがイルドリだけでないことに疑問を抱き、視線を後ろにいる二人に送った。


「あ、後ろの二人は今、老人の事件について調べるため協力をお願いしているのだ! 凄腕らしいぞ!」

「そうか。──まさか、この二人が噂の二人か?」

「噂になってるらしいな! 私は知らなかったが!!」

「お前はそういう事に疎いからな、知らなくても無理はないだろう。ただ、これから王の器として精進していくと宣言したのに知らないのはどうだろうかとも、思うがな」

「うっ……。何故それを……」

「ガーネットに聞いた」


 ガクッと肩を落とし、イルドリは落ち込む。

 いつもと変わらない二人なのだが、今回は世間話をするためにクロヌを探していた訳では無い。


 このままでは話が進まないと感じたアンジュとアンジェロは、一歩前に出て本題に入る。


「初めましてぇ~。僕が弟のアンジュですぅ〜。少し、気になる話を聞いたので、質問に答えてくれますかぁ~?」

 

 緊張感のない口調と表情で問いかけられ、クロヌは戸惑いながらも頷いた。


「ありがとうございます~。では、確認を最初に失礼しますねぇ〜。貴方は、老人の事件について知っているのでしょうかぁ〜?」

「あぁ」

「わかりましたぁ~。では、本題に入りますねぇ〜。事件の時に使われた凶器についてもご存じで?」

「イルドリが縄だと言っていたな」

「そうなんですよぉ~。その縄を探しているんですけど、何か知りませんか?」


 アンジュの質問に、クロヌは肩をピクッと震わせた。


 アンジュはその反応を見逃さず、気づかれないようにアンジェロと目を合わせた。


「あぁ、なるほどな。ガーネットの話を聞き、我の元へと来た訳だな」

「そこまでわかってしまったんですねぇ~。そういう事ですよぉ~。それでなのですが、このタイミングで、なぜ貴方は縄を持っていたんですか?」


 目を細め、アンジェロは圧をかけるように問いかける。

 冷たい眼差しを送られ、「これか」と、クロヌはどこか納得した声を漏らす。


 アンジュとアンジェロの噂は、何も観察眼や情報を聞き出すテクだけではない。

 噂はそれしか流れていないが、クロヌは自身が喰らって噂の真の意味が分かった。


 今のアンジェロの纏う空気は冷たく、間違えた事を言えば殺されてしまうと思わせる。

 これは、確かに情報を隠した方が不利になりかねないなと、クロヌはため息を吐いた。


「ガーネットに会った時の縄は、我が調達したわけではない。

「もらったものですかぁ~? それは誰から?」

「よく知らん女性だったな。髪は長く、ぼさぼさ。顔は隠れていたから、知り合いかどうかもわからんかった」


 今の話に、イルドリは怪訝そうな表情を浮かべた。


「クロヌよ」

「なんだ」


 話しはアンジェロが進めるという話になっていたにもかかわらず、イルドリが入ってきたためアンジュは一瞬止めようとした。


 だが、それをアンジェロが止める。


「少し、様子を見ましょう」


 一歩、後ろに下がり、二人の会話から少しでも情報を抜き出そうと耳を傾けた。

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