第398話 聞き込み調査

「そんなことがあったのですね」

「不愉快な話ですねぇ~。でも、ないとは言い切れません~」


 アンジェロは眉間に深い皺を寄せ、アンジュは表情を変えない。だが、声色が少し沈んでいた。


 聞いていて気分の良い話ではないから、そういう反応するのは当然だと、イルドリも眉を下げる。


「今回のは、難しい事件ですねぇ〜」


 二人が頭を悩ませる。

 イルドリも「うーん」と頭を捻るが、地下牢でいくら頭を悩ませても、今以上の証拠は出てこない。


「聞き込みなどって行いましたかぁ~?」

「出来る限りは行った。だが、特に何も成果はなかったぞ!」

「なるほど〜」


 三人で悩んでいると、アンジェロが何かを思い出し、問いかけた。


「一つ、気になる事を思い出したのですが、よろしいでしょうか」

「なんだ!」

「絞殺の道具は縄。ですが、縄は見つかっていないんですよね?」

「そうだ!」

「それをまず探すのはいかがですか?」

「縄は、すでに処分している可能性があるぞ?」

「足さえ残っていればいいのです。今回は事件についてではなく、縄について聞き込みしましょう」

「わかった!」


 三人はまず、事件の真相ではなく、縄にターゲットを絞り、探し始めた。


 手分けして探す事になり、イルドリは縄を取り扱う店や、処分されている可能性もある為、ごみ収集所などにも行き、手当たり次第に聞き込みをした。


 空中を飛び、地面を歩き。

 様々な所に移動している途中、ガーネットがイルドリを見つけ声をかけた。


「イルドリ!」

「っ、お。ガーネットではないか!!」


 会ったばかりではあるが、やはり友と会えるのはいつでも嬉しいもので、笑顔で手を振る。


「何をしているんだ?」

「今は、ある事件の聞き込みをしていた!」

「ある事件……。あぁ、老人殺人事件のか」

「そうだ!!」


 イルドリはいつでも元気に見えるが、やはり感情はあり、体力にも限界はある。

 目元にはいつの間にか隈が出来ており、声に覇気が無くなっていた。


 ガーネットはイルドリの変化に気づき、頬に手を添え、顔を覗き込んだ。


「最近、寝れているか? 顔色が悪いぞ」

「む! 寝れてはいるのだが、前ほどではないな。それに、動き回っている為、確かに疲労はたまっているかもしれぬ!!」


 ガーネットの言葉に自己分析をするイルドリに苦笑い。

 言われないと気づかなかったのかと、ガーネットはイルドリの頭を撫でた。


「あまり無理をするな。何かあれば必ず協力する」

「それは助かるぞ! だが、安心してくれ! 協力者も増え、前よりは幾分か楽になっているぞ! それでも、やはりガーネットからの言葉は嬉しいものではあるがな!!」


 ニカッと笑いかけて来るイルドリに、ガーネットもつられて笑う。

 その時、「協力者?」と、疑問を持った。


「協力者って、誰だ?」

「男女の双子だ。父上が連れてきてくれたのだ!」


 流石にそれだけではわからんと思ったガーネットだったが、ピンとくる人物が頭を過り、「あっ」と言葉を漏らす。


「もしかして、アンジュ・アンジェロコンビか?」

「そうだ! 知っているのか?」

「まぁ、その二人は有名人だからな」


 有名人と聞いて、イルドリは目を丸くする。


「この双子は、顔が広いんだ。人間界でも生活出来るらしいしな。人間の常識やルールなども身に着けている。それだけではなく、今まで難解な事件すら解決して来たらしい」

「それは凄いな!! 凄腕なんだな!!」

「姉であるアンジュは、目の付け所が人とは違い。弟であるアンジェロは、人との会話を得意とし、情報を引き出させ証拠を難なく手に入れてきたらしいぞ」


 今の話を聞いて、なんでシリルが二人を連れてきたのかやっと理解したイルドリは、手を打った。


「なるほど!! 普段は探偵か何かをしているのか?」

「いや。本人達は、自分で言っているように一般人だ。探偵といった、そういう物は行っていないらしい」

「勿体ないな! 良い金稼ぎになりそうなのにな!!」

「そこに繋げるのか」


 意外な着地点に、ガーネットは思わず突っ込んでしまった。


「まぁ、そこは良い! 本人達は嫌々付き合っているようにも見えん。このまま協力はお願いしよう!!」

「そうだな。これから調査が進むと良いな」

「あぁ!!」


 そんな会話をしていると、イルドリは何かを思い出し、再度口を開いた。


「そう言えばガーネット、聞き込みに協力出来ないか?」

「ん? わかった、なんだ?」


 協力出来る、そう思い、ガーネットはニコニコと次の言葉を待った。


「今、縄の在処を探しているんだ。最近どこかで縄を処分している人や、怪しい人物とかを見ていないか?」


 その言葉に、ガーネットは腕を組み考える。

 すると、一人だけ該当する人物を思い出す。だが、気まずそうに顔を逸らし、言う事を渋ってしまった。


 なぜ、渋ってしまったのか。イルドリには見当もつかず、きょとんと目を丸くした。


 次の言葉を待っていると、ガーネットは苦笑いを浮かべながらイルドリを見た。


「あまり、深く考えるなよ?」

「あぁ! わかった!」

「偶然だとは思うんだが、前に食事処に行った時の帰り、俺、クロヌに会ったんだ」

「そうだったのか!!」


 そこまで仲良くはないが、面識ある程度なのはイルドリも知っていたため、そこまで驚かなかった。


 イルドリが言葉を失う程驚愕した言葉は、次。


「それでだ。クロヌは不自然に、その、縄を隠し持っていたんだよ」

「――――は?」

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