第397話 協力者

 イルドリと別れたガーネットは、一人空中を白い翼を広げ散歩を楽しんでいた。

 すると、見覚えのある人物前を飛んでおり声をかけた。


「クロヌ!」

「ん? あぁ、イルドリのところの騎士か」

「ガーネットだ。いい加減、名前を呼んではくれないか?」

「…………こんな所で何をしている」

「呼ぶ気はないということか」


 クロヌは、イルドリ以外の人物に関してはドライな部分を持っていた。


 基本、周りに興味を示さないクロヌ。だが、名前と顔はしっかりと覚えている。本人に呼ぶ気がないだけだった。


「特に、何かしていたわけではない。イルドリと久しぶりに食事を楽しんでいただけだ。いまはその帰り」

「そうか」

「クロヌは、何をしているんだ?」

「言う必要はあるか?」


 こういうところがドライだ。

 だが、ガーネットはもうそういう人物だということは知っていいるため、淡々と答える。


「俺は質問に答えたのに、クロヌは答えてくれないのか?」

「…………それもそうだな。だが、


 顔を逸らし、クロヌは言う。

 そのまま去ろうとしたため、ガーネットは慌てて止めた。


「待て待て、少し聞いて欲しい話があるんだ。イルドリと話していた内容があまりに面白く、それでいて尊敬してしまう話だ、聞いてくれ」

「…………手短にな」


 こういうところは断らないんだよなぁ。

 ガーネットは微笑みながらクロヌから顔を逸らし、夕暮れを見る。

 その顔はどこか清々しかった。


「俺は、次の王の噂を聞いた時、疑うことなくイルドリだと思っていた。血縁者だし、そういう教育も受けてきているはずなんだ。だが、イルドリ本人は、まだまだ器ではないと。自分が選ばれる確証はないと、言った。自分が王の息子であるという立場を過大評価せず、努力をしているイルドリを見ていると、こっちとしては少し焦ってしまう」

「それと同時に、やる気に満ち溢れ、自分も頑張らなければならないと思ってしまうと?」


 クロヌの言葉に、ガーネットは「まぁな」と返事をする。

 ため息を吐き、クロヌは肩を落とした。


「まったく……。イルドリは……。だからめんどくさい」

「だが、そういうイルドリだからこそ、クロヌも負けたくはないんだろう?」

「…………ふん」


 肯定も否定もしない返答に、今度はガーネットが肩を落とした。


「素直じゃないな」

「黙れ。我はもう行くぞ」


 そのまま去ろうとするイルドリの背中を見送ろうとしたガーネットだが、違和感を感じ思わず止めてしまった。


「あ、あれ? クロヌ、その縄は何に使うようだ?」


 指を差されたクロヌは、驚きゆっくりと振り返る。指を差されている下を見ると、確かに一本の縄が服から垂れていた。


「…………さっき拾っただけだ」

「拾った、だけ?」

「そうだ」


 縄を服の中に戻し、完全に見えなくすると、クロヌは今度こそいなくなってしまった。


 残されたガーネットは、首を傾げながらもこれ以上何も考えることなく帰った。


 ※


 イルドリが調査を始めてから一週間弱が経ったが、成果という成果を手に入れる事が出来ていない。

 イルドリが自室で項垂れていると、部屋の扉がノックされた。


 返事をすると、シリルと、見覚えのない双子のアンヘル族が入ってきた。


「む?」


 誰かわからない双子に、イルドリは数回瞬きをし、説明をシリルに求めた。


「今回の事件、手間取っているらしいな」

「証拠が簡単に掴めませんが、絶対に諦めません!」

「諦めろとは言っていない、逆だ。協力者を連れてきた。前に出ろ」


 シリルが横に避け、後ろをついて来ていた二人を前に出した。


 男女の双子。男性の方は無邪気な笑みを浮かべ、女性は無表情。

 少し怒っているようにも見え、イルドリはまたしても目を丸くする。


「自己紹介を頼めるか?」


 シリルから促され、まず一歩前に足を踏み出したのは男性の方だった。


「僕の名前はアンジュ。寝る事が大好きな一般人ですぅ~」

「私はアンジェロ」


 女性の方は話す事が得意ではないらしく、名前だけで終わってしまった。

 個性が強いなと思いつつ、イルドリも自己紹介する。


「うむ!! 私はイルドリ・メイヴェンだ!! よろしく頼むぞ! アンジュ、アンジェロ!!!」


 ニカッと白い歯を見せ笑い、二人の前まで移動した。

 アンジュが「よろしくお願いいたします~」と、握手を求めた。


 二人が握手している時、シリルが安心したように扉へと歩く。


「では、これからの調査は、三人に任せた。必ず、真相を探し出せ」


 それだけを残し、シリルはいなくなる。

 残された三人は一度顔を見合わせると、最初に口を開いたのは意外にもアンジェロだった。


「では、今集まっている事件の資料と証拠を教えていただいてもよろしいでしょうか」

「うむ! これだ!!」


 机の上に広げていた資料を指さし、皆で囲う。

 一枚一枚拾い上げ、二人は事件について確認した。


「――――シリル王から聞いた話と一致するわね」

「当たり前なんだけどねぇ~。でも、所々、省かれていたところもあるから~、そこはイルドリ様と確認した方がいいかもぉ~?」

「そうね」


 二人の話に、イルドリも加わり話を進めた。


 ※


「わぁ、地下牢に初めてきましたぁ~」

「ジメジメしていて気分が良い所ではありませんね」

「そうだな!! 気分が良い所ではない!」


 老人がいた牢屋を見せ、中に入る。

 布の下に隠されていた穴も覗き込むが、何も見えないのはイルドリと同じらしく成果はない。


「これは、確かに難航しそうですねぇ~」

「そうだ! 老人についても調べているが、話し以外の情報を手に入れる事が出来ぬ!」

「話し、ですか?」


 そう言えば、老人の話は資料にも書いていなかったなと、イルドリは思い出し、口頭で老人が死ぬ前に話していた過去を掻い摘んで二人に聞かせた。

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