第396話 復讐者

「今日は楽しかった。また、時間を見つけて話そうぞ」

「うむ! ガーネット、こちらこそありがとうだ! 必ずまた時間を作り、今度は手合わせでもお願いしたい!」


 食事処から出た二人は、フォーマメントを歩いていた。


 もう、太陽が沈み、夕暮れ。

 オレンジ色に輝く街を眺め、二人は歩く。


「手合わせか。そういえば、俺を騎士に誘ってくれた時からたくさん手合わせをしてくれたな」

「そ、その時はすまなかった…………」


 ガーネットとイルドリの出会いは、ガーネットが家族を理不尽に失い、シリルが匿った時だった。


 ガーネットの両親は、病に侵されていた。

 だが、お金がなく、高額医療を受けることが出来ない。


 唯一無事だったガーネットが必死に仕事をしてお金を稼いでいたが、それでも治療を受けれるだけのお金はたまらない。


 普段飲んでいる進行を遅らせる薬を買うだけでも辛く、時々足りない時もあった。


 医者に「お金がなければこれ以上の治療はできない」と、さじを投げられ、ガーネットは絶望した。

 それでも、お金があれば助かるかもしれないと、必死になった。


 必死に働き、必死にお金を稼いだ。

 何とかたまり、医者にお金がたまったと報告。医者は驚きはしたものの、お金があるのなら治療をしようと話が出来た。


 だが、いざお金を渡そうとすると、なぜか家は荒らされており、せっかくためていたお金が無くなっていた。


 どこを探してもなく、家の中で立ち尽くしていると、怪しい顔を浮かべている医者が入って来た。


『金はないらしいなぁ。それなら、治療はできん。嘘を吐かれるとは思わなかった、失望したぞ』


 そんなことはない。頑張って貯めたお金は確かにあった。

 そう言っているのに、医者は聞く耳を持たなかった。


 そんなことをしていると、両親は病に勝てるほどの体力が底を尽き、死んでしまった。


 色々後片付けをしていると、不可解な点を見つけた。


 それは、今まで病の進行を遅らせるために飲んでいた薬は、二人の病にはまったく効果のない、ただの頭痛薬だったこと。


 しかも、格安で手に入れることが出来るものだとわかり、今まで倍以上のお金を払っていたガーネットは、怒りと悲しみでいっぱいなる。


 ガーネットの両親を診ていた医者は、もともと治すつもりはなかった。

 死ぬまで、取れるだけのお金を取るつもりだったことが発覚。


 ガーネットは、感情のままにその医者を殺してしまった。

 警護班に捕まり、牢屋へと閉じ込められる。


 ここで、自分は一生暮らすことになる。

 でも、なんで? 自分は何か悪いことをしたのだろうか。何もしていない。

 何もしていないのに、なんでこんなことになっているんだ。


 同じ疑問を頭の中で何度も何度も繰り返す。

 そんな時、まだ王になったばかりのシリルがやって来た。


『もし、君に生きる意志があるのなら、俺を守る騎士になってくれないか』


 その言葉と共に差し出された手を握り、騎士であるガーネットが生まれた。


 イルドリに様々な戦闘方法や武器の正しい使い方を習い、今となっては屈指の実力を持つ騎士まで上り詰めていた。


 それでも、過去に犯してしまった罪は消えない。

 ガーネットが起こしてしまった罪を知っている人からは、いまだに冷たい視線を送られる。


 それでも必死に食らいつき、真面目に騎士として生活をしてきていた。


「そういえば、ここ最近噂になっている話があるのだが、聞いても良いだろうか?」

「うむ!! 構わんぞ! 答えられることなら答えよう!!」


 元気に返事をしたイルドリに、ガーネットは頬笑み、問いかけた。


「もうそろそろシリル王から代替わりするという噂が流れているのだが、そうなのか?」

「む? そんな話、父上は何もしていないぞ?」

「そうなのか?」

「そうだ!! もしかしたら、私以外の者に王を任せようと思い、私に敢えて話していない可能性はあるが、今のところ私に話は来ていない!!」


 あっけらかんと言い切るイルドリに、ガーネットは失礼ながらも気になったことを問いかけた。


「イルドリは、一人息子のはずだろう?」

「そうだ!」

「自分が次の王になるとは思っていないのか?」


 聞くと、イルドリは足を止めた。

 一歩前に進んだガーネットも足を止め、振り返る。


「どうした?」

「…………王は、実力のある者、その器に見合った者がなった方が良いと、私は考えている」


 顔を上げ、まっすぐガーネットを見るイルドリの瞳は、夕暮れにより赤く光る。


 殺気とはまた違う。でも、身を震わせるような気配を醸し出すイルドリに息がつまり、ガーネットは見つめ返した。


「私は、まだその器に達していない。息子だからと、王になれるとは考えていない。このフォーマメントを守るためには、血縁者という存在ではなく、信頼を勝ち取ることが出来ている者が必要だ」


 そう言い切るイルドリに、ガーネットは微かに口角を上げた。


「でも、血縁者というのも大事だろう?」

「そうかもしれぬ。だが、それに甘えてはいられない。王になるのがゴールなのではなく、王になってからがスタートなのだ。まだ、私はスタートラインにすら立てていない状態。勝負にすら、参加出来ないかもしれぬ立場にいるのだ」


 そこで一拍置き、息を吸う。


「私は、父上の跡を継ぎたい。だが、そのための器には達していない。誰もが認める王になれるよう、これからも精進していくつもりだ!!」


 決意が込められている表情を浮かべ、言い切ったイルドリを見て、ガーネットはただひたすら、感動した。

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