第395話 親友

 イルドリは肩を支え、地下から出る。

 怪我をしている彼を見て、警備員二人は駆け寄った。


「何があったんですか、イルドリ様!」

「何でもない。だが、一つだけ聞きたい事がある」

「は、はい」

「私以外にこの地下牢に入った者はいるか?」


 イルドリの問いかけに、二人は顔を見合せ、首を振る。


「そうか、わかった」


 そのまま、城の中に入り自室に戻る。

 簡単に肩の応急処置をして、ベッドに座った。横になり、天井を見上げた。


「はぁ……。どうなっているんだ」


 地下牢への出入り口は、イルドリが入った階段のみ。他の出入り口など存在しない。


「実行犯だけでは無い、のかもしれんな」


 老人を殺した第三者、それに加えもう一人が事件に関わっている可能性がある。


 イルドリは明日、シリルに伝えようと思い、目を閉じた。


 ※


 シリルに報告した後、イルドリは外の空気を吸いたく、一人空の散歩をしていた。


 城から少し離れると、平和が広がるフォーマメント。

 一応、掲示板には今回起こった事件が書かれてるため、読んでいる人も少なからずいる。


 それでも、やはりどこか他人事なのか、今までと変わらなかった。


 ほんの少しだが、心が洗われる光景に笑みを浮かべる。そんな時、後ろからイルドリを呼ぶ声が聞こえた。


「イルドリ様!!」

「むっ? ガーネットではないか!」


 声をかけてきたのは、親友であるガーネット。

 金髪を揺らし、騎士の格好をしながら白い翼を広げ、笑顔で手を振っていた。


「こんな所で何をしているんだ?」

「少々外の空気を吸いたくてな!! 気分転換に空中散歩をしていた!!」


 素直に言うと、ガーネットは腕を組み、「そうなんだ」と、ジィ~と見ていた。

 なぜ見られているのかわからず、首を傾げていると、ニコッと笑みを返された。


「いつも一緒にいるクロヌはいないんだな」

「普段から共に居る訳ではないぞ? あやつが勝手に勝負を仕掛けて来るだけだ!」

「それを喜んで受けているのは、誰だ?」


 それに関しては、すぐに返答出来ず顔を逸らす。

 イルドリの様子に、ガーネットはクスクスと笑う。目を細め、イルドリへと近づいた。


「二人が仲良いのはいい事だと思う。だが、少しは俺にも構ってほしいぞ」

「うむ? それはすまなかった!」

「いや、なんか、悪い」


 「こいつならこうなるか……」と、頭を深々と下げたイルドリに、冗談を言ったガーネットは逆に申し訳なく思い謝罪した。


「まぁ、ここで話すのも悪くはないが、どこかゆっくり出来る所に行かないか? イルドリとは話したい事が沢山あるんだ」

「わかった!! では、腹も減ってきたところだし、食事処にでも入るか!」


 二人は地面に足をつけ、食事処に入った。

 個室がある店だったため、店員にお願いし、個室へと通してもらった。


 中心にはテーブル、周りには座布団が引かれ、掘りごたつ席なため足を伸ばすことが出来る。


 二人はテーブルを挟み座ると、メニュー表を開き、店員に注文を伝えた。

 料理が届き、箸を手に取り食べ始めた。


「それにしても、本当に久しぶりな気がするな」

「そうだな! お互い忙しく、このように時間を取る事が出来なかったからな!」


 食事を楽しみつつ、昔話に花を咲かせた。


「前までは毎日のように会っていたのにな」

「数十年前まではそうだったな!! 私は父上の手伝いで動いていた! ガーネットが騎士に入ってからは、お互い時間を合わせる事が出来ず、ズルズルと時間だけが過ぎてしまったな!」

「忙しい事は恵まれているとは言うが、忙しすぎても心が虚しくなってしまう」

「それはそうだな! 少しはゆとりが欲しいものだ。――――だが、私は結構ゆとりがあったかもしれぬ…………」


 今まで、クロヌとはなぜかわからないが勝負を幾度となくしてきた。

 自室で、本を読む時間もあり、勉強の時間もあるが、そこまで根詰状態という訳ではない。


 考えてみると、そこまで忙しくはなかったのではないか? そう思い始め、イルドリは首を傾げた。


 何を考えているのかわからず、ガーネットは目を丸くする。


「もしかしたら、私はそこまで忙しくなかったかもしれぬ…………」

「なにがどうしてそうなった?」


 今までの生活を話すと、ガーネットの笑い声が個室に響いた。


「な、なぜ笑う!」

「いや、なぜ難しい顔を浮かべているのかと思えば……ククッ。そこは本気で考えなくても良いだろう」

「しかし…………」

「それに、今の話は、イルドリが充実した生活を送っているという事だろう。イルドリが楽しいのなら、良いと思う」


 食事を楽しみつつ、笑みを浮かべそんなことを言うガーネット。

 イルドリは「そうか!!」と、自分も食事を楽しみ、他愛無い話に花を咲かせた。

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