第393話 不可解な事件
今回の件は、ひとまず事故で片づけられた。だが、腑に落ちない部分が多々あり、シリルが首を傾げながら、鑑識からの資料を見て唸っていた。
隣には、難しい顔を浮かべているイルドリの姿もあった。
「イルドリ、今回の件、お前はどう見る」
「どう見ると言われましても、不可解な点が多すぎるので、何とも言えないです!!」
今回の老人の死は、精神崩壊の後、自殺したという事になった。
死因は、窒息。自身で首を絞め、命を絶ったという事になってしまった。
納得のできない部分が多々ある結果なのだが、それ以外に考えられない。
地下牢には監視カメラと言った物は無く、死んだ時の光景を確認できないのも、悩ましい点。
これからは監視カメラを付けようと決めたところで、シリルはイルドリから目を離し天井を仰ぎ見た。
「あの老人は、辛い過去を持っている。自殺未遂を繰り返していたのもあり、今回の自殺も、今度はうまくいったんだなと思われてもおかしくはない」
「父上は、老人を地下牢に入れた時、どう考えていたのですか?」
シリルが王になってから、もう数百年の時を超えている。
当然、老人が捕まった時の事もわかっているはず。
イルドリが問いかけると、シリルは数秒沈黙。天井を見ていた視線を下げたかと思うと、深いため息を吐いた。
「あの老人が女性を殺したのは事実。そこは覆す事はできん。――本当に殺したのなら、だが……」
「え、それはどういう意味でしょうか?」
「そこもまた、保留となってしまい、そのまま迷宮入りとなってしまった事件の一つなのだ」
言っている意味が分からない。
イルドリはもっと詳細を聞く為、再度問いかけた。
「老人は女性を殺したと言っており、警護班もその時は女性の死体を見たと言っている。だが、何故かその死体がいつの間にか無くなったのだ」
「死体が……?」
もう、動くことがない死体がなくなったなど信じられるわけもない。
誰かが持ち出したのではないかとも思ったが、迷宮入りになっている以上、その可能性も薄いのだろう。
「なぜ、こんなに事件が続くのだろうか。平和に暮らしたいと願うのは、行けない事なのだろうか」
「父上……」
眉間を摘み、項垂れる。
疲れているなと、イルドリはシリルを見るが、何も出来ない。
何も出来ない自分に悲観していると、シリルがボソッと呟いた。
「捕まえてから数年後、ほとぼりが冷めた頃に会いに行ったのだ」
「えっ、父上がですか?」
「そうだ」
まさか、シリルが会いに行っているとは思わず、驚いてしまった。
「会いに行った時はまだ、隙があれば自殺しようとしていたらしく、刃物になりそうな物は渡さないようにしていた」
「まぁ、当然ですよね」
「それでも、自殺をしようとしていたから焦った。俺が行った時も、壁を抉り、脱走すると思っていたが土を口に含めようとしていたのだ」
「それって、窒息を狙ったという事でしょうか」
「そうだろうな。警護班には定期的に見回りをさせていたのだが、正解だったなとその時深く思った」
シリルはイルドリとは目を合わせず、真っすぐ前だけを見て話し続けた。
「俺に気づくと、老人は口に含もうとした土を吐き出した。王という立場の奴が来たのだ、当然だな」
「そうですね」
「それでだ、老人に事件の真相を聞くと、思っていたよりあっさりと教えてくれてな。やはり、悪い奴ではないとわかった」
「その発言が嘘を言っているとは思わなかったのですか?」
「逆に、お前は思ったのか?」
その言葉で、イルドリが老人の話を聞いていることをシリルはわかっていた。その事に気づき、イルドリは言葉を詰まらせる。
何故知っているのか。
イルドリが驚いていると、シリルがクククッと喉を鳴らし、笑った。
「悪い、突拍子もなかったな。クロヌから話を聞いたのだ。それに、話す事が好きな老人だったからな、地下牢の掃除を任せた時に聞いていてもおかしくはないなとも考えた」
「あ、あぁ。なるほど。クロヌでしたか…………」
確かに、クロヌには話していた。
それがシリルに届いていても、特に違和感は無い。
「それで、お前はどう思った?」
「私は、嘘を言っているとは微塵も思えませんでした」
最初は片手間に聞いていたイルドリだったが、話の途中で徐々に感情が高ぶり始めた老人の様子に冷や汗まで流れ出ていた。
あれが全て嘘など、さすがに考えられない。
「同じだ。俺も、嘘だと感じなかった。一切な」
「事件の時の資料とも一致していたのですか?」
「あぁ」
「そうですか」
イルドリも視線を落とし、話を切る。
「まぁ、本題に戻すが、話を聞いた俺は、殺人を起こした老人を助けてあげたいと思った。悲惨な人生というのもあるが、あまりに理不尽すぎるからな」
「確かにそうですね。理不尽極まりなかったと思います。占い一つで、家族を失うなど、誰が予想出来た事か」
誰も予想できないだろうと、イルドリは悲しげに言う。
シリルは頷き、話の続きをした。
「だが、助けたくとも、王という立場上、そう簡単ではない」
王という立場上、私欲で動くわけにはいかない。
アンヘル族達について考えなければならないため、勝手に釈放などは不可能。
王の特権を使いそのような事をしてしまえば、逆に反逆を受ける事になる。
「老人は、それを聞くと、何故か笑い出した」
「笑い出した?」
「そうだ。その後に言った言葉は、『面白い王様だったんだな』だ。どういう意味だと、怒った記憶がある。懐かしいなぁ」
面白い王と自身の父親が呼ばれたのは、どう受け取ればいいのかわからない
イルドリは、苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
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